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世界はいつも空色に染まる  作者: 三雲シュン
Ⅰ章 The beginning of everything
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不可解な事件

最近、世間を騒がせている事件がある。


東京都内で突然に人が姿を消してしまうという事件である。

それは単なる失踪だとか誘拐とかの類ではない。


僕も今朝ニュースで目にしたばかりだ。この半年で二十人に達したって。



事の発端は半年ほど前の某日、東京都港区の芝公園にて、深夜二時頃に起きている。


毎晩の習慣として散歩をしていた四十代の男性が、茂みの奥に人影があるのに気付く。深夜とはいえ都内の公園だ。人がいるのは珍しくない。

特に気にかけていなかったのだが、暫くして人影が光り始めたのだ。

その時にロングヘアだったのがシルエットで見え、女性だと分かったそうなのだが、数秒で女性は全身が明るい光に覆われて、一瞬のうちに消えてしまった。


単なる行方不明なら失踪事件として扱われるだけだが、彼らは本当に〝消える〟瞬間を目撃されている。初め、二、三人の目撃者の証言だけでは作り話、ないしはデタラメだとされていたが、その後何十人もの人々が消え去り、それぞれその瞬間を目撃した者がいる。


それら全ての件において共通していることは、夜に起こっていること、目撃者は遠目にしか見ていないということだ。

後者のこともあってか、捜索に必要とされる情報が少なく、彼らの所在は今なお全く掴めていない。宇宙人の仕業だとか、わけの分からない噂も広がっているが、結局の所真相は謎のままだ。



* * * * *



ふと窓の外に目をやる。

蒼白の空。その中に点々と浮かぶ白い雲。僕の心とはまさに正反対だ。


高一の三月某日、都内のとある高校のとある教室で、僕はいつものように窓際一番後ろの席に座り、いつものように学校生活を送っている。


教壇に立ついかにも国語教師といった感じの中年女性は淡々と板書を続け、甲高い声で理解不能の文法用語を羅列する。よくもまあいつもいつもあんなペラペラ口が動くものだ。


しかし僕はそんなことに正気に耳を傾ける気は微塵もない。

そもそも僕が学校に通い、今ここであのクソ教師の授業を受けている意味は何なのか。いやもっと言えば僕には生きる意味というものがよくわからなかった。


僕は都内に住む勉強も運動も平均ちょい下の高校生だ。

取り柄のない僕にとっては、夢や希望といったものがない。

だから僕には自身の存在意義を見いだせなかったのである。そうして今日もいつも通り授業を聞いては適当にノートをとって、時折窓から透き通るような青空を眺めては、物思いにふけっていた。



教室を見渡すと、殆どの生徒は授業を真面目に聞いている様子である。


僕は生まれてからのこの十数年間というもの、何一つ気苦労なく生活してきた。


逆に言えば何を考えるということもなく、あるものに無我夢中になって没頭するということもなく、平々凡々な日々をひたすらに過ごしてきた。この都内でもある程度の知名度を誇る中高一貫の進学校に入学したのも、言ってしまえば僕の意志ではなく両親の思惑にはめられただけのような気もしなくはない。


一週間後には来年度の文理選択、志望校調査用紙の提出が控えている。この教室にいる皆は何かしら目標を掲げて、道を突き進んでいるのだと思うと、孤独感に苛まれてならない。


僕はこれから何をすればいいのか…。

この人生の大きな分岐点で、僕は葛藤し続けていた。




チャイムが鳴る。


六限目終了の合図だ。

号令を終え、あのクソ教師はさっさと教室を出て行く。


「なぁ。」

話しかけてきたのは前に座る大原だ。野球部員のがっしりした体格の奴である。野球部員ではあるが坊主ではない。別にこの高校ではそのような決まりはないようで。


「そう言えばさ、最近話題の事件、お前はどう思う?」

唐突である。

「は?何だよ、いきなり。…話題の…って、人が光に包まれて消えていくっていう?」

「ああ、別に最近まで気に掛けてなかったんだけどよ、近頃妙に取り沙汰されてるだろ?なんか…気になり始めてな。あのつまらん授業中に色々考えてたんだけどな?」

「真面目に受けろよ、授業。ってまぁ僕も人に言えたものじゃないけどね。」

「お互い様だろ?成績は。」

大原は苦笑を浮かべる。


「…で?考えた結果は?」

「…宇宙人の仕業だよ。」

「バカか?」

即答する僕。

「いやいや、そうとしか考えられないだろ?じゃあリュウはどう考えてるんだよ?」

「…うーん…分かんない。けど…不思議な事件だよね。人がいきなり消えるなんて。」

「ああ…。ま、どっちみち俺たちには関係ない話だけどな。」


そんな大原とのたわいもないやり取りの後、僕は机にかけてあった鞄を手に持ち、椅子をひくと、大原は気を取り直して、といった感じで再び声を掛けた。


「今日、ヒマ?」

帰宅部であるということは勿論知っているので、塾の予定があるかとの意味で聞いたのだろう。

「別に用はないけど?」

「んじゃ山岸と氷室も誘って遊ぼうぜ!」


大原も含め三人とは小学校からの幼馴染である。山岸、氷室とは今は別のクラスではあるけれど。

小さい頃からよく遊んだものだが、高校になってからは帰宅部の僕を除いて皆部活に忙しくなり、夏休みや冬休み以外だとなかなか集まる機会は少なくなった。


もう春休みも近いので、どの部活も少しずつ活動は減っているようであり、遊ぼうということは他の二人とも既に話を持ち掛けた上での誘いなのだと悟る。


当然僕は久しぶりの集まりということもあって二つ返事でOKした。


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