第三十二話 『恋色ドロップ』
しんと静まった学校に足を踏み入れた。もう少し騒がしいかもと思っていたが、思ったよりずっと静かで驚く。
そういえば、まだ始業式を迎えていないのだったな、と思い出した。靴箱に向かう道を歩いている途中で、そこに『平田』の文字がないと理解し、足を止めた。
くるりと向きを変え、改めてどこから入ろうか迷った。この場合、正面玄関から入るものなのだろうか。
今までしたことのなかった心配をしている自分が、ひどく滑稽に見える。どこから入るか、なんて考えたこともなかった。
そろそろと、まるで不審者のように正面玄関へ入る。あら、と声をかけられて頭を下げた。事務室の職員の人だ。
「どうしたのー。卒業したのに」
まさか、と心配そうな顔をされたので、『美術室に忘れ物です』と言い訳した。
いや、嘘ではないが。すると、その人は目を和ませ、大変ね、と小さく笑った。大変なのはこれからです、と言いたかったが、この人に言ってもいけないだろう。
「職員室に行って、鍵、とりに行かなきゃ行けないですからね」
彼は、『どこに』とは言わなかったので、とりあえず職員室に向かうつもりだ。
事務室を通り過ぎ、三階までの階段を踏みしめるように歩く。いつもは長いと思っていたその階段はひどく短くなった気がした。こんなに早く着くなんて、心の準備がまだなのに。
中棟の三階にある職員室に向かい、一歩踏み出し、一度くるりとその場で回れ右をした。
「平田ー。どしたー?」
「あ、有田先生。こんにちは。えっと、美術室の絵を取りに来たんです。おきっぱなしって、恥ずかしいから」
すごい、自分で褒めてあげたい。
ここまでのでまかせがさらりと出てくるなんて、人間危機に晒されれば、きっとなんでもできてしまうんだろうと、今実感した。
嘘をついている罪悪感半分に、あいまいに笑って見せると、『そうか』と返された。
「でも、坂野先生、今日来てないぞ。副顧問って、誰だっけ」
「えっ、とー。菊池、先生です」
ちょっと途惑ったのはご愛嬌。ここまで平常心を保てたら、先生にあんなみっともない姿なんて見せなかった。
「菊池ー、は。今いないな。どこ行った、あいつ」
今すぐ、美術室に行きたくなる。走って、彼に問い詰めたいことがたくさんある。
それなのに、足も動かない。うまく笑えてる自信がない。職員室の蛍光灯がにじみそうになる。慌ててうつむくと、後ろからぽん、と頭をはたかれた。
「いるよ。ここに。有田先生、さっき生徒進路室に行くって言いませんでしたっけ?」
「おー、言ったかもな。嫌味止めろよな。いかにもな敬語」
「年上に敬意を払っただけですが? 『有田先生』」
「悪かったって」
有田先生が短い髪をガシガシとかき乱し、こっちを見て小さく笑った。
子供のようなその笑顔に、少しだけ安心する。そうだ、ここはまだ何も変わっていない。あたしが『生徒』だったときと、何一つ。
この先生にしてみれば、あたしはまだ『生徒』なのだ。
なら、彼にとって今あたしは、何なのだろう。
不意に思い、ちらりと彼に視線を返す。しかし菊池先生の顔からは何も読み取れず、思わず顔を伏せた。目が合うと非常に気まずいのはどうしてだろう。
「で、平田。美術室でいいか?」
「あっ。はい。お願いします」
慌てて頭を下げると、彼は職員室へ入り、鍵置き場から一つ鍵を取り出す。
坂田先生が買って来た、よく分からないキーホルダーがついているそれは、一際目を惹くのだ。それを見ていると、横からこっそっと有田先生がつぶやいてきた。
「卒業式前後くらいから機嫌悪くってさー。卒業式の次の週くらいがピークで、めちゃくちゃ怖かったんだって。でも、なんか昨日くらいから機嫌よくなって……。
よく分かんないよなー。あいつ」
生徒がいなくなって寂しい、とかか? と呟きつつ首をかしげる有田先生に、むしろあたしが聞きたい。彼が不機嫌な理由が。彼の機嫌が悪くなった理由が。
もし、その機嫌の良し悪しに、あたしが関係あるなら、嬉しいけど。
「ほら、行くぞ。一人で持って帰んのかよ。本当に」
あきれたような声で言う彼の後に続きつつ、有田先生に頭を下げる。いい事を聞いたことにしよう。
「気ぃつけて帰れよ」
「はーい」
無性に、今逃げたい。
無性に、彼に触れたい。
無性に、『好きです』と告げたい。
そのどれもが自分の中に確かにあって、少しだけ怖くなる。自分が自分でないような気がして、どこか地に足が着いていないような気がして。
会話のない空気はもう慣れているはずなのに、妙に居心地が悪くて何度か声を上げようと口を開く。それでも、その背中がどこかあたしからの会話を拒絶しているような気がして、口を閉じた。
大人しく着いていくと、四階の美術室についた。
絵を置いたときと、何にも変わっていなくて怯えるように足を引く。部屋へ入るのを止めようとしたあたしに気がついたのか、彼はあたしの手首を掴み、そのまま引っ張って中へ入れた。
「ど、して……、あのときのままなんですか」
「どんだけ俺が驚いたか、体験してもらおうかと思って」
わざわざ出してきたんだよ。嘘までついて、と彼が苦く笑った。
とん、とイーゼルに立てかけてあるその絵に手を置き、彼はこちらを向く。そしてあたしの顔を見て、眉を寄せてこっちを向く。
「平田」
「っ」
怯えるように、一歩下がる。
何がそんなに恐ろしいのか、悲しいのか分からないのに、体が震えてどうしようもなくなる。自分を抱きしめるようにして腕を掴み、肩の震えを止めようとするのに、どうにもできず首を振った。
「何が怖い」
「先生の、沈黙」
何か話して。黙らないで、何も考えないように、矢継ぎ早に言葉を発して。
そうしてくれないと、何を言われるのか考えてしまう。
「じゃぁ、早速本題から入るか」
先生の声が、深みを帯びる。甘くも、厳しくも、何ともない。
ただすっと、授業で出す、よく響くだけの声ではなくなった。その違いが何なのか、分からないけれど、正しくは言えないけれど。ただ違うとは言い切れた。
「お前は、何を想って、この絵を描いた?」
知ってるくせに。そう口に出そうになる。
心の中に溜まる、彼を責める言葉がいくつもいくつも口から零れそうになる。自分を守るための言い訳か、単純に彼の行動を責める悪口か。そんなことはどうでもいい。
「……言わなきゃ、ダメですか?」
卒業式の日、確かにあたしはメモ用紙に書いたのに。
彼の足元に積もったドロップが、何を示すのかは知らせぬまま。自分の気持ちを、幼くも押し付けたはずだ。本当は『過去形』で書いてやろうと思っていたのに。それはできないから。
「あたしはっ」
「俺は、お前を手放したくないと思った。できれば、そばにいたいと思った。そばにいて欲しいとも、確かに思ったよ。今追いかけなきゃ、それは絶対に叶わないから、だからお前を追いかけた。
迷ったけど、殴られて目が覚めたし」
唐突に、そう言われた。
「何て言ったら、お前に通じる?
お前みたいに言葉以外ではっきりと伝わる術を、俺は持ってから……どうしたらお前に伝わるか教えてもらわないと、俺にはどうしようもない。でも、いい言葉が思いつかないんだ」
何年も、日本語話してんのにな、と先生は苦く笑う。
「お前に伝えてもらった気持ちを、きちんと分かって、受け止めてるって理解して欲しいんだ」
何て答えるのが、正解なんだろう。どう返せば、いいんだろう。
あたしも先生が好き、先生もどうやら嫌いではないらしい。だから?? だから、どうするのがいいの?
「あの……、えっと。先生は、あたしのことが『恋愛感情的』な意味で好きなんでしょうか?」
物事には、雰囲気とか、その場の勢いとか、多分そういうことで出来上がっている要素があるとは思う。
でも、こういう聞き方って、多分スマートな聞き方ではないんだろう。その証拠に、先生はしばらくぽかんとしたようにこっちを見た。
あぁ、もう穴があったら入りたい。というか、今すぐここから消えてしまいたい。
そろそろと扉のほうへ近づき、そのままダッシュで美術室から飛び出したくなった。もう先生の目を見ていられる自信がなかった。
「あのっ、間違ってるんならいいんです。あたし、物分り悪いみたいで、先生の言葉がいまいち伝わってないんでっ。どういうふうに、先生の言葉を、受け取って……」
言葉が止まった。先生がこちらへ手を伸ばし、そのままあたしを引き寄せたからだ。
何故か今日は白衣なんて着ていなくって、いつもは脱いでいる、スーツの上着を着ていた。ネクタイが頬に当たったところでやっと、抱きしめられているという事実に行き着く。
慌てている心情半分、どうしてここで抱きしめられたのかという疑問を持っている冷静な自分がいる。
「ちゃんと」
先生の、吐息のような声が上から降ってきて、心臓がびくりと跳ね上がった。
こんなに密着していたら、ばれるんじゃないだろうか。自分の気持ちとか、彼に対する感情とか全部。体を通して、伝わっていくんじゃないかな、と思う。
「伝わってるんなら、そう言えよ」
ちょっとだけ不機嫌そうに、それでも隠し切れない喜びをあらわにして、彼は腕の力を強くした。それが何を示すのか、やっと分かった気がして、おずおずと顔を上げる。
「先生、あたしは、先生が好きですよ」
また、涙がこぼれ始める。卒業式のように、制限なく涙がこぼれた。
『好き』という言葉だけでは、たった二文字だけでは表すことの出来ない想いが、次から次へと目から零れる。
絵の具でも、何でも表せない気持ちが、涙となって彼のスーツに吸い込まれていった。
出来れば、彼にもこうやって伝わって欲しいと。涙がスーツにしみこむように、心が彼にしみこんで欲しいと思った。
思っていることが全部でなくてもいい。
一番伝わって欲しいことだけ、それだけでも、くっついた場所からしみこんでいけばいいのに。そうすれば、言葉にしなくとも、絵にしなくとも、お互いに分かり合えるのに。
「絵でも、言葉でも、表せれないくらい、先生が好きです。先生が追いかけてくれたとき、期待しちゃうくらい好きです」
言葉の選び方も、伝え方も、まだまだ未熟で。
ただ単純に『好き』としか、言えない。どんなふうに好きなのか、どれくらい好きなのか、そんなこと伝えられそうになかった。
大人になれば、うまく伝えることが出来るんだろうか。
「もし先生が、『恋愛感情』で好きなんじゃなくても、あたしはっ」
「好きだ」
あたしの言葉に覆いかぶさるように、彼は言った。
それから笑って、『照れるな』と頬を赤らめる。そんなところが、どうしようもなく切なくなって、また涙を流した。目も赤いし、涙声だし、鼻の頭だって真っ赤だろう。
そんなあたしを見て、そういう言葉を出してくれる彼が、たまらなく愛しくなった。
「お前のことを考えると、年甲斐もなく温かくなったり、お前の初恋を考えて嫉妬したりした。それくらい、お前が好きだ」
『好き』って言葉、あんまり好きじゃないんだけどな、と先生は笑う。
「そういう言葉が、得意じゃないんだ。あんまり。型どおりで、定型句みたいで、それさえ言えば『恋人』みたいな感じで」
だけど、これ以外にあんまり言葉ってないんだよな。恋愛感情を表すときに。
「お前が藤本を『初恋の人だ』って言ったとき、どんな気持ちだったか分かるか?」
嫉妬なんて、随分してなかったのに、冷静でいられなくなったなんて、お前知らないだろう?
「お前の初恋は、俺。あれは初恋じゃなかったって、言っただろ?」
「だって、初恋は叶わないって言うから」
叶わないと、始めから言われるのはいやだった。
自分でもそう思っているのに、そんなこと言われたくなかった。だから『初恋は瑲さんだ』と言ったのだ。
彼に向けた強がりが、こんな形になって戻ってくるとは夢にも思っていなかったけれど。
「叶うからいいんだ。俺が初恋、そうだろ? 藍華」
こんなときに、その声で、顔で、あたしの名を呼ぶのは反則だろう。
「違うって言ったら、どうするんですか?」
最後の悪あがきをする。しかし先生にはそんなことはお見通しだったようで、まだあがくか、と小さく呟かれた。
そして目を見開く間もないまま、先生の顔が近づいて、あたしの唇にそっと触れた。
「目、瞑れ」
甘い、命令口調の声に抗う術などあるはずもない。
必死に目を開けていようとしていたのも、ほんの数秒で、最後には大人しく目を閉じた。その一瞬前、先生が満足げに笑う姿が瞳に映ったが、見なかったことにする。
なんだか、馬鹿にされている気がしないでもない。だけど、目を瞑らないという選択肢は与えられていないのだ。始めから、あたしには。だから仕方がない、と諦めるように体を預ける。
少しだけ触れて、離れて、また触れる。
どこか遊んでいるような印象を受ける肌同士の触れ合いは少しだけくすぐったくて、身をよじった。恥ずかしいのか、どうなのか。
それさえも分からず、くらりとめまいがする。
「次にそんなこと言ってみろ。今のじゃすまないから」
どうするんですか、とは怖くて聞けない。今すぐ実践されそうで聞けない。それでもうなずかず、先生の腕からするりと抜け出す。
あっけないほど離れていく先生の腕が少しだけ悲しかったが、いやならすぐ逃げ出せるようにという、彼の小さな配慮に気がついた。
そんなつもりは、始めからないのに。
「先生」
「何だ?」
「もう一枚、描いていいですか?」
先生が、怪訝な顔をする。それに笑いかけて、イーゼルに立てかけてあった絵に駆け寄った。
「描き直したくなったんです。先生に渡す絵を。これはあたしから先生への『傷』ですから」
できれば、それが優しくて、ただ甘いだけの『想い』になればいい。嫉妬でも、ただ重いだけの『感情』ではなく。
「これは返さないぞ」
「どうして? これは先生のために描いたものじゃないですよ? あたしのために、先生を傷つけて、先生の心に残るためだけに描いたものですよ?」
傷ついて欲しくない、それでも傷ついて欲しい。忘れて欲しくない、傷でもいいから一生彼を縛りたい。
愚かで、醜くて、どうしようもない。
だけど、決して、彼を傷つけるためだけのものじゃなかったはずだけど。だけど、彼にはそうとしか思えないような、彼の一番痛いところを抉るような絵だったはずだ。
「お前から逃げ切れないって、分かったから。もう、落ちてるんだなって、思った絵だから」
お前の思惑通り、お前は一生俺の心に戻るよ。傷じゃないけど、痛々しい記憶で、縛られるわけではないけど。
「俺もお前を縛りたいから、ちょうどいいだろう?」
これを描いたことで、お前も俺を忘れない。ある意味、どっちも縛られるんだよ。この絵で。
新しく描くなら、『好き』よりも甘く、『愛してる』より深く、彼を縛れるような優しい戒めの心を込めて絵を描こう。
まるで真綿で包むように、彼にさえ、気付かれぬように。できれば、あたしさえ気付かないように。
この気持ちを線にして、この涙を絵の具にして、絵を描こう。絵で気持ちが全て伝わるとは思えないけど。それでも、一片でもいいから伝わればいい。
「あたしの初恋は、先生です。間違いなく」
今思えば、朔ねえも、春ねえも初恋を叶えているのだ。あたしだって、叶う可能性があるはずだった。
「最初っから、そう言えばよかったんだ」
先生の勝ち誇ったような笑顔が少しだけ悔しくて、意趣返しの意味を込めて彼の名を呼ぶ。
「好きです。優斗さん」
意趣返しは、想像以上の威力があったようで、彼はびっくりしたように目を見開く。そして、にやり、と笑って、再びあたしを引き寄せた。
ぞくり、と背筋に何か今まで味わったことのないようなものが走り、体が震える。
「いい根性してるな。お前。俺を驚かせようとか」
「……びっくりしたんなら、よかったです」
強がりはすぐに見破られて、『びっくりした』と形だけの言葉を返される。
すっと近づいてくる先生の顔を見つめて、今度は何か言われる前に目を瞑る。彼の存在が近づいてくるのが分かる。ふるりと震える体を引き寄せて、先生は笑った。
「いい子だ」
吐息が唇にかかる。彼が首を傾けて、そっと触れてくる。雰囲気でそれが分かった。が、そのとき。
「菊池っっ!!」
「藍ちゃん、無事??」
「藍華、って……えっと、ごめんって謝るべきかな? それとも、そこのバカを張り飛ばすべきかな?? どっちがいいですかね。春華さん、朔華さん」
がっと先生があたしの体を抱きしめなおす。
先生の腕の中から見えたのは、すさまじい形相の春ねえと心配そうな朔ねえ、それから――とても綺麗に笑う真紀の姿だった。
「殴り飛ばす!!」
「えっとぉ。とりあえず、殴ってもいいんじゃないかな」
「じゃぁ、決定ですね」
言うが早いか、真紀はこちらへ歩いてきた。
ばりっと音が出そうなくらいの勢いで、あたしと先生を引き離す。あたしを春ねえと朔ねえに渡すと、にっこりと再び笑う。
そしてわずかに引きつった顔をした先生のネクタイを掴んで、自分のほうへ引き寄せた。
「先生。誰が手を出していいって、言いましたっけ? この、元腰抜け」
「現在進行形で腰抜けなお前に言われたくないな。ほっとけ。俺は言ったし、藍華はそれに答え……」
「いつから、藍華って呼ぶようになったんですか?!」
言うが早いか、真紀は手を振り上げる。頬を張るのかと思ったが、先生は予想に反して膝から落ちた。
「っってぇー。お前、人が覚悟してんのに、蹴るか? 普通。俺が悪いから、甘んじて受けるつもりでいたのに」
「甘んじて受けるつもりだったんなら、黙ってればいいんじゃないですかね」
先生がこちらに手を伸ばし、春ねえの手からあたしを奪うように引き寄せる。それから髪にキスを一つ落として、それから人が悪そうに笑った。
キャーという春ねえの悲鳴が聞こえる。
「俺はこいつが好き。こいつも俺が好き。それでいいだろ?」
「「「よくない!!」」」
それはもう暖かい、季節。
春色の強い、風が吹く。鮮やかな色彩が瞳に映る一番好きな季節。
だけど、今年もう一つ好きな理由が出来た。この空気の色そのままに、この気持ちそのままに、大好きなあなたに、『大好き』だと伝える絵を描こう。
そうすれば、あなたを縛れるのかもしれないから。ずっとずっと、この気持ちを伝えられる気がするから。
「うるさいな。お姉さん方は」
「「お義姉さんじゃないっ!!」」
「先生、あんまりからかわないでください。お姉ちゃんたちが可哀想だから」
先生の頬へキスを一つ。
お姉ちゃんたちの悲鳴が聞こえるけれど、それを無視する。『振られるかも、とか言ってたバカが』という、真紀の声も。
大好きですよ、と先生の耳元で呟いて笑った。
「嬉しいことを言ってくれたから、これやるよ」
そう言って手渡されたドロップはいつもどおりのもの。
彼からもらうそれが、大好きで、笑いながら受け取った。
そのドロップのピンク色は、ただただ甘いだけの恋の色。
最終話でした。
一応、菊池の尻尾を掴んだということで、完結でした。まぁ、これから校正していったり、菊池視点で書いていったりしますが。