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drop(改訂前)  作者: いつき
番外編
37/43

過去形文字

『淡色便箋』の中に出てくる手紙の全貌。全く誰も見たくないと言うのは百も承知でやります。

先生の失恋話だと思ってくだされば。(本人は否定しますが)

先生は一回、手酷く振られればいいと思う。(作者としてあるまじき言葉)


ブログより、加筆修正あり。

 菊池先生へ



 卒業式の日にこんな手紙を渡すんだから、中身は大抵想像がつくんじゃないでしょうか?

 これまでのお礼か、はたまた……、ときっと思ってるんだろうな、と思いながら書いています。でも先生のことだから、読んではくれると信じています。

 先生、変なところで律儀だから、そのまま捨てるなんてこと、ないと思います。ライターで火をつけて、即抹消だと、私は泣きますよ?

 この手紙の意図、正直に言えば後者、でも建前は前者と言うことにしておきます。先生、一年間本当にお世話になりました。


 突然、今日になって、卒業式の前日になって『もう会わないんだなぁ』という実感がわいてきました。

 もう先生のところまで課題を持っていくこともないし、日直の仕事を手伝ってもらうこともないし、口止め料にアメをもらうこともなくなるんだな、と思っています。

 クラスの中で唯一最後まで敬語だった私を、先生はどう思っているのでしょうか? でもちゃんと理由があるんですけど、ここには書きません。びっくりするだろうから。

 

 先生に忠告することが一つ。

 タバコは学校で吸わないように。見つかると絶対困ると思います。というか、クビ? うちの校長先生大っ嫌いだから。

 アメ一つで、生徒が口をつぐむなんて思ったら大間違いですよ、と見事に餌付けされた私から忠告しておきます。

 説得力ない、って笑ってます? でも、クビになってから後悔しても、遅いでしょう?

 それとも、『俺がバレるようなヘマするとでも?』って笑ってるのかな。


 遅くて早い一年間でした。悩んで、先生にあたって、怒られてばかりだった気がします。こう書くと、結構な問題児みたい。

 書くと、いろんな出来事が思いだして、少し大変です。すごく長くなりそう。

 でももう、これで全部終わるんですね。明日で。先生が読んでる日で。

 先生のことを考えるのも、これが最後だ、と思うと感慨深いです。


 と、ここで本来の目的を書いておきます。いまさらながら緊張している自分がいて、目の前に先生がいなくてよかった、と心から思っています。

 目の前に、もし先生がいたら、私はきっと恥も外聞もなく、泣いていると思うから。絶対に泣かない、と思いつつ、泣いてしまうと思うから。


 私は先生のことが好きでした。


 驚いてますか? それとも結構、バレバレだったかな? でもそれも最後です。

 先生、今まで本当にありがとうございました。

 

 先生がクビにならないことを心より願いつつ。


 

                                 一介の生徒より 


 P.S

  いつか先生が、この手紙のことを忘れてくれることも、祈ってます。

  アメ、私も好きになっちゃったみたい。もし会うときがあれば、この手紙の『口止め料』ということでお渡しします。




 




 過去形の告白は、男の手から滑り落ちて地に付いた。

 男はそれを拾い上げ、タバコを取り出す。それを口元に持っていき、眉を寄せて片付けた。変わりに出したアメを口に含むと、まるで苦いものを口に入れたかのように渋い顔をする。

 力のはいった手の中で、紙は歪み、ぐしゃりと音を立てる。


 それが合図だったように、男は校門から中へ入った。


「追いかけれるかよ……」


 だって手紙の中に綴られていたのは、過去形の言葉。

 自分に向けられて、もうどこにも残っていない、過去の中だけで生きるもの。

 それを突きつけられる勇気も、確かめる気持も、ここにはないのだから。


 く、暗い。

 何、この人。暗すぎる。……ってか、何年も引きずるんなら、きっぱり諦めるか振られるかすればよかったのに。

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