4.2.2 狼さんにお願い
次の夕方、ルナリアはまた森に入りました。今日の見張りはノルン先生ではないので、パースに会えません。だけどやるべきことがいっぱいあるのです。
まず狼の親子に会って事情を説明しました。パースの家の辺りには見張りがいて、決まった日にしか行けないこと。ルリメアゲハの巣を通ってもダメだとも伝えました。
狼の母親は「まぁ!」と驚きます。子ども狼たちも似たような反応です。
「でも、私は十日ごとで充分。寂しいけど、毎日だとパースの仕事時間がなくなっちゃう。それに狼さんだってご飯があるでしょ。だからちょうどいいと思う」
「そうね、あたしも同感よ」と母親狼が言います。
「ただ一つだけ、狼さんにお願いがあるの」
「なんの用だ?」
子ども狼が聞きます。
「次、パースのところへ行くまでに、ルリメアゲハに伝えておいてほしいの。トンネルの外にも出てちょうだいって。昨日パースと会ったあの広場を囲うように」
魔法使いはルリメアゲハを恐れています。ルナリアより先に彼らの青い目玉が見えたら、もうそれ以上踏み込んでこないはずです。
「やつらにも都合ある」
「思いどおりになるとは限らない」
「でもやってみる」
「話は聞いてくれるはず」
「俺たちすっかり友だち」
「襲わなければ大丈夫」
「やつらは魔法使いしか殺さない」
子ども狼たちはあっさりと受け入れてくれました。
ルナリアはペコリと礼をして、狼たちと別れました。
そのあと、ルナリアは一人で森の奥へ進みます。行き先は森の中ほどにある泉です。すっかり森に慣れ、泉ならひとりで行けるようになりました。近道だって知ってます。狼たちの背中に乗らなくとも歩いて行けるのです。狼の足でも一時間はかかるパースの家とは、段違いの距離です。
泉につくと、動物たちが待っていました。ルナリアのショーの始まりです。
最初に比べ、観客はすっかり減っています。冬にそなえてみんな食事で大忙し。ずっと魔法の輝きを見ているわけにはいかないのです。
そんなことは気にせず、ルナリアは杖を取り出します。
泉の上に黒い木々はありません。雲のすき間から月がぽっかり顔をだしています。森に開いた大きな窓に魔法をかけると、たくさんの流星が降りだしました。
星が一つ消える間に願いを三度言えば、叶うといいます。それがほんとなら、一つや二つくらい願いが叶うかもしれません。それほどたくさんの星が夜空を走っています。
星の明かりは満月よりちょっぴり強め。ガラスの壁の向こう側、忌まわしい結界の外でも、この星は見えていることでしょう。ここにいない森の動物たちも、木々のわずかなすき間から、光の魔法を見ているかもしれません。
流星はとどまるところを知りません。毎日ショーをやるうちに、ルナリアは魔法の腕をどんどん上げていたのです。




