第三十話 『惜別色握手』
これで完結にしてもいいかな、と思っていたのですが、あまりにもあやふやなので付け足すことにしました。
あと二話?? ほどお付き合いください。
ちょっと長いです。
「南が丘高校の全過程を終了する者」
少し長い祝辞も、在校生からの送辞もそして答辞も、終わってしまえばあっという間。
明日からはここにいないんだ、とうすぼんやりとした自覚が、じわじわと胸を占め始める。自由登校が始まって、学校に来ない日が増えても、ここが自分の学校だと疑うことは何一つなかったのに。
三年間過ごしたここから、居場所がなくなるのだと、そういう実感がわいてくる。
一斉に立つ練習を昨日して、そのとおりに流れをなぞる。動き自体は昨日と全く変わることないのに、揺れるはずもない心が揺れて、滲むはずもない視界が、自分らしくもなく揺らいだ。
昨日、決意をしてから美術室に絵を置いたのに。
『泣かない』と。卒業式が終わるまで、家に帰るまで、絶対に泣かないとそう決めたのに。何があっても、決して泣かない、と。
「平田 藍華」
「はい」
ここでは名前を呼ばれ、立つだけ。卒業証書は教室で渡される。今自分の名を呼んだ、あの人から。
「……三年間培ってきたものはもちろん大切だが、もっとたくさんのことを経験してほしいと思う。教師っぽいことを言ったんで、今から卒業証書渡すぞ」
「先生、軽っ!!」
生徒の突っ込みも虚しく、一番最初の生徒が呼ばれた。つくづく暗い空気がいやな人なんだと思う。本人にその自覚はないのかもしれないけれど。
「池田 佳奈美」
「はいぃ」
友人が席を立つ。もう涙で顔がぐしゃぐしゃだった。
そんな顔でも彼氏にしてみれば可愛いんだろうな、と僻みにも似た感想を持つ。事実、斜め前の席のその彼氏は、頬を緩ませてその様子を見ていた。
「せっ、せんせーー」
「おまっ。……俺まだ何も言ってないし」
「だ、ってー」
あせる彼に笑いが漏れる。
「あー、はいはい。落ち着け。――この三年間、よく頑張った。人に優しい池田が、これからもそうであることを祈るよ。卒業、おめでとう。これからも頑張っていけよ?」
そうやって、皆に言うの?
『卒業したこと』が嬉しいと?
「次、上野 幹」
「はい」
あたしが呼ばれるまで、まだ時間がある。それまでに、心を決めなければいけない。あの絵を本当に彼に見せるべきか、否か。
「平田 藍華」
「は、い」
緊張した声が、教室全体の空気を揺らした。カタン、と立ったせいで揺れたイスの音が、やけに大きく響いたように感じる。
教卓までの距離がとても長く感じて、どうしようもなく心細くなった。
「三年間、嫌いな理科をよく頑張った」
できずに落ち込んでも、諦めなかった平田が、何事も諦めずにこれからもやっていくと信じてる。
「諦めることは確かに楽だが、そうしない平田を俺は尊敬してる。絵も、またどこかで見てみたいから、描き続けてほしい」
頑張れ。
そんなことを言われたら、これからやることを戸惑いますよ、と口の中で呟く。それでも本人に言うことはできずに、差し出された右手を小さく握った。
この右手が好きでした、という気持ちを込めて、小さく力を入れて握り締める。
チョークを持って、難解な化学式を書くとき。美術室で小テストの採点をするとき。もうあたしの前ではほとんどないけれど、煙草を吸うとき。
補習のとき、シャーペンを握りながら教えてもらったのが、もう随分と昔のことのように思えて仕方がない。頭をクシャリと撫でられたのは、いつのことだっただろう。
気まぐれに触れる指先も、飴を転がす仕草も、よくよく覚えている。あんな手で、もし絵が描けたならそれさえ画になるな、なんて始めのほうではよく考えていた。
その右手を描きたいと思ったことは言えない。それはそのまま自分自身の恋心だ。
多分、このクラスでこんないろいろ思いながら握手しているのは自分ひとりだけ。
「先生」
「うん?」
こうやって、聞き返すときの相槌も、言いよどみつつ言葉を紡ごうとすれば待ってくれるその眼差しも――全部。
「前、絵が欲しいっておっしゃいましたよね?」
「言ったな。かなりしつこく」
欲しいと、熱心に言われた。だから描いた。諦めるという気持ちを込めて。諦めるのが難しいという、気持ちも込めて。
「先生。あたし、諦めずにいるほど強くないから、だから絵を描いたんですよ」
美術室においてあります。
「え?」
「あたしから先生への、傷、かな」
ゆっくりと慎重に笑った。涙がこぼれないようにそっと、気持ちが分かってしまわないように小さく。それは今までで一番美しく、そして見たことがないくらい儚かった。
「ありがとうございました。先生」
どうか最後は笑いたいから、だから何も聞かずに頷いて。
がらり、と美術室の扉を開けて、目に入ったものへと駆け寄った。
イーゼルと最近知ったばかりのものに立てかけてあった絵は遠めにも鮮やかで、そして見慣れたタッチ。小さな画面の前には一つのドロップと、メモ用紙が一枚。
いつも手渡しているドロップを渡されることに慣れず、手のひらの上で転がる明るい包み紙を見つめた。
ころりとそこから出たドロップを口に含むと甘く、口元に持ってきた指先にさえ、味を感じてしまう。口の中で転がるそれは体温で解けて小さくなる。
不意にドロップが苦く感じた。手の中にあるメモ用紙が、手の熱でクシャリと歪んだ。
「っ」
名を呼ぼうとして失敗する。
「あ、いか。藍華」
苗字をつけないで呼ぶその名は、ドロップよりなお甘く、自分の心を揺り動かす。
甘く、甘く頭に響いて、それ以外考えれなくなる。馬鹿らしい、ありえないと笑ってみても、その事実は変わらない。
手に入れられないからこそ甘いのか、と自問した。
それからノロノロとメモ用紙に視線を移す。メモ用紙には、少し長めのメッセージが、見慣れた文字で書かれていた。どくり、と『あの時』のことを思い出す。
あぁ、また。
『過去形』で彼女は手紙を書いてくるのか。
『先生。“drop”って涙の雫って意味らしいです。絵の中のドロップは、いったい誰の涙なんでしょうね。
本当は、過去形の告白をして、先生を傷つけてやろうと思ってたのに、それは無理だから、好きですって書きます』
……過去形ではない告白。
鮮やかな色彩の絵が一気にくすんだ気がした。絵は見覚えのある化学準備室の風景。奥にある机も、そこにおかれた灰皿も、自分がよく使うものだ。
その床に一面、敷物のように隙間なく落ちているのはドロップだった。包み紙が鮮やかな、自分がいつも彼女に渡していたドロップ。
この量がもし涙なら、自分のではないだろうと思った。
もしこれが、誰かの涙なら、それは間違いなく彼女の涙だろう。ドロップに埋もれた一室で、一人の男が扉の前に立っていた。
決して扉を開けないようにか、ドアノブをきつく握っている。
奥の机の上にある灰皿から立ち上る煙は、ゆらゆらと男の周りを漂っていた。扉の向こうには、何故か彼女がいるような気がする。
それでも絵の中の男は――自分は、煙にとらわれたまま、扉を開けることはない。鍵を閉めて、誰も入れないようにして、我が身を必死に、愚直に守っている。ひたすら、過去に囚われている。
『好きです』と、未だ終わることのない想いがここにあるのに自分は。
前のように放っておけば、いずれは過去になるのだろう。あのときのように、諦めれば。あのときのように、恋ではないと言い聞かせればいずれ。
「でもっ……!!」
でも、本当はそういうことではなくて。
「今っ」
今、まさに。いずれは過ぎ行く、今。
「忘れられないんだ」
『今』、会いたい。『今』、伝えたい。ならば。
「走れってか」
自嘲は何に向けられたのか、美術室の扉がバタンと音を立てた。
「藍華、おめでとう!!」
「あ、真紀。来てたの?」
「もちろん」
はるばる海を渡り、帰ってきた友人はカメラ片手に笑っていた。同い年にもかかわらず、私服なので人目を引いている。まぁ、服装のためだけではないとも思うけど。
「もう、帰るの? 佳奈ちゃんたちに、会っていくんじゃないの?」
「う~ん、まっ、まだ会ってないんだけど、やることはやったし、ね」
怪しい笑みは、妖しい。文字通り、妖しいのだ。何かやりきったようにすっきりとはしているものの、それが誰かのためになっているような気は一つもしない。
むしろ、誰かをぐさりと刺してきたような気がする。
「それより、藍華も帰るの?」
「あー、うん。真紀と一緒。やることはやったから」
お姉ちゃんたちは先に帰って、もうパーティーの準備をしているのだろう。
「真紀も来る?」
「え、いいよ。親子と彼氏水入らずでしょ。一人身にはつらいのよー。だからおとなしく退散するわ。飛行機の時間が近いから、じきに捕獲部隊が来るだろうし」
捕獲部隊と言うのは少々不穏だ。彼女が困ったようにしているところを見ると、どうやら本当らしい。
「真紀の?」
「まぁね。私は珍獣かなんかかっ、てちょっとつっこみたいけど」
そう言いつつ、真紀はこちらの手を引っ張った。そのまま校門のところで止まる。そこには一際大きな桜があった。まだ咲いても、蕾さえつけていない桜は妙に寒々しかった。
「何?」
パシャリ、といきなりシャッターをきられる。そしてすまなさそうに小さく真紀は笑った。
「ごめんね。藍華。お節介焼いて」
「ん?」
彼女の言っていることが分からず、首をかしげると、なんでもない、と返された。
「頑張って!!」
そして何故か笑われる。ぽんぽん、と彼女はあたしの頭をたたき、カメラをくるりと指で回して、歩き出す。
「真紀ーー??」
「いいから、少しここで待ってなさい。とっておきの、卒業祝いだから」
にっこりと笑った真紀の笑顔があまりにも年相応で、わけも分からず頷いた。
ぼーっと校門の前に立つ。人もまばらになってきて、卒業式の終わりも近い。あぁ、本当に、卒業式が終わってしまったんだと、いなくなっていく人たちに思う。
後ろを振り向くと、美術室の窓が見えて切なくなった。今あそこに、彼はいるのだろうか。
「帰ろう」
帰って、美味しいものを食べて寝る。そうすれば涙を流す暇もなくなるだろう。顔を見なければ、あの人を想う時間も少なくなるかもしれない。くるりときびすを返す。
真紀には悪いが、もうこれ以上は待っていられなかった。
だいたい、何も言わない真紀も悪い。と、真紀のせいにして立ち去ろうとする。
「ちょっと待った」
手を、握られる。
「捕まえた」
思いの外熱い手を感じ、体が震える。聞き間違えるはずもない。彼の声だ。
「言い逃げなんて、できると思ったのか?」
「そんなっ」
言い逃げと言う言い方はないだろうと振り返った。振り返ってはいけない、と思っていたのに。
しかし真剣な瞳に息がつまり、何も言えなくなる。いつだってそうだった。いざ何か言い出そうとするとき、この瞳と出会って押し黙るのだ。
「返事も聞かずに、お前は」
「返事は、必要ないですけどっ。もし、先生にもう一度会うなら」
もし、もし追いかけてきてくれたなら。自分本位な想像でしかないけど、もし追いかけてくれるなら、それなら、言いたいことがあった。
それは好きだと伝える言葉ではなく、自分の想いの丈を吐露するものでもなく。
「あたしの初恋は」
初めて好きだと思った人は。
「やっぱり、瑲さんです」
菊池はわけが分からないと言う顔をした。自分に告白したはずの少女が、違う男の名を口にする。しかも一昨年からよく聞く名。小さく菊池が眉を寄せる。
「初恋は、叶わないんでしょ?」
お姉ちゃんたちのように、初恋が成就することなんて滅多にないんでしょ。なら、あたしの初恋は瑲さんです。
「先生が、初恋なら……失恋が決まっちゃうから」
それなら、先生が初恋なんて絶対に思ってなんかやらない。
初恋なんて、あの見るだけで満足だった憧れのような淡い想いにくれてやる。この想いは、初恋にしては色がずっと濃くて、痛くて、苦かった。
だけど最後に思うのはやはり、振り向いてほしいということ。少しでもいい。一瞬でもいい。この人の心がほしいと思った。こちらを向けばいい、あの瞳が。そう思うのだ。
「初恋は、あっけないくらいすぐに、消えちゃったけど」
あの淡い想いはもう、どこを探してもなくなってしまったけど。
「この気持ちは、そんなに簡単に消えません」
消えてくれないんです。
「ごめんなさい」
忘れられなくて、卒業してまであんなことして。
「でも、少しでもいいから」
心の隅でもいいから。
「先生の心に残りたかったんです」
それがたとえ傷でも。忌々しい記憶になったとしても。
あつかましくて、卑怯で、汚くて、どうしようもないようなこの感情は、もう恋なんて名前ですらないのかもしれないと、何度も何度も思ったけれど。
「先生の心にずっといたあの生徒さんがうらやましくて、嫌だったんです」
ごめんなさい。
いつの間にか涙が出て、訴えかける声は震えていた。人なんかもう見えなくて、泣きながらこんなこと言うなんて卑怯だと思った。
それでも、これが最後ならば伝えたかった。
「先生が、好きです。好きなんです。まだ好きなんです」
過去形ではなく。
「好き、です。先生」
あなたのことが。
「それだけか? 言いたいことは」
彼の声は冷たくて、びくりと肩が反応する。
これから来るであろう言葉に備えて、身を縮めてうつむいた。叱責なら、受けるつもりでいた。彼がまた冷たい言葉を口に出し、自分も彼も傷つくことを予想していた。
『お前は生徒だろう』
そう言われることを覚悟していた。多分、ずっとずっと前から。しかし実際くると、また泣いてしまうかもしれないと思う。
「平田、あのな」
「すみません、勝手にしゃべって。もう、満足しました。帰ります」
菊池が口を開いた瞬間、我慢できなくなって逃げようとした。
これこそまさに言い逃げだ。今度ばかりはそう言われても仕方がない。菊池の前から姿を消そうと身を翻す。が、それを読んでいたかのように手を掴まれる。
ぐっと手首を掴む菊池の手の強さが怖かった。
「先生」
「二回目だ」
逃げたのが、だろうか。
「俺を動揺させておいて、逃げようとするのが、だ」
がっと引き寄せられ、体が硬直する。じっと真剣な目で見つめられ、それから目をそらした。その様子を見てか、菊池はそっと笑う。
口角がわずかに上がっているのが分かった。相変わらず、意地悪そうなのに、人を惹きつけてやまない表情だった。
「返事は、聞きたくないのか」
「聞きたく、ありません」
だから放してください、とそう言う声はもう出てこない。
「どうして」
「失恋は、一つで十分です」
とても大切な恋をしました。だから、失恋するのが少し怖いです。
はぁ、と菊池のため息が上から降ってくる。何を言われるのか、それだけが気がかりだった。
「お前、失恋前提の話、展開しすぎだろ」
「そんなの」
当たり前じゃないですか。
思わず、菊池のスーツを掴んだ。不意にそうしないと、自分が立っていられないような気がする。そしてこの人が突然、影も形もなくなって自分の前から消えてしまうんじゃないかと、そう思った。
「俺の意見は聞くまでもない、と?」
「そうです」
そう言った瞬間、スーツを掴んでいた両手を反対に掴まれた。そしてその腕をよっぱり上げられる。自然と体も菊池の方へ引き寄せられた。
最後の意地で、顔は上げない。今その顔を見てしまえば泣く、と変な自身があった。
もう放してほしい。構わないでほしい。ただでさえ、惨めなのだ。自分勝手だとは思うが、いい加減許してもらえないか。
何度恋をしても叶わない。こんなに想いを抱えているのに、口に出すことさえ、相手に伝えることさえ戸惑うのだ。愚かしい、想いのだと自分でも重々承知している。
「こっち向け、平田」
「嫌です」
「平田」
「無理ですっ」
ずるずると両手を掴まれたまま、膝が崩れる。
膝がつく寸前で、体は支えられたがその体を突っぱねた。体をしっかりと支えられた代わりに、両手は自由になっている。
「平田……頼むから」
「何も、聞きたくなりません」
腰に回された腕は意外に力強く、痩身だと思っていたのを訂正する。
「先生に、ご迷惑はおかけしません。だから」
もう少しだけ、好きでいさせて。
「ちゃんと、割り切りますから、忘れますから」
顔を上げていった瞬間、まだ言い募ろうと口を開いた瞬間、その口をふさがれた。驚くほど顔が近くて、少しだけ煙草の匂いがして、少しだけ、甘かった。
「平田、目を瞑るのが礼儀だろ。こういう場合」
「なっ。何、何をっ……!!」
慌てて辺りを見回す。誰もいなかった。
でも、一番大切なのは、そんなことではなくて、呼吸が一瞬止まって、口も回らなくなる。とりあえず、彼の腕を振り払い、数歩の距離をとる。
「まぁ、とりあえず予約?」
「はい?」
意図が分からず、首をかしげると、またふっと笑われた。
ポケットから携帯を取り出し、一度二度軽く振る。何もついていない彼の携帯を見たのは、これで二度目だとぼんやりと思った。携帯で、何かするのだろうか。
「四月一日、答えを教えてやるよ」
何の、答えだと言うのだろう。その携帯で、教えると言うこと?
「俺をここまで走らせた、感情の正体」
ニヤリ、と自分が補習のときに見たあの顔を見る。答えの分からない、出来の悪い生徒を見る目だった。まだ生徒に見られているのだと思う。
「まぁ、ヒントはさっきのキスだけどな」
さて、彼を行動させたのは何でしょう。
「あと、黒田 真紀に連絡しておけ。やることはやった。俺を殴ったこと、謝りに来いって」
「えぇっ!!」
真紀、あなた先生に何をしたの、と問い詰めようと携帯を取り出す。ここは校内だとか、先生が目の前にいるとかは一切気にしない。
「殴ったんですか……?」
「『この腰抜け。またそれで後悔したら、今度は平手じゃすまない』だってよ。『あんたがもし、やるべきことをやったなら、いくらでも謝ってやるわよ』とも言ったな」
想像できて怖い。
「でも、おかげで目が覚めた」
何が言いたいのか分からない。
「分からなくていい。まだ。さっさと帰れ。姉さんたちが待ってんだろ」
「そうですけど」
帰れ、ともう一度言われる。そう言われてしまえば、何も出来なくなるわけで、おとなしく持っていた携帯をしまい、校門の外へ出る。
納得いかないさまざまなことについて、考えなくてはいけないのに思考はまとまらず同じところでループする。
「忘れるなよ。四月一日」
キスしたことも、先生の言う『答え』も、今聞かなくてはいけない気がするのに、何も出来なくなった。うまく丸め込まれたような気もする。
それでも、今は一人でゆっくり考えたかった。
ゆっくり考えれば考えるほど、怖くなるなんて考えもしなかった。
「あ、の。えっとじゃあ、さようなら」
「はい、さようなら」
別れ方だけは、いつもの先生と生徒の距離だった。
び、微妙すぎる。だけどどうにもこうにも、収拾つけたくて、こんな感じに。
もう先生が何をどう思っているのかは、迷宮入りになるかと……。
ばっ、番外編とかで先生目線をたくさん書きますっ、きっと。