たぶん深夜2時くらいの会話
冬の童話祭用の作品2つ目です。思い付きで書いてます。
昔々あるところに魔法と奇跡にあふれる王国がありました。その王国では立派なお城に心優しい王様とお妃様、そして4人の王女様が幸せに暮らしていました。4人の王女様には王国の四季を巡らせるというお仕事があり、王都の真ん中にそびえ立つ塔へ4人の王女様が順番に入ることで王国は毎年春、夏、秋、冬を迎えることができました。王女様たちの懸命な働きのおかげで国民たちは四季折々を楽しむことができ、彼らは王女様たちに感謝しました。国の誰もが王女様たちを愛していました。
しかしある冬が終わろうとしている日、突然春を呼ぶ王女様がお城から飛び出してどこかへ行ってしまいました。そのため王国はいつまでも冬が明けなくなってしまいました。雪はいつまでも降り積もり、きれいな花たちは咲くこともなく、作物は実りませんでした。王国のみんなは困り果てました。そして王様はあるお触れを出しました。
春の王女をお城へ連れてきた者へは褒美を取らせよう。
この国を守るために皆の力を貸してほしい。
そして王国を挙げての王女様探しが始まったのです。
ごつごつした岩肌が見える。
薄ぼんやりとしたオレンジ色の光が岩肌を照らしていた。外は嵐でも来ているのか、ビュービューと、風が唸っている。
ここはどこだろう。体を起こし、私はようやく横になっていたことに気づいた。少し離れたところで焚火が燃えていた。私は周囲を見渡そうと首を動かした。
「お目覚めになられましたか、お嬢さん」
突然耳元で声がして、ひっ、と思わず左に体を跳ねさせた。恐る恐る右手を見ると、目の前にきれいな女の人がきらきら光りながら浮かんでいた。しかしその大きさは手のひらに収まりそうで、遅れて妖精なのだと気付く。妖精は優しく微笑みながら私を見守っていた。
「あなたはだれ?」びくつきながら問いかける。
焚火のせいか、妖精の顔に一瞬影がかかったように見えた。
「私は花の妖精、リアと申します」凛と透き通るような声で妖精は答えた。
「リア、わたしは・・・」
自分も名乗ろうと思った。のだが、言葉に詰まってしまった。私は誰なのか、名前を思い出すことができなかったからだ。
「あなたはサクラ。先程眠られる前にそう仰っていたじゃないですか」
忘れてしまったのですか、リアが顔を覗き込んできた。緋色の瞳と目が合う。それはどこか懐かしい感じがしたが、どうにも思い出せない。
「ううん、そうわたしはサクラ。ここはどこ・・・だっけ?」
私は取り繕いながら質問した。
「ここは王都の西側、街の終わりからさらに進んだところにある洞窟、といったところでしょうか」
説明が難しいのか、リアは苦悶しながら言葉尻を曖昧に濁した。
「おう・・・と?」私は聞きなれない言葉を繰り返した。
「まさかそれもお忘れになられたのですか」
リアは驚きの声を上げた。そしてうーむ、と考え込んでしまった。私の目の前をふわふわと漂いながら、ちらちらと私に視線をよこす。すると何か思いついたのか、急に表情が明るくなった。そしてくるっと私の方に向き直すと、今度は一変して心配そうな表情になった。
「そうか。サクラ、あなたのそれは何かの病かもしれません。このまま放っておくのは良くないでしょう」
リアは緋色の眼を細め、声色を落としながら話してきた。
「そんな、わたし病気なの?」
私は急に不安になった。何か思い出そうとするが、王都についても、洞窟までの経緯も、眠りにつく前の会話も、何も思い出すことができなかった。
これは本当に病気かもしれない。不安がどんどん大きくなっていく。
「しかし大丈夫です」急に空が晴れ渡るように、リアの声はまた澄み渡った。
「ここからさらに西に、森を抜けた向こうに大きな湖があります。そしてそこに棲む妖精はあらゆる病を治すことができるそうです。ですからそこへ行って、サクラの病を治してもらいましょう」
これで問題ないでしょう、とリアは自慢げに胸を張った。
「ほんと?そこへ行けばわたし思い出せるの?」
私は希望の光を見たかのように、リアにずずい、と近づきながら尋ねた。
「本当です。我が妖精の情報網は伊達ではないのです」
リアは鼻高々、といった様子で光をまき散らした。
「そう、なら早速その湖へ急ぎましょ」私はほっと胸をなでおろし、善は急げと腰を上げた。
「いいえ、サクラ。今は嵐で吹雪いています。それに夜の闇も深い。明日の朝には嵐も過ぎ去るでしょうから、今日のところはここで休みましょう」
リアは宥めるように言った。
「でも、眠ってしまったらまた忘れてしまうかもしれない。わたしそれが怖いの」
私は正直に打ち明けた。明日目が覚めたら、また何もかも忘れてしまうかもしれない。今のこの会話も、これからの目的地も。それがとても恐ろしかった。
「心配しないで、サクラ。あなたはきっと忘れません。それにもしも忘れてしまったとしても、私がまたお伝えします。ですから今日は、ゆっくりお休みなさい」
リアが私の頬に触れた。その掌はとても温かく、私はひどく安心した。
「さあ、まだ日は昇りませんから」
私はリアにいざなわれるように、さっきまで眠っていた場所に腰を下ろし、横になった。
「リア、ずっと私のそばにいて」
「はい。私はずっとあなたのそばに」
意識が遠のく中、リアの微笑みが目に映った。そしてまるで日の光に包まれたかのような心地よさを感じながら、また明日、と私は眠りに落ちた。
ご精読ありがとうございました。この後どうしよう。




