拍手採録
拍手に載せてたしょうもないネタ。
基本、本編のイメージとは異なるバカ話。
無法地帯というのは、ここをさす言葉だと思う……。
「智く~ん! もう一本ちょうーだい」
「そーうー。好きーーー」
「せんせー、おいしい? これ」
三姉妹、上から朔華、春華、藍華はそろって片手に缶を持っている。
そんなにアルコール度の高くないチューハイなるもの。
「朔華さん、もうやめようね、危ないから」
「春華、お前飲みすぎ」
「それはアルコールが高いからダメだ」
対して、男たちはあまり酔っていない。というか、まったく酔えない。
「「「どうしてよ!!」」」
三人が三人とも完全に理性を失っているからだ。
ついさっきまで、『あんまりおいしくないよね』と言いながら飲んでいた酒を、今は争って飲んでいる。
「いいじゃない! あたしが成人したんだから。先生はずっと飲んでるんでしょ?!」
藍華は缶を片手に叫ぶ。
「ほっといてよ~、瑲。私、もう二十一よ? 大人よ?」
「いやいや、酒に飲まれてるうちはまだ子供だろ」
春華の言葉に瑲也が反論するが、次の瞬間には黙らせられる。
「瑲、何で、そんなこと言うの……」
もう、なし崩しもいいところ。
「智くん、もう一本だけ、ダメ?」
こちらもこちらで上目遣いに負けている。
「だ、だめ」
「本当に、ダメ?」
ほら、もう負けるまであと一歩。
「これで、終われる?」
「うん!!」
もう落ちた。
「平田、お前、今日はじめて飲んだんだろ? もう、絶対駄目だ」
「ほっといてください! あたしを『平田』と呼ぶ菊池先生に用はありません! 学校に帰ったら良いじゃないですか。菊池先生」
こちらはケンカ一歩手前。雲行きが非常に怪しい。
「平田!」
「また呼んだ! 菊池先生、あたしの何なんですか!!」
べこり、と缶がへこむ。それを菊池は取り、ゴミ箱に放った。
「あー、はいはい。恋人です」
何気なく言うと、藍華は満足したように笑い、菊池に抱きつく。
「よくできました」
にこーと笑って、……そのまま落ちた??
「寝落ちかよ」
小さな突っ込みも届かぬまま。
「智くん、大好き!!」
「ありがと、どうせ明日には忘れてるけどね……」
苦笑いの智と上機嫌の朔華。
「瑲~~。おんぶして」
「あぁー、はいはい。お前、そのくせ、直せよ」
しぶしぶ(だけど嬉い)瑲也と、春華。
「おい、二階に上がれ」
不機嫌そうな菊池と、藍華。
そんな少しはた迷惑な、三女の成人日。
「もうお前には酒飲まさない」
「朔華さん、お酒弱いだなぁ。可愛い」
「酔ったら甘えるだけ甘えて、忘れるんだ……こいつら」
三人の男の気苦労を知らぬまま、夜は更ける。
――――――――――――――
酔いネタ。この三人は酒癖が悪そうでしたんで、書いてみました。
一番の苦労人は、普段甘えてこない春華の世話をする瑲也くんです。(ご愁傷様)
一番楽しんでるのは智くん。
SOMETHING FOUR
Something old, something new
Something borrowed, something blue
And a silver sixpence in your shoe (BY マザーグース)
何か一つ、古いもの 何か一つ、新しいもの
何か一つ、借りたもの 何か一つ、青いもの
そして……六ペンス銀貨を靴の中に……
古いものは、母からの指輪。祖母からのもらい物らしい。
新しいものは、白い長手袋。
借りたもの、幸せな結婚生活を送る姉から真っ白のハンカチを。
青いもの、衣装を止めるガーターにリボンを結ぶ。
六ペンス銀貨、廃止されたので随分と姉たちが探していた。……これも借りものらしい。
「そろそろお時間です」
「あ、はい」
白いドレスは小さい頃から憧れていた。でも、自分は果たして着れるのか少し心配だった。
姉たちが幸せそうにしているのを見て、いつかあんなふうになれたら良いとは思ってた。
だけど……結婚はとても遠くて、手の届かないものかもしれないって、思ってた。
「大丈夫?」
姉が心配そうに聞いてくる。大丈夫、と返したいのに緊張から声が出なかった。
「『誓います』って言えなきゃ、結婚できないよ?」
もう一人の姉が、笑って言った。それに笑い返すと、大丈夫と返される。
「もしダメでも、帰ってくる場所はある、って言ったら……縁起悪いかな?」
その隣に、素敵なだんな様がいるくせにそんなことを言う。
「優斗さんは、大丈夫だから」
答えると、のろけてる、と姉二人は笑った。
「まぁ、私たちが用意したものがあるから、大丈夫だよね」
「何渡すか、本当に迷ったもん。わたし」
「「まぁ、大丈夫だよね。結婚おめでとう」」
よくシンクロする二人だったが、今日もそれは健在だった。
「お父さんとお母さんは?」
「あぁ~、最後の要も嫁入りしちゃうから泣いてるらしいよ」
「わたしのときは『覚悟はしてた』とか言ってたのに」
姉の言葉に少し涙ぐんでしまった。
それを見て、怒った顔をするのは下の姉だった。
「お化粧落ちちゃうでしょ? 新郎にそんな顔見せちゃダメよ」
そういいながら、一番泣いてたのはその姉なのに。
「春ねえだって、泣いてたじゃない」
「それは……瑲が変なこというから」
『一生、後悔させないから』
そんなこと言われて、泣かない姉ではないな、と思いなおした。
「これまで、お世話になりました」
そう言うと、二人の姉は一斉に抱きついてきた。
「もう! 我慢してるのに」
「やっぱりあんなやつに藍華を渡したくない!!」
二人の言い分に笑いながら答える。
「だって、好きなんだもん」
「「分かってる(わ)よ。そんなこと」」
それからやっと部屋から出た。
「藍華、おめでとう」
下の姉の夫が笑う。
「おめでとう」
上の姉の夫は少し苦笑いだ。さっきの言葉が聞こえていたらしい。
「ありがとう」
「春華、昨日、本当に泣いてたからなぁ」
「朔華さんは笑ってたけどね」
二人の言葉を聞き、少し想像通りなことが起きていたことを知った。
「結婚、後悔しない?」
そういうと二人は驚いた顔をして、そして最高の笑顔を向けた。
「「しない」」
断言する二人に励まされて、前へ進む。
父親の顔を見ると、本当に不意に泣きそうになった。
「お父さん」
「娘が三人というのは……やっぱり悲しいな」
ぼそりと言うので、組む腕に力が入った。
「幸せになるからっ」
「あぁ、お前のお姉ちゃんたちもそう言ったよ」
つくづく三姉妹はたちが悪いな、と少しだけ笑う。
「いい人だから……っ、何の心配もしてない」
嘘ばかり、そう思ってしまう。心配で、仕方ないくせに……。
扉が開けば、きっと目に入るのはあの人だけ。
心配事も、不安な気持ちも、少しだけ忘れるのだ。
だって、この日の姉たちは二人とも幸せそうで、誰よりも綺麗に写ったから。
HAPPY WEDDING
きっとここから始まる物語だってあるはず。
――――――――――――――
藍華ちゃんの結婚式でした。お姉ちゃんたち二人が一番張り切りそうだったので……。
『something four』は西洋から長く伝わる花嫁さんの言い伝えです。四つのものを身につけて結婚すると幸せになるとか。
『白雪姫』
王妃様→朔華さん(『三姉妹シリーズ』) 鏡→菊池先生
ある日、それはそれは綺麗な王妃様が鏡に向かってこう唱えました。
「鏡よ、鏡よ、鏡さん。世界で一番美しいのはだあれ? 春ちゃん? 藍ちゃん?
あー、智くんも肌綺麗だよね。あっ。瑲くんもかっこいいし」
それは一番といいませんよ、朔華さん、と突っ込む人は誰もいない。
その代わり、めんどくさそうな声が聞こえた。
「はぁ? そんなの人の主観だろ。たかだか鏡に聞くなよ。俺、今テストの採点中だし」
「えぇー。せんせ……じゃなかった鏡さん。ちゃんと答えなさい。私は怖い魔女の王妃ですよ」
全然怖くありませんよ、という突っ込みは入れないことにする。
「ちゃんと言ってくださいよ。そうでなかったら、お話進まないんだし」
「じゃぁ、藍華」
事も無げに言うので、王妃様は小さく眉をひそめた。
「そこはもっとこう、なんて言うんですか。
雪のように白い肌、とか黒檀のように黒い髪、とか褒めてくださいよっ。うちの藍華ちゃんを褒めるんですから」
怒らないんですか、朔華さん、とついに隣から声が聞こえた。
あまりにも遅いので、狩人役の少年が出てきたのだ。
「だって、智くん。先生がすっごくやる気ないんだよ? ダメでしょ!!」
「藍華の髪、黒髪じゃないしな。しかも白雪姫って当初七歳の女の子だろ」
今でも犯罪くさいのに、これ以上年齢下げてどうする、と突っ込む鏡。
「あー。そうですよね。今でも十分、犯罪っぽいですもんね! ロリコンって疑われてますもんね」
「池平、卒業したからって態度がでかいぞ」
もはや白雪姫の題名はどこに、と突っ込む人間はいないのだ。白雪姫役が誰かも本人たちは知らない。
「きく……。鏡さん、その藍……じゃなかった、白雪姫のほうが私より綺麗なの。まぁ、許せないわ。こ、ころ……」
台詞がとまる。
「朔華さん?」
「智くん、私、言えないよーー。殺しておしまいなさいなんてーー」
そもそもこの人が王妃に似合わないと誰か言う人はいなかったのだろうか。
オマケ
「ねぇ、瑲、わたしが白雪姫役なのに、何でみんなで藍華の話してるんだろうね」
「いや、俺、一人七役だし(小人役)」
「春ねえ、どうやってキスの真似するの? (王子役)」
「先生もね、台本手元にあるんだから、白雪姫って答えればいいのよ!
何で、藍華って言うのよ。まぁ、確かに? 藍華のほうが可愛いし? 美人だし? 何せ恋人だし?
わたしなんてね、瑲がいなきゃ彼氏なんてできなかっただろうしね」
「おーい、毒りんごに酒いれたの誰だぁー。
春華が酔って、絡んでくるぞ」
「あ、俺。それ」
「池平、お前馬鹿だろ」
「ごめんねーー。藍ちゃん。殺しておしまいなさいって言いそうになってー。こんなだめなお姉ちゃんを許してーー」
「は、はあ? 朔ねえ、大丈夫? 智さん、お姉ちゃんを何とかしてください」
こうして劇は崩れていく。
――――――――――――――
白雪姫が城から出ることもなく終わってしまった。
……鏡が先生と決めたときから、お話進まないなとは思っていたけれど。
『人魚姫』
「わたしはしない」
「「えー。どうして」」
春華の言葉に、智と朔華が声をそろえる。
「だって、瑲はそんなことしないもん」
「「のろけかよ」」
今度は優斗と藍華が笑った。ちなみに話に出てきた春華の彼である瑲也は赤くなって下を向いていた。
「藍華がすればいいじゃない」
「え? あたし?」
今度は春華が藍華を指名した。自分の顔を人差し指で指し、大人びている顔をかくっと傾ける。
隣の優斗が少しだけ苦い顔をした。
「えー。いいけど」
「「「「いいの? (かよ)」」」」
他の一同が目を丸くした。すると藍華がにこっと笑う。
ああ、可愛い、と妹バカな姉二人は思う。もちろんそんな彼女たちの性格を知っている彼氏’sは苦く笑っていた。
いつものことなので、もう慣れてしまったらしい。
いざとなったら、自分たちは妹以下だろうという自覚があるのだ。それでもいいと思ってしまう自分たちの馬鹿さ加減にも呆れている。
「だって優斗さんだったら、助けたあたしのこと忘れないもん。だからあたしが泡になる必要もない」
もしかしたら、人魚から人間にならなくてもいいかもしれない。
「海にいたってきっと見つけてくれるよ」
「あっそ」
にこっと可愛らしく笑う藍華の顔を見て、春華は眉をひそめて気のない返事をした。もともと姉と妹に変な虫がつくことを嫌っていたのだ。
それがすぐに改善されるとは思わない。
「何それー。朔ねえはどう??」
「うーんとねー」
あごに人差し指を当て、上を向いて思案する姿はまだ幼い。六人の中で二番目に年上だと、知らない人は信じないだろう。
どう見たって優斗→瑲也→智→藍華(三女)→春華(次女)→朔華(長女)の順だ。
「智くんは私が助けなくても大丈夫だよー。あ、でもときどき海面にでてきて会えるから、きっと仲良くできるよね」
「朔華さん、もう、大好き」
「勝手にやってろ」
瑲也のつっこみは的確かつ厳しかった。
オマケ
「先生」
「あ? 何だ、いつきか」
「今回、どーしてあんなにノロケばっかりなんですか? そもそも人魚姫、劇してないじゃん!!」
「だって」
「だって?」
「彼女バカであり、彼氏バカだから」
「あ、もういいです。あてられる話なんて聞きたくないんで」
「あぁ?! お前が聞いてきたんだろ」
「ノロケなんて、一分で充分です」
――――――――――――――
ノロケ、ノロケ、ノロケ。
お腹いっぱい。
『ラプンツェル』
「絶対ダメっ!!」
「何で」
「何でも」
台本片手の春華が、藍華に向かって叫んだ。台本を取ろうと、藍華はもがくが、春華は逃げ回る。
春華の方が小さいので、高いところへ持っていくという手は通用しない。
「春華」
「瑲はどいてて」
嗜めようとする瑲也は簡単に押し切られる。瑲也はしょぼん、と肩を落として近くのイスに座る。 『嫌われちゃったのー?』と空気を読まない朔華が慰めるように肩を叩いた。
「何やってんだ」
「優斗さん」
「菊池先生は黙っててください」
やっと登場した優斗にも春華は冷たかった。
「わたし、絶対反対です。『ラプンツェル』の姫役が藍華で、王子役が菊池先生とかっ!!」
「あ、知ってるー。それ」
春華の激昂の理由がやっと分かって、朔華は口を挟んだ。
「あのねー。昔、あるところに子どもの出来ない夫婦がいたの。
それで、ある日妻がやっとのことで妊娠するんだけど、魔女の家のラプンツェルが食べたいとかわけの分からないことを妻が言い出して、夫は魔女の家に採りに行くの」
「あー、お姉ちゃん」
春華が止めようとする。この姉、いまいち言っていいことと悪いことの境界線があやふやなのだ。しかもこういうことになると止まらない。
「夫は魔女に見つかるんだけど、魔女と自分の子どもと交換に好きなだけラプンツェルを採っていいって言われるの。それで、生まれてすぐ女の子は魔女に引き取られちゃってー。
で、女の子の長い髪を梯子に魔女は毎日上る。
……髪が伸びるまでどうしたのかな? もしかして、絶食? しかも髪で上るって、絶対痛いって」
「朔華さーん??」
智も止めようとする、が。
「で、ある日王子様が見初めて、同じ方法で、ラプンツェル、あ、女の子の名前ね、この子に会いに行くの」
そろそろやめさせた方がよくないですか、皆さん。
「でー。ある日、ラプンツェルがにん……」
「わぁーー。そこまで、もう分かった。先生にはやってもらわないから」
智が焦って、朔華の口をふさぐ。春華はきっと菊池をにらんだ。
「非常にお似合いではあると思いますよ? 七年間も失明したまま行方不明の王子様? ご自分のしたことへの責任も取らないなんて、最低っ!」
「おいおい、俺はちゃんと」
「わぁーっ。生々しいこと言わないで!!」
「お前が無責任とか言うから」
まだまだ続く、よく分からない会話。
オマケ
「じゃぁ、誰がする? 藤田がよくない? 絶対、変なこと出来ないし」
「あー。いいかもー。瑲くん、優しいからね」
「あの、朔華さん。褒められてる気がしないんですけど」
「褒めてるよー」
「褒めてないよ、きっと」
――――――――――――――
こんな感じの雰囲気ばっかりだ。