3.2.2 光の魔法、見せてあげる
ろうかでひそひそ声がします。
「あの子、まだ魔法使えないのかしら?」
「最初はとても上手かったのに」
「小鳥を焼いたショックで魔法を使えなくなったらしい」
「もう半年前のことだ」
「なにそれ? 情けない子」
「もう出て行くべきね、魔法使いじゃないわ」
「いや、魔法の光を出せるのだ。追放はされない」
「うわぁ、かわいそう~。毎日毎日『下手くそ』って言われるのよ。私なら耐えられない」
「そうね。そろそろ目覚めさせてあげないと」
それを聞いたルナリアは慌てて走りだします。
けれども、相手の方が数が上。すっかり囲まれてしまいました。生徒たちはみな杖を握っています。完全に魔法を使う体勢です。抜け出そうとすると女の子が行く手をふさぎます。
「あなた、この前の試験も0点だったでしょう。魔法の使い方、忘れたのかしら?」
女の子がそう言うとそろって笑いだしました。ろうか中に笑い声が響きます。それを聞きつけてさらに人が集まってきます。
「このままではずっと外に出られない」
「クラスメートとして情けない」
「ルナリアは学校の恥さらし」
「いや国の恥だ」
「悔しかったら、魔法を使え!」
生徒たちが次々と悪口を浴びせます。
「そんなに言うなら、私の魔法を見せてあげる」
ルナリアは杖を取り出しました。
「ルナリアが魔法を使うらしい」
「それほんと?」
「どうせ失敗するに違いない」
「見物よ。見物」
さらに生徒が集まってきます。気づけば校内にいる生徒の大半がここにいました。
これでは見世物です。
でも、これでいいのです。
ルナリアはみんなが見つめる中、杖を一振りしました。
ろうかに銀に輝くペガサスが現れます。翼をはためかせ、たくさんの光の粉を振りまきました。
銀の粉からは光のうさぎが何羽も生まれ、生徒の群れに飛び込んでいきます。床からは噴水のように青い光が湧き立ちます。その青い噴水を避けながら、銀色の動物たちが駆け回ります。天井からは青い流星が雨のように降り注ぎ、床に落ちた星の粒は消えることなく、積もっていきました。
これだけたくさんの魔法を、同時に使える生徒はいません。ルナリアはこれ以上バカにされないよう、必死で魔法を放ち続けます。
だけど生徒たちは大爆笑。
「あいかわらず下手だ」
「ランプの火で見えない」
光の動物たちも青い泉も流星も、よく見ればちゃんとあるのです。けれどもその輝きはあまりに弱く、部屋の明かりにかすんでいました。
生徒たちから次々と声が飛びます。
「君の魔法はそれだけ?」
「他の魔法は思い描けないの?」
あらゆるところでクスクス笑いが起こります。ボソボソと耳打つ声もします。
ルナリアはだんだん腹が立ってきました。杖をもう一振りすると、ペガサスは銀色から炎の色に変わり、生徒たちに向かって駆け出しました。
でもペガサスはほとんど透明で、ちっとも迫力がありません。おまけにちょっぴり温かいだけの光の塊ですから、当たっても痛くもかゆくもありません。生徒たちはおおいに嘲り笑いました。
生徒の一人がルナリアに向かって杖を振りました。するとあっという間に、ルナリアは灰色のねずみに姿を変えられてしまいました。さらに魔法で宙に浮かされて、くるくる回されるものですから、気分が悪くてしかたありません。床に積もった淡い光の粒もすべて消えてしまいました。
いまのルナリアには光の魔法しか使えません。自分にかけられた魔法を解けないのです。それを見た生徒たちはただ笑うばかりで、誰も助けてはくれませんでした。
「君たち、やめなさい!」
聞き覚えのある声がろうかに響きました。
生徒たちの群れが、王様に道を空けるかのように分かれていきます。その道の向こうには人が一人立っていました。真っ黒な軍服を身にまとい、手には杖を握っています。声こそはノルン先生ですが、素顔は見えません。
「まずい、監視の人だ」
「捕まったらめんどくさい」
「とにかく逃げろ」
ルナリアをさんざん笑いものにしていた生徒は、散り散りに去っていきました。残ったのはノルン先生とねずみ姿のルナリアだけです。
先生が真っ黒なフードを外しました。間違いなくノルン先生でした。
「さぁ、乗って。私の部屋へ」
ルナリアは差し出された手に乗って、あの地下の部屋へと向かいます。
途中、ろうかで倒れている人が見えました。赤い髪が乱れています。ティランナ先生です。
床には血の痕がたくさんあります。どうやら大ケガをしているようです。髪の毛以外は白いもやがかかって見えません。きっと魔法で隠しているのでしょう。
先生たちが集まって魔法で手当をしています。だけどノルン先生は知らんぷり。その横をさっと通り過ぎ、壁に眠った秘密の扉を開けて、階段を下りていきました。




