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俺と天使のワンルーム生活  作者: さとね
第二章 「華へと導き、華へと歩く」
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番外編「とらんぷ、ですか?」

番外編をどう入れたらいいのかわからなくて最新話として投稿させて頂きました!今回は一章と二章の間の一週間にあった司たちの日常です!本当に何もしてませんし、本編とは何も関係ありませんので、興味の無い方は飛ばしてもらって構いません!それでもいい方は、是非、三人の平凡な日常をお楽しみ下さい!よろしくお願い致します!

「司さん! 何かして遊びましょう!」


 現在時刻は十七時。片穂と導華の生活が始まってすぐの、何でもない普通の一日。今日はバイトもないので、さらに何もない一日である。


 いつもなら暇を持て余してゲームなどをしているのだが、今は天使がこの家にいるので、そんな日常など通用しない。


 学校から帰り部屋着に着替えた直後の司に、片穂は笑顔で詰め寄った。


 急接近してくる片穂を軽く腕で押さえて学校の荷物を整理しながら、司は答える。


「何かって?」


「なんでもいいです! 遊びましょう! 遊びたいです!」


 眩しさを覚えるほど目を輝かせる片穂を見て、司はゆっくりと立ち上がり棚を漁り始めた。


「じゃあ……」


 そして、手に収まるくらいのカードの束を取り出して、片穂に見せる。


「トランプでもやるか」


「とらんぷ、ですか?」


 首を傾げる片穂に、司は念のため問いかけてみる。


「うん。知ってるか?」


「名前だけしか聞いたことがありません。楽しいんですか?」


「まぁ、家で手頃に遊ぶなら丁度いいんじゃないかな? 導華さんもどうですか?」


 先ほどからずっとテレビを見ていた導華も、司の誘いに快く承諾する。


「うむ。面白そうじゃ。ワシも参加させてもらおう」


 導華も加わるとなると『トランプを使い、三人で出来て、初めてでも簡単にできる手頃な遊び』というようなものを選択するべきだろう。


「うーん。トランプゲームが初めてなら……。ババ抜きとかどうかな?」


 片穂は首を傾げる。


「ばばぬき、ですか? お姉ちゃんは知ってる?」


「うむ。知っておるぞ。手札の同じ数字を抜いていくやつじゃろ?」


 導華はババ抜きのルールを知っているようで、それの説明をしながら頷く。


「そうですね。まぁ、簡単だから片穂にはやりながら説明するよ」


 三人中二人がルールを分かっているのだから、ババ抜きくらいなら説明まじりにでも進行できるだろうと司は判断した。


「はい! お願いします!」


 片穂が興味津々な様子で頷くのを見て、司はさっそく三人の手元にカードを配り始める。


「じゃあまず、配ったカードの中で同じ数字が書かれたカードを二枚一組で出してくれ」


「はい。わかりました」


 返事をしながら、片穂は言われた通りにペアのカードをテーブルの上に置いていくが、途中でその手が止まり、司のことを見て問いかける。


「司さん。この数字が書いてないカードはどうすればいいでしょうか?」


 片穂が不思議そうに司に見せたカードには「joker」と書かれていた。


 それを持っていると知らせてしまったことでババ抜きの醍醐味の一つが消滅するが、説明をしなかった自分にも責任はあると司は思い、さらに片穂に説明を加える。


「あー。それがババってやつだ。それを最後まで持ってた人が負けなんだよね」


「そ、そうなんですか!? じ、じゃあもらってください! 司さん!」


 司の言葉を聞いた瞬間に片穂がジョーカーを押し付けてきたので、司は堪らず声を上げる。


「おい! 何言ってんだ片穂! これはそういう遊びじゃねぇぞ!」


「で、でも! 最後までこのカードを持ってたら負けだって、司さんが……」


 慌てた様子で弁明する片穂の混乱は収まらず、それに耐えきれなくなった導華は片穂の頭を強めに叩き、怒りを露わにする。


「これじゃゲームならんじゃろうが! このアホ! 話を聞かんか!」


「痛い! 何するのお姉ちゃん!」


 頭を抑えて文句を言う片穂だが、導華の顔を見た瞬間に萎縮し、口を閉じる。


「よかろう。ワシがルールをしっかりと教えてやる。そこに座るがいい」


「は、はい……」


 その場で正座をしながら片穂は導華からみっちりルールを教わり、それを把握し終えた後、ババ抜きが再開される。


「じゃあ、始めようか」


「はい!」


「うむ」


 今回も司がカードを配り、そのカードを手に取り、順調にババ抜きは進んでいく。


「えっと、数字が同じペアを捨てる……」


 自分でルールを口に出しながら準備していき、ようやくババ抜きが開始される。


 順番は司、片穂、導華の順番で、司が導華のカードを引いてゲームが始まる。


 続いて片穂が司の手札からカードを取るとペアが揃ったようで、片穂は声を上げる。


「あっ! 揃いました! これを捨てればいいんですね」


 片穂がカードを捨てて、導華が片穂からカードを引き、再び司に順番が回ってくる。


「ほれ、司。お前の手番じゃ」


「あの、導華さん?」


「どうした、司。引かんのか?」


「いや、その明らかに怪しい飛び出した一枚はなんですか?」


 一巡目には見られなかった、あからさまに飛び出た一枚。いかにも怪しげな雰囲気を出すそれに、司は動揺を見せた。


「はて、なんのことかのぉ。ワシは知らんのぉ」


 白々しく口笛を吹きながら斜め上を見つめる導華を見て、司はため息を吐く。


 こんな明らかな誘導には引っかかるわけがないと、司は導華の手札で飛び抜けたカードの隣のカードに手をかける。


「騙されないですよ。そんな簡単にババを引いて……」


 しかし、司がカードを引いた瞬間に、導華がクスクスと笑い始める。


「くっくっく。やはりこういったゲームは楽しいのぉ。笑みが止まらんわ」


 一瞬理解ができない司だったが、自分が引いてきたカードを見た瞬間に全てを察する。


「うげっ……!」


 司の手に持つカードに書かれた文字は「joker」であった。あの飛び出た一枚は囮で、司にこのジョーカーを引かせるための罠だったのだ。導華の罠にまんまとはまった司は悔しさを露呈させる。

 

「ちくしょう……」


「くっくっく。楽しいのぉ。楽しいのぉ」


 悔しがる司とニヤニヤと笑う導華の事情を知らない片穂は不思議そうに首を傾げる。


「……? どうしたんですか? 引きますよ?」


 そして司の手札から片穂は迷う事なくジョーカーを抜き取る。


「ふっ……」


 あまりにもスムーズに片穂がジョーカーを引いたので思わず笑ってしまった司だったが、そんなことにも気づかないほど片穂は動揺していた。


「な、ななな……」


 そして慌てる片穂を見る導華の顔は相変わらず恍惚としていた。


「ほれ、片穂よ。ワシが引く番じゃぞ。さっさとこっちを向かんか」


「う、うん……」


 片穂が悲しげに向きを変えた瞬間に導華は迷わずにカードを取る。


「……あっ!」


 もちろん導華が引いたのは普通のカードで、手札の一枚と合わせてペアでカードを捨てる。


「まぁこのペースなら大丈夫そうじゃの」


 そうしてジョーカーは片穂から動くことなくババ抜きは進行してゆき、ついに最初の上がりが出る。


「ほれ、上がりじゃ」


 導華はそっと最後のカードをテーブルに置き、勝者となった。


「は、速いよお姉ちゃん!」


「ってことは、一騎打ちか」


 導華があまりにもスムーズに上がったので、片穂は頬を膨らませて文句を言う。


「むぅ~! なんでお姉ちゃんは一回もババを引かないの!? 場所だって毎回変えてるのに!」


「そういえば導華さんはかなりスムーズでしたね」


 司の言葉に導華は笑いながら、


「まぁ、司もそのうちわかるじゃろ。とりあえず再開してみろ」


「あ、はい。じゃあ……」


 司は言われるままに片穂の方へ向き直して、カードを引こうとしたのだが、


「むぅう~~」


「……?」


 司がカードに手をかけた瞬間から、片穂の手に不自然に力が入る。


 しかし、不思議に思った司が隣のカードに手をやると、その力がフッと消えた。


「……そういうことですか。導華さん」


「うむ。遊んでやってくれ」


 試しに司は不自然に力の入っているカードを引いてみる。


「あっ!」


「……なるほど、ね」


 案の定、司がとったのは通常のカード。手札のカードと合わせて司は勝利へと一歩前進した。


 純粋な天使は、どうやら引かれたくないカードに手をかけられると力が入るようで、司からするとカードが透けているようなものだった。


「じゃあ、今度は私です!」


 もちろん司の手札にジョーカーは無いので、自動的に片穂の手札も減り、勝負は終盤へ突入する。


 現在、司の手にはカードが一枚。そして、片穂の手にはカードが二枚。次に司が片穂からジョーカーではないカードを引けば司の勝ちとなる。


 しかし、司に対する試練はそれとは全く別のものだった。


「むぅう~~」


 明らかに、司から見て右側のカードに力が入っている。


 つまりその逆、左がジョーカーであることが既に司には分かっているのだ。


「……さて、どうするかな」


 そして、少し悩んでから司はカード引く。


「お主も甘いやつじゃな」


「次で、片穂が引いてくれればいいんですけどね」


 笑いながら司は手に持っているジョーカーを自分の手札に入れ、片穂を見る。


「ほら、片穂の番だぞ」


「はい! 引きますよぉ!」


 司はそっと左手に持つハートの六を少し上に出し、片穂が引くのを誘導する。


「そりゃ!」


 勢いよく、片穂は司の左手に収まっているカードを迷わず引いた。


 単純で純粋な天使は、これぐらいの誘導で素直に引いてくれるのだ。


 司の些細な優しさに気付かない片穂は恐る恐る手に持つカードを確認する。


 そして、そのカードに書かれた数字を見た瞬間に、片穂は満面の笑みを見せる。


「やった、やった! 勝ちましたよ! 勝ちました! お姉ちゃん! 勝った!」


 喜ぶ片穂を見て、導華はため息を吐く。


「司も大概じゃな」


「まぁ、俺も楽しいんでこれでいいですよ」


 そう言って笑う司に、片穂は幸せそうに声をかける。


「司さん! まだまだ遊びましょう!」


「おし! じゃあ次は何にするか!」


 司はテーブルに散らばるカードを集めると、次の遊びを考え始めた。



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