4.6.1 個展の成果
三日後。ルナリアはまたパースのもとを訪れました。
個展を終えたパースが笑顔で手を振り、迎えます。
「聞いてくれよ。個展に出した絵、ぜんぶ売れたんだ」
パースは大喜びで売上金の入った袋を掲げます。白い袋はぷっくりと膨れ上がり、はち切れそうです。
「それぜんぶ銅貨じゃないよね」とルナリアが意地悪な声で聞きます。
「まさか、ほら」
ルナリアの予想どおり、袋の中の大半は安い銅貨でした。だけどちらほらと銀の輝きも見えます。普通の平民は銀貨なんてそうそう持っていません。ルナリアの家だったら、これだけあれば半年は遊んで暮らせます。ルナリアには稼げなかった大金です。
なにやらパースは服の中をごそごそとしています。
こらえきれなかったのでしょう。顔がにやついています。
「なに? まだあるの?」
ルナリアは胸を躍らせます。
「じゃ~ん!」
パースは森に響くほどの声を出して、隠していた物を掲げました。
それは一枚の金貨です。袋の中にあるお金をぜんぶ合わせても、金貨には敵いません。いったいどれだけ暮らしていけるでしょう。金貨なんて手にしたことないルナリアは、その感覚をつかめずにいました。
「ほんとは金貨五枚あったんだ。画材を買ってだいぶ減っちゃったけどね。個展に出した絵はラピスラズリも使った。絵の世界だと青は高級品なんだ。ほんとの稼ぎは袋の中だけだ」
「それでもすごいよ。私、そんなに稼いだことないから」
「いや、ルナリアだって稼いだんだ。だって個展の絵を描けたのは、ルナリアのおかげだから。半分はルナリアのものだよ」
パースはすっかりはしゃいでます。
その袖口はいつもの銀色ではなく、心なしか、灰色に汚れていました。
突然、ルナリアの右手にある茂みから草を分ける激しい音がしました。
「「「「「「「ウォォーン!」」」」」」」
子ども狼たちの吠え声が響きます。狼たちは黒い森を駆け回り、なにかに飛びかかっています。
焚き火の炎でわずかに反射する金属の光。剣です。剣を持った兵士がすぐそばにいます。茂みに隠れてルナリアを狙っていたのです。
「デートを邪魔するやつは許さんぞ!」
どこかで聞いた声がします。
狼といっしょに兵士へ向かって飛び込んだのは、冬眠から目覚めた熊でした。
狼は牙で兵士ののどを貫き、熊は大きな爪で身体を引き裂きました。ここの狼や熊はみな巨体です。あまりに力が強いので、鎧は意味をなしません。
あらゆるところから小鳥たちが集まり、彼らの目をつつきます。剣を振るう余裕なんてありません。
そこに猪の群れが突っ込みます。猪は化け狼の子どもや熊ほどの大きさはありませんが、全速力でぶつかればたまったものじゃありません。
兵士の身体は簡単に吹っ飛んでいきます。守りの甘い部分は骨が折れているでしょう。
いたるところから動物たちが出てくるので、ルナリアは身動きがとれません。だけどルナリアが動かずとも、動物たちが兵士を倒してくれます。元は何人いたのか分かりません。けれども兵士の数はどんどん減って、動物たちの出す声や音も小さく穏やかになっていきました。
でもどうして、兵士たちはルナリアを襲おうとしたのでしょう。ルナリアはすっかり混乱しています。頭の中がぐるぐる回るだけでなにも思いつきません。
そこに斧を握ったパースが叫びました。
「ルナリア、逃げろ!」
その瞬間、ルナリアの背中で青い光が弾けました。




