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drop(改訂前)  作者: いつき
本編
1/43

第一話 『桃色ドロップ』

長いので、中々進展がありません。頑張って書きますので、長い目で見てやってください。

藍華(あいか)? 学校いくよ?」

 少女は肩より長い髪を鬱陶しげにかき揚げ、階段の下から叫んだ。艶やかな真っ黒の髪と白い卵型の顔、意思の強そうな瞳を除けば、可愛らしい顔立ちである。

 しかし少女の持つ雰囲気は可愛らしいというよりも、むしろ凛々しかった。

「お姉ちゃん、先行って! (そう)さん待ってる」

それに対し藍華と呼ばれた少女は部屋の中から返す。こちらは少し明るめの髪で、軽く癖がある。可愛らしいというよりは、美人と表現するのがふさわしいかった。

「そう? 先行くよ?」

「いってらっしゃい」

バタバタと、階下から音がして、玄関のドアが閉まったのを藍華は確認した。すっかり支度はしていたので、あと五分もすれば出て行けるだろう。

 そして、窓から外を見て、仲良く歩いていく二人を目で追う。

「いってらっしゃい……」

 部屋の中、その声だけが響いた。




「平田さんって、三年生にお姉さんいるよね? 二人姉妹?」

 まだ少し慣れていない友人が藍華に話しかける。

「ううん。三人姉妹。大学生のお姉ちゃんがいるの。朔華(もとか)が上のお姉ちゃん、春華(はるか)が一コ上のお姉ちゃん」

 へぇ、と感心したような友人の声を聞き、藍華は続けた。

「でも、どうして?」

「あのね、藤田先輩とはどんな関係なのかな、と思って……」

 さっと顔を赤くして、その子が言うので、藍華は眉を下げて言った。

「恋人――かな?」

 苦笑いのような顔をする。

 『くっつくまでに時間かかったんだけどね』

 というと、友人は残念そうに肩をすくめた。藤田 瑲也(ふじた そうや)は下級生には人気であるということが、ここで初めて藍華の耳に入る。

「そっか。じゃぁ、仕方ないかなぁ。かっこよかったのに」

 そういう友人に笑顔を返しつつ、呟いた。

『くっつくまでに、時間がかかったから……多分離れないよ』

 小さな声で、少しだけ、苦しそうな笑い方だった。




 二年生に上がったばかりの四月。


 今日はたまたま理科準備室に用があり、美術室に行く前によらなければならない。……正直に言うと、宿題ができていなくて、休憩時間中にやっと終わったのだ。

 言い訳を付け足しておくなら、宿題の量が半端なく多く、春休み後半から始めていては間に合わなかった。決して、一昨日、昨日から始めたわけではない。

「めんどくさい」

 そうは言っても、前半を遊んでいたのは自分なのだから仕方がない。自分に言い聞かせて藍華は扉の前に立った。

 コンコン、と古びた扉を叩くが返事がない。

 いないのならさっさと置いて帰ってしまえばいい、そう思い直し、扉に手をかけ思いっきり横にスライドさせた。

「失礼しま……」

 言いかけて止まる。少々広い準備室の中、一人だけ人がいたからだ。


 しかも、タバコ片手に。


「「あ……」」


 お互いに、目を合わせて呟く。ノートを思わず落としそうになり、慌てて握りなおした。あまりの驚きに、一瞬自分が何をしにきたのかも忘れた。

「えっと、失礼します? 先生」

 少しよれてしまった白衣と、だらしなく緩められたネクタイ。机に上げられた足……。どれをとったって見えない。印象が、違いすぎる。

「平田。ノックぐらいしろよ」

 さわやかで、優しいよね〜。菊池先生って、と生徒に言われる先生に。

 どこがだよ、とつっこみそうになる自分を抑えて、無理矢理笑顔を作る。

「失礼しました」

 見なかったことにするしかない。いや、私は何も見ていない。

 藍華はそう自分に言い聞かせて回れ右をする。


 しかしその瞬間。


「平田」

 思いのほか強く名前を呼ばれて止まる。この人、さっきからあたしの名前呼んでるけど、知ってるのか? そう思いながら、振り返った。

 担任でもない。……確かに理科の担当教諭ではあれど、よく覚えてるな、生徒の名前。藍華は思いなおした。一年生のときの理科総合の担当が違ったので、この先生に授業を受け持ってもらったことはないはずなのに。

 怒られる? 口止めされる? いや、成績片手に脅される? 頭の中でたくさんの可能性が浮かんでは消えていく。

 何しろ、理科は苦手だ。

 先生の心証さえも悪くなってしまえば、成績はどうなるのだろうか……。想像したくもない、そんなもの。

「先生」

「手、出せ」

 誰にも言いませんから、と言い終わる前に言われ、藍華は渋々手を出す。何をされるのか分からないので、若干腰が引けている。

「口止め料な?」

 にやり、と『爽やかで、優しい』先生とは正反対の笑みを浮かべている先生を見て、藍華は驚く。

 慌てて、手のひらを見るとアメが一つ。

「餌付け……ですか?」

「そんなもんかな?」

 ノート出して早く行け、と言われたので、ノートを差し出し、扉を開く。

「失礼しました」

 トン、と扉を閉めると美術室に向かう階段に足をかけた。

 包み紙を開けると、そこには小さい頃によく食べていたドロップが一つ。


 ピンク色の、ドロップ。




「菊池先生……か」

 藍華のクラスの理科を担当して、隣のクラスの担任だ。

 若い担任だというのが第一印象だった。クラスメイトや隣のクラスの人たちからも好感をもたれていた。

 縁がないので顔もまじまじと見たことはなかった。

「先生……ぽくない」


 それが第二の印象。




遅々としか進みませんが、愛だけはつめてますので、よろしくお願いします。

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