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ヒロインはあっさり絆される


あの日からギルバート様による怒涛のプレゼント攻撃がはじまった。



「フィー、今日は天丼だって。毎日律儀によくやるねー」



ギルバート様にしっかり私の性格は把握されたらしく、花だの宝石だのではなくまさかの手作り料理が毎日届く。



「天ぷらってはじめて食ったけどうまいな、なにこれ。あの姉弟ホントに貴族なの?」



ギルバート様は昔からカミラさんと一緒に料理をしていて、腕前は相当なものだった。

クッキーとかパウンドケーキとか簡単なお菓子しか作れない私とは大違いだ。あの二人が都に広めたらあっという間に食革命が起きる。



「はぁ…美味しい。幸せ」


夢でしか食べられなかった料理をまた食べられるなんて奇跡だ。就職を待たなくても良くなった。


「フィー、お前もう大分絆されてないか?あの日も二人して真っ赤で戻ってくるし。色気はきかないんじゃなかったの?」


色気にやられたんじゃない。いや、色気にもやられたのかもしれないけどまさかの私目当てだと気付いたのがそもそもの原因だ。


おじさんから蝶よ花よと真綿にくるんで育てられた私は立派な箱入り娘なので、男の人に免疫がない。

夢の中でも全部女子校だったから彼氏いたことない。

乙女ゲームの経験が全ての耳年増なのだ。


そんな私にあんなイケメンが本気丸出しで口説いてきたらそりゃ真っ赤にもなるよね。

チョロインな自覚はあるけれども、あんな口説き文句が毎回出てきたら早々に陥落しそうだ。


「明日姉弟が父親つれて書類持ってくるってよ。まさかの公爵様ご登場なんだけど、俺らがあっち行かなくてもいいもんなんかね?」


知らんけど来るってんならいんじゃないか。





「フィービーさん、会いたかった!」


飛びつきそうな勢いで妖艶な色気を撒き散らしながらギルバート様ご一行はやってきた。


尻尾が見える。艶男なのにぶんぶん振り回してる尻尾が見える。


「お久しぶりです、ギルバート様。毎日美味しい食事をありがとうございます」


お礼をちゃんと言える良い子よ私。

だからこれ以上近くに寄って来ないでね、恥ずかしくて後ろでワクワクしてるカミラさんと公爵様の目が見れない。


おじさんと公爵様は今から別室でお話し合いをするらしい。


「キッチンをお借りしても良い?私お昼ご飯の材料を持って来ているの。その間二人はここでお話していると良いわ」


ニヤニヤしながらカミラさんが言ってくる。


いえ、お客様に料理させて私は何もしないなんてそんな心臓してませんのでお手伝いさせて下さい。米くらいなら炊けます。


「いやあねぇ、貴女は今からギルに口説かれてもらわないといけないんだから料理くらいちゃちゃっとやるわよ。あとは若い二人でごゆっくり♡」


お見合いオバさんみたいなこと言いながら去っていかれた。

せめて彼だけでも連れてって欲しかった。



「ええと…お元気でしたか?」


甘々なセリフを吐かれちゃたまんないので先に声をかけてみた。


「元々つまらなかった学園がもっとつまらなくなりましたよ、早く毎日学園で貴女に会えるようになりたいです。貴女を思いながら料理をしている時だけが幸せでした」


先制意味なかった。


サラッと言われればそんなにダメージない筈なのに、真っ赤な顔してテレテレ言ってくるからすごい衝撃。


「ありがとうございます…?」


迂闊なこと何も言えねぇ。純情艶男恐ろしい。


「今日から仮とはいえ婚約者として会えること、本当に嬉しいです。僕頑張るので、仮をとっても良いと思ったらすぐ教えて下さいね」


頑張らなくて良いです、もう仮なんていらない気もしてます。あなたの本気は心臓に悪いです。


「敬語もやめてくださいね、僕も徐々に崩していきますし。フィーって呼んで良いですか?僕のことはギルでよろしくお願いします」


ガンガンくるな。


「…ギル様で良いですか?ちょっとこれ以上はまた今度が良いです。ドキドキしすぎて心臓持ちません」


「ああ…っ、本当に可愛い!好きです!結婚して下さい!」


「可愛いのはお前だ!…くそぅ……こんなんでいいならもらって下さい!」


キャパオーバーでうっかり返事しちまった。



お前とか言っても全く気にせずギル様はキャーキャー喜んで私にちゅってしたあと、そんままおじさんたちのとこに報告に行った。


ヤリチンにはならなかったけどさすがヤリチンの素質があった男、両思いになって三秒後にキスとは恐れ入る。

貞操の危機も近いぞこれ。


慌ててこちらにやって来たおじさんは真っ赤で悶える私を見て、


「絆されるのはやすぎだろ!あああだから顔の良い男は嫌だったんだ!俺のフィーがぁ~!!」


失礼な、顔に惚れたわけじゃないぞ。

いや顔もかっこいいけど。


カミラさんは泣いて喜んでた。

公爵様はギルバートをよろしくと一言だけ声をかけて無表情で帰ってった。


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