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世界はいつも空色に染まる  作者: 三雲シュン
Ⅱ章 Sky Garden
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一人の青年

川の流れる音だけが響く自然の中を僕は学生服姿、澪は半袖とジャージ姿で歩いていく。


公園で過ごしたあの晩に比べ、体感温度は確実に低く、ひんやりとしている。

澪は時折腕をさすっては寒そうな素振りを見せるので心配にはなるのだが、僕もカッターシャツに下着の計二枚を着用しているのみなので、どうしようもない。


そしてここがどこかも分からないという状況、川の激しい音だけが耳に届くこの異界の大自然。不安だけが渦巻いていた。



数回の会話のやり取りを除いて、ほぼ無言のまま十分ほど歩いた頃だった。


突然前を歩いていた澪の足が止まり、驚きのあまり声を出す。

「どした…?」


「静かに!」

澪は振り向くと、進行方向前方を指さした。


そこにいたのは、河原の上で釣竿を片手で持ち、川に糸を垂らして釣りをする青年の姿。耳にはイヤホンを付け、こちらには全く気づいていない様子で、じっと川の一点を見つめている。

緑色のパーカーを着ているその青年は、外見から察するに二十歳程度ではないかと思われた。


この謎の地に来て初めて出会う人間だ。

情報収集のためにも話かけるのがスジなのだろうが…。


「話かけてみようよ。」


澪の提案に僕は正直な考えを口にした。

「大丈夫かな?危険なことしてきたりとか…。」


「ダイジョブ、ダイジョブ!そんなことないでしょ。」

「てか、そもそも日本語通じるのか…?」


外見を見る限りでは日本人に見えるものの、全く状況が把握できていない以上、あの青年が好意的な人物であるという保証はない。そう思ったのだが。


「すいませーん!」


澪はその青年に向かって呼びかけると同時に、歩いて近づいていく。

無鉄砲な澪の言動にマジかよ、と溜息をつくと、僕も澪に続いた。

青年はこちらに気付いたようで、目を丸くしてこちらを見つめている。


「あの…、ちょっとお話を伺いたくて…。」

澪のセリフを聞いた青年はすぐさま片手の持っていた釣竿を地面に置き、イヤホンを外してポケットに突っ込むとこう言った。

「もしかして…、君たちは光のゲートをくぐってやって来た…?」

「えっ!?」


思いもよらない青年の言葉に驚愕する。


「あなたは…?」

「僕も君たちと同様、この世界に迷いこんだ人間だよ。四日前の晩、光のゲートに入り込んで。」


澪も僕も胸を撫で下ろした。言葉が通じたと同時に、信頼できる人間だと分かったからだ。


「僕は玉樹(たまき)彰吾(しょうご)。とりあえずよろしく。」


青年はニッコリと微笑んで手を出した。


「ミオです。よろしく。」

「リュウです。」


順に握手を交わすと、僕は脳内で浮上した幾つかの質問を差し置き、最大の重要事項を尋ねた。

「ここはどこなんですか?」

「…うーんとねぇ…、一言で答えろと言われると難しいなぁ…。この先に町があるから歩きながら話そう。」



* * * * *



「僕は四日前、友人と葛飾区の公園であの光に遭遇してね…。ホントビックリしたよ。いきなり現れたもんだからさ。僕、都内の大学の理工学部の学生で、それも物理学科の人間だもんで好奇心が掻き立てられてね。」


「それでその中に?」


「そ。友人と共に光の中に飛び込んだんだ。そして目が覚めたら一人この森だった。友人の姿はどこにもなくてね…。もう何がなんだかわけわかんなくて、君たちと同様、まずは川を下って行けば何かあるんじゃないか…ってね。」


そのセリフを聞いた直後、森はスッパリと途切れ、目の前が開けた。

いつの間にか陽光も射していて、眩しさに目を細めるも、そこにあったのは欧風の建物ばかりが建ち並ぶ街だった。


見事なまでにベージュ調に統一された建造物。まばらではあるが人の行き交う姿もしっかりと見える。

その佇まいはどこかヨーロッパの街…実際に行ったことはないので曖昧な記憶だが、たしかローマの街並みがこんなだったような…に似ている。


澪も僕も驚嘆の一声を出すと、玉樹さんは指をさして続けた。

「そしたらこの驚くべき光景があった。」

「…ここは…日本?」


澪の呟きに玉樹さんは微笑を浮かべて言った。

「まあまずは街に入ろうよ。」


そう言うと、釣竿とミニマムなクーラーボックスを片手に携えた青年は再び歩きはじめる。

玉樹さんの様子を見る限りでは随分と余裕があるように見えるし、僕が思っていたほど警戒すべき危険な地ではないらしい。


ただ、未だ彼が本当に信用していい人間なのかどうかは疑問ではある。相変わらずここがどこなのか教えてくれないし…。


そうは言っても、この不案内な地にいる現在は、澪と共に彼について行動するのが妥当と思われた。


「早く来なよー!」


考え事をしていた僕は澪にこう呼び掛けられたので、僕は足を速めた。


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