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ルナリアは闇夜に咲き誇る  作者: 暁 乱々
2.秘密のおはなし、きかせて
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2.1.1 馬車、止まる

 気づけば馬車が止まっていました。

 走っていると、石を踏むたび揺れるのですが、それがまったくありません。


 車の中でルナリアは大きなあくびをします。どうやら疲れて眠ってしまったようです。


「軍人さん、いまどこにいるの?」

 声を出してみても、返事はありません。ルナリアは馬車を降りて、外を確かめることにしました。


 そのときルナリアはちょっぴり悔やみました。いま自分が着ているのは、全身クリーム色のへんてこな服なのです。あまりに急なできごとに、頭がぐちゃぐちゃ怒りでいっぱいでしたから、服のことなんてこれっぽっちも考えていませんでした。だけど服の替えはありません。包みの中に入っていたのは、ひと月分ほどのお金と、もう光を失ったペガサスの絵だけです。


「家に国の馬車が来て、国の学校へ行くことを急に知らされて……。もうわけわかんない!」


 ルナリアはグチを言いながら、クリーム色のかっこうで馬車を降りました。いまは服なんか気にしている場合ではないのです。


 辺りは白い霧がたちこめていました。霧はとても濃くて、馬のしっぽがかろうじて見えるくらいです。

 ルナリアは馬に近づいてみます。


 馬に乗っていたはずの軍人は二人とも消えていました。


「軍人さん、どこにいるの? ねぇ、答えてよ」


 ルナリアは何度も叫びましたが、人の声は返ってきません。代わりに低い鳥の鳴き声が聞こえます。まるでカラスの化け物が鳴いているかのような、不気味な声でした。後ろを振り返っても、見えるのは白一色です。来た道を引き返そうとすると、つるつるの壁にぶつかりました。歩いても歩いても、ちっとも前に進めません。


――うそ、でしょ。


 もう母親のもとには帰れないようです。とにかく学校へ行くしかありません。ルナリアは大きく息を吸い込み、覚悟を決めます。だけど学校への行き方はまったくわかりません。


「お馬さん、軍人さんは?」と、ルナリアは馬に声をかけてみました。


 馬は答えません。人の言葉なんてわからないのが普通です。もし、ルナリアの言葉が馬に通じていたとしても、馬の言葉がわかるはずありません。

 それでもルナリアは、馬に話し続けます。


「じゃあ、学校への道を知ってる? 私、そこへ行かなくちゃいけないらしいの」


 馬は答えません。

 ルナリアはその背に軽く触れて、すぐさま手を引っこめました。


 馬の身体はとても冷たく、おまけに石のように固かったのです。もう一頭の馬も同じでした。見た目はほんものの馬なのに、これではよくできた石像です。ルナリアはすっかり、ひとりぼっちになってしまいました。



――私、はめられたんだ。


馬車も軍人も学校もきっとみんなうそ。ほんのちょっぴり魔法が使えるからって、国から声がかかって、馬車で学校へ行くなんて。街にも住めない田舎の貧しい女の子に、そんなすごい話あるわけない。


 そういえば、軍人の片方は杖を持っていた。

きっと、市場の街の悪い魔女、オルカが化けたのよ。


 きっとお母さんはだまされたんだ。この馬車はオルカがこさえたの。私がいたら悪さしづらいから、遠い場所に連れて行って、置き去りにする気だったのよ。オルカはとっても高い服を着てたから、馬の石像を二つ持っててもおかしくない。魔法の杖を一振りすれば、石は動くし、土人形だってできるにきまってる。人の心だって変えられるの。私が死んだら、また杖を振って、石像を自分の家に飛ばすのよ。



 ルナリアの頭に、悪い考えが次々と浮かびます。


――でもダメよ、ダメ! このまま考えてばかりだったらオルカの思うつぼ。あんな魔女の思い通りなんてぜったいいや!


 そこでルナリアは考えました。包みの中にあった画家パースの絵、その絵に()んでいたペガサスを思い浮かべます。すると空から銀色の光を放つ、大きな大きなペガサスが現れました。ルナリアを人さらいから守ってくれたときと、同じ身体の大きさです。人の丈の何倍もあります。

 ルナリアは霧の中でも見えるよう、ペガサスにお願いして、とびっきりの赤色に光らせました。


「人のいる場所を探して。見つけたらすぐ戻ってきて、お願い!」


 そう命令すると、真っ赤なペガサスは翼をはためかせ、霧の中を飛んでいきました。



 ペガサスが帰ってくるまで、たいして時間はかかりませんでした。赤い光が消えるとすぐ、とんぼ返りしてきたのです。


「もしかして、ペガサスさんって瞬間移動の魔法を使えるの?」

 ペガサスが頭をブルブル横に振ります。


「じゃあほんとに近いのね」

 こんどは頭を縦に振り、ルナリアにくるりと背を向けました。

『ついてこい』と言っているようです。


 ルナリアは胸をなでおろしました。もし瞬間移動なんかされたら、学校までの距離が読めなくなります。それで遠く離れたところだったら大変です。ルナリアの足ではたどり着けません。このペガサスは光の塊、人は乗せられないのです。


 ルナリアは赤いペガサスにぴったりくっつき、学校へと進みます。歩く速さはとてもゆっくり。はぐれないよう、ペガサスが気づかってくれるのです。そのおかげでルナリアは安心して霧の中を歩けます。



 しばらく歩くと金属の門が現れました。お城の門というよりも、お金持ちの家にありそうな、カーブの美しい門でした。門の前には、真っ黒マントにフードをかぶった人がひとり立っています。とても不気味です。でもルナリアが近づくと、ちゃんと素顔を明かしました。現れたのはきれいな女性の顔でした。


「ようこそルナリア、わが校へ」


 女性の冷めた声とともに霧が一気に晴れ、真っ白だった視界には緑の森と青空、真っ白な石造りの校舎が現れました。ところどころ金の装飾がついていて、太陽の光をキラキラ反射しています。まるで大金持ちか貴族の家のようです。


 急に景色が変わったので、ルナリアはぼうぜんと立ち尽くしてしまいました。


「おやおや、こんなことで驚いていてはダメですよ。ここは王様が築いた魔法使いの学校なのですから」

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