謝罪と制裁
……どこまで書いてもきりがないんで、一応今回ので完結ということにさせていただきます。
またネタが浮かんだら、載せたいなぁ。
が、わたしが書くものは、どうしてか甘くならないので、ご注意。先生と真紀ちゃんの絡みを書くのが一番楽しいからしょうがないのかな。
「先生」
柔らかい声。そう、これは外行きの声だと知っている。回りの先生方は、気付いているのかいないのか、『おお、黒田』なんて親しげに声をかけている。
「菊池先生に用か? 何だ何だ、仲いいのか?」
「いいえー。有田先生、そういう話好きですよね。わたしの好きな人知ってるのに」
有田先生、あんまりつっこみすぎると、そのうちざっくり刺されますよ、と声も出さずに主張する。まぁ、あの先生なら、生半可な嫌味は通じないか。
「美術室開けてください。藍華の絵を取りに行くんで」
にっこりと可愛らしい笑顔で小首をかしげ、彼女は『女』を演出する。
「平田の? あぁ、まだ取りに来てないな。頼まれたのか?」
「いいえ。好きなの、一個持ってっていいって。もう帰りますから。イギリス(あっち)に」
そんなの嘘だって分かってる。彼女の本当の目的が何なのか。分かっていて、逃げられないから、仕方なく鍵を手にとって席を立ち上がる。その後ろから、小さな声が聞こえた。
「おめでと。腰抜け卒業したらしいですね?」
あぁ、こいつはこういう奴だよ。
「で、何しに来た」
そう言った瞬間、黒田は頭を下げた。
「ごめんなさいっ。殴っちゃって」
許してくれます?
「……他の奴なら騙せんのにな」
「だから嫌いです。菊池先生」
涙目でこちらを下からのぞきこむ彼女ににやりと笑うと、小さな舌打ちと共にいつもどおりの声が返ってきた。
「一応謝りに来たんです。自分の発言ですから」
「全然嬉しくないけどな」
美術室のイスに座りながら、黒田を見つめる。すると小さく苦笑いして、彼女もイスへ座った。
「で、付き合うことになったんですか? それともすっぱり、きっぱり『好きでした』って言われたんですか」
二人にとって、『過去形』はもっとも辛いもの。
もはやそこに、影も形もないのだと、思わされる『過去形』の言葉が一番その身に沁みる。だから彼女はわざわざ言ってるのだ。『好きでした』と言われたのかと。
「言われてねぇよ」
「じゃぁ、付き合うことになったんですか?」
あいつから聞いたんじゃないのか? と問えば、顛末まであの子が詳しく語ってくれると思いますか? と真顔で返された。
なるほど、あいつが語るわけないか、と思い直し、なら俺なら話すと思ってるのか、と少々おかしくなる。
「いや」
「イヤって何……??」
声が少しだけ、低くなった。ぐっと、部屋の温度が下がった気がした。
「あいつ、まだ高校生だから」
「だから、何ですか? まさか、4月1日になったら言う、何て甘いこと考えてませんよね」
甘いこと、と言ったかこいつ。
「黒田、お前なぁっ」
「また藍華が変なこと考えて、振られるとか思ってたらどうするんですかっ」
「「……」」
しばらくの沈黙のうち、もう一回、聞きなおす。今聞いた言葉が嘘ではないか確かめるために。
「黒田、もう一回」
『振られる』? 誰が、誰にだ。
「藍華が、あんたに、ですっ!!」
だん、と机が叩かれた。
「何て言ったんですかっ!?」
「4月、1日に言おうと思って」
「思って?」
何で俺は、10程も年若なこいつに怒られてんだ?
「電話しよ……」
言い終わる前に、今度はグーで殴られた。
「ばっかじゃないの?!」
「おい、黒田」
「あんたみたいなのが好きな、藍華の気が知れないっ。今まで散々傷つけておいて、それでまだ待たせるんですか?! ふざけてんのっ。この腰抜けっ!!」
……ただ好きな人に好きというだけが恋じゃないと言うことは知っていた。だけど友人が最難関って。