序章 雨中之華
雨が降り続いていると気付いたのは、不意に部屋のカーテンを開いた時だった。
ずっと部屋に閉じこもっていたからか、外で何が起こっているのかはわからない。
ベッドの中で毛布に包まる少女は、寒さを感じているわけでもないのにさらに殻に隠れるように体を丸める。
部屋の中には少女が横になっているベットと、他には必要最低限の家具のみ。いや、その最低限すら無いかもしれない。
飾り気のない殺風景な部屋。そして部屋はまるでつい最近引っ越しを完了したかのような新しさが窺える。
少女はベッドの中で目を瞑るが、一向にやってこない眠気に飽きれて気怠るそうに体を起こす。
ボサボサの髪と目の下の隈が少女に蓄積した精神的、肉体的疲労を無言で伝える。
もう一度、少女は外を確認する。窓に張り着く雨粒で外の様子はぼやけて見えない。室内の光が少しだけ反射して、自分の顔が薄らと窓に映る。
目の前に見える自分の存在を確認すると、少女は唇を噛み締める。
そして、誰にも聞こえないような小さな声で少女は呟く。
「……………ごめんなさい」
呼吸が少し苦しくなった少女は、また横になって心の中を空にして落ち着きを呼び込む。
この動作をしなければ、苦しくて仕方がない。死んでしまうかもしれないほど、息が詰まってしまう。
むしろ、死んでしまったほうがいいのかもしれない。
そう考えた方が、どことなく気が楽になっていく気がした。
涙なんて枯れ果てた。流す涙も、痛める心も、擦り切れてしまった。
少女は脱力したまま天井を見上げる。
睡眠不足を感じて、やっと深く寝れるかと思った瞬間だった。
空の部屋に、インターホンの音が響く。家具などが少ない分、音が良く響くので、目を瞑ろうとした少女は再び目を開ける。
「………誰?」
ゆっくりと、体をベッドから起こし、少女はインターホンへ繋がる受話器を取る。
「………はい」
小さく掠れた返事をなんとか聞きとり、ドアの前の人物はインターホンに話しかける。
「おはようございます。梁池華歩さんのお宅でよろしいでしょうか?」
「………はい」
少女は弱々しく返事をする。
ドアの前の人物は、少し間を開けてから、厳粛さを声に含ませて言う。
「例の事件について、再度確認したいことがございます。度々申し訳ございませんが、もう一度お話を聞かせてもらっていいでしょうか?」
その言葉を聞いた瞬間に、少女の呼吸が乱れる。少女は相手に伝わらないように、息を整えてから返事をする。
「………はい」
「ありがとうございます。華歩さんの準備が完了するまで下で待たせていただきます。ゆっくりで構いませんので、準備が出来ましたら下の駐車場までお越しください」
「はい」
受話器を元の位置に戻し、少女はその場に佇む。
そして徐に準備を始め、十分が経過する頃にはそれが完了する。
今時の女子高校生がするようなオシャレなど、自分にとっては必要ない。せめて、清潔感は無さないようにと最低限の着替えを少女は済ませる。
準備が終わり、少女はバッグに財布などを詰め込んで玄関へと歩き、ドアノブに手をかける。
「……………ごめんなさい」
梁池華歩はそう呟いて、苦しそうに玄関を開く。
雨雲で覆われた空は、太陽が隠されており、昼間にも関わらず世界は薄暗く感じる。
少女はゆっくりと息を吸い、吐き出す。
そして、暗く冷たい外の世界へと少女は歩き出した。
明るい話がくると思った方、申し訳ございません!二章にもシリアスな場面は多くあります!もちろん片穂や導華の場面を数多くありますのでよろしくお願い致します!




