表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
装工機動の刑事たち  作者: あさいち
序章『路地裏にて』
1/4

シーン1.報告

薬物乱用者(トラ)三名、薬物売買人(ネズミ)二名を目視確認。渋谷区を逃走中。ただちに身柄を拘束しろ』

『了解しました』」


 東京都渋谷区。そこは東京都の主要区域の一つ。

 渋谷区は人が多いことで有名である。ある年の国勢調査によれば、その昼間人口は五十二万人にも及ぶという。特に渋谷駅前の大通りは一日中人が絶えないと言ってもいい。スクランブル交差点はその最たるものだ。

 通学中の学生。ハチ公を見に来た外人の観光客たち。仕事に向かうサラリーマン。人が多いということは、目立った行動は出来ないのと同じだ。そんなことをすればすぐに人だかりで埋め尽くされるだろう。つまり、昼夜を問わず何万人もの監視下に置かれている訳である。


 その言葉の裏を返すとこうだ。

 人がいない場所はルールが存在しない「無法地帯」と化す。


 その大通りから少し離れた路地裏。

 誰も近づかないであろう暗がりの中、そこには二人の男の姿があった。

 一人は帽子をかぶった男。体格はあまり良くない印象を受ける。顔は帽子でよく見えない。もう一人は身長が高く、あごひげが特徴の男。一言で表すならば、どこにでもいそうな中学校の教師。二人に共通しているのは黒いスーツにネクタイ、眼鏡をかけていることだった。外見はごく一般的なサラリーマンだが、彼らは一つ変わった所があった。

 スーツの内側、至るところから機械の駆動音が聴こえてくるのだ。

 インカム、金属製の補助関節、両手には黒いグローブ。履いている靴の側面は所々緑色に点滅している。恐らく何らかの細工がなされているのだろう。その姿は介護用のアシストスーツを連想させる(見た感じでは彼らに介護は必要なさそう年齢なのだが)。

「泉先輩。虎と鼠、どっちを追いかけます?」

 帽子の男が眼鏡のふちに手を当てながら言った。いや、手を当てるではなく、操作しているの方が正しい。

 彼のかけている眼鏡のレンズには渋谷区の地図が表示されていた。地図を拡大していくと、三つの赤い点が地図上を動いているのが分かる。

「俺が鼠を担当するからお前は虎を頼む。これ以上虎を放っておいたらエリアB署の手に負えなくなるからな。今のうちに始末しておけば後で困らないだろう」

 泉と呼ばれたあごひげの男は答えた。口から発せられた"始末"とは、いったい何を表しているのかは検討もつかない。

「鼠の捕獲に失敗すれば今後の被害が拡大する恐れがあります。初期目標は鼠、それに虎は三人。エリアB署からは機動隊が出ていますし、二人がかりで鼠を捕獲しませんか?」

「あのな、南雲。上からの命令が鼠とは言っても実際に現場でどうなるかは誰にも分からない。もし機動隊が間に合わず、あの腐った薬物乱用者(トラ)どもに襲われた人がいたらどうする?鼠はこっちで何とかするから。お前は虎の方に行って来い」

 帽子の男、南雲はしばらく納得のいかない表情をしていたが、すぐに気持ちを入れ替えたようだった。

「分かりました、虎が第一目標ですね。泉先輩も気をつけてください」

「おう、言われなくてもそうするさ。何事も臨機応変にな、南雲」

 二人は互いに会話を交わした後、別々の方向へ体を向けた。

 南雲はつま先で靴の調子を確かめつつ、

「では、またあとで。『装工機動・開始(アシスト)』」

「オーケー。作業が終わり次第連絡するわ。『装工機動・開始(アシスト)』っと」

 キュィィィンと甲高いコンピュータの処理音。靴の点滅が緑から青へと変わる。そして一歩目を踏み込んだと思った瞬間。

 拳銃の発砲にも似た破裂音を残して彼らの姿はすでに消えていた。そのアスファルトには二つの焦げたような足跡と大きな亀裂が入っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ