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世界はいつも空色に染まる  作者: 三雲シュン
Ⅰ章 The beginning of everything
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重なる思い

困っている人を放っておくことができない性分の僕は続けて口に出してしまう。


「なんで、泣いてたの?」


澪は一度鼻をすすると大きく息を吐き、そしておおよそ悲しみも収まったと思われる口ぶりで僕の問い掛けに応じた。

「…家出して来たんです。父さんと喧嘩しちゃって…。行くあてなんてあるわけないのに…。」


「…そっか。」


どうやら筆舌に尽くし難い、何か辛いことがあったようだ。

そんな彼女に続けて口にする言葉が思い浮かばず、暫く沈黙が続く。


そして幾分か経ったのち、彼女はゆっくりと口を開き、全てを話してくれた。


「一か月前、兄が行方不明になったんです。兄と言っても血は繋がっていないんですけどね。父は実の子でない兄を元から嫌っていて、だからあいつなんて消えて良かったんだって…。」


「…行方不明って、もしかして…あの?」

「そうです。」

少女は俯いたままきっぱりと答えた。


行方不明と言えば無論、今世間を騒がせている例の件である。


しかし…正直驚いていた。まさか本当にそうだとは。


都内在住なので僕もそれなりに興味を持ってはいた。

特に一か月ほど前だったかに起きた、地元、ここ日野市での男子高校生が行方不明となった事案。記憶が正しければ目撃したのは中学生の女子生徒、発生場所は公園だ。

まさか、という一つの推論が頭をよぎる。

「もしかして…?」


俯いたままだったが、彼女は僕の質問の意味を汲み取ったようで、こう答えた。

「そうです。一か月前、例の件で消えたのは私の兄で、その現場はこの公園。だから、自然とここに足が向いて…。」


「家は近くなの?」

僕は尋ねる。

「すぐ…ではないですけど近いですね。」

「そっか。」


再び暫しの沈黙。思い出したくない過去を思い出していたところを、色々質問攻めにして悪かったな、と反省の念を抱いていると、

「はー、苦しんでたことを聞いてもらって、スッキリしました!んじゃ、今度はリュウさんの番ですよ。」

「へ?」

「大ざっぱですけど、大体私のことは話したので、今度はリュウさんの自己紹介の番です!」

彼女はついさっき、自身の悲況を吐露していた時とは正反対の明るい声を上げた。流石の僕も驚いたが、彼女は笑顔でこちらを振り向く。

月の眩い光に反射して黄色のヘアピンが一瞬光った。


「たまたま通りすがっただけのタダの高校生だよ。」

「でもさっき、何か言いかけてたでしょ、リュウさん。そういうのはひとに話すと楽になるもんですよー。」

しまった、と思うも不思議なことに彼女には話せるような気がした。自分の悩み、というものを。


涙の理由を全て打ち明けてくれた澪に隠し事をするのも野暮だと思った僕は、殆ど全部を彼女には打ち明けた。


澪は時折うん、とかへぇ、とか相槌をうってくれた。とても年下の女の子に話せるような内容ではないのだけれど、自然と言葉が出た。

それは、僕自身が彼女とは似た者同士だという錯覚に囚われていたからかもしれない。


僕の周りには僕と同じような悩みを抱えているような人間はいなかった。

だから、一人でいつも葛藤して、その思いに堪えてきた。

そんな中、澪とは同じ悩みの持ち主だと勝手に解釈したのだと思われる。


そして全部を話した。


自分が孤独なこと、行くあてがないこと、そして妹が一年前に偶発的な交通事故で死んだこと。


「大体おんなじです!身分というか、境遇というか。」

澪は明るい声だった。


そして僕は馬が合うとはこういうことなのだと悟った。



* * * * *



「えっ、そこでその山岸さんはどうしたの?」

「なんとビックリなことにね!……」


ふと、入口の真横に立てられた、端麗な夜桜にその柱は半ば隠されている時計に目を送る。時刻は九時二十分過ぎだ。


「おっと、大丈夫?こんな遅くまで。」

「あっ、結局あの家に戻るしかないんですね…。もう父さんたちが寝静まるまで待ってから帰った方がいいかも…。」

「…いや、もう帰った方がいいよ。こんな夜遅くに女の子が一人でうろついているのも危ないと思うし。もし良かったら送っていくけど?」


やはりこの状況で家には帰りづらいというのが本音なのであろう澪はうーん、と唸って頭をポリポリと掻くと、先刻の明るい声で答える。

「じゃ、帰ろっかなぁ…。明日も学校あるし…。父さんとは何とかします。送りは大丈夫なので。」


澪はブランコから立ち上がると座ったままの僕に笑顔を見せ、軽く頭を下げた。


「今日はどうもでした!色々と話ができて楽しかったです。また会う機会があればいつか。」

「こちらこそ。」


僕は気恥ずかしさを感じつつブランコから立ち上がった。


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