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律渦は災禍  作者: sniper
第一部
17/27

自分に足りないのは……(上)

短くてごめんね!だってしょうがないじゃん?

今日は母が帰らない。

そうメールが入っていることに気付いたのは、五時限目の体育のために着替えているところだった。

脱いだ制服を、ベルトを外さずにそのまま単純に折り畳んでいる最中。逆さまになったスラックスのポケットから、するりと携帯電話が抜け落ちた。

あっ、という声を出す間も無く自由落下が進み、脳の認識から身体が反応するよりも前に、俺の足の甲に、そいつは勢いをつけてぶつかった。

「痛てっ……」

思わず声が漏れる。未だざわついた更衣室代わりの教室では、その声はかき消されて誰にも届かない。届いたところでどうしろというところだが。

とにかく、声を漏らす程度には痛かったということだ。上履きの覆いの上からだったためにあまり大事は無かったが、これが直接だったら確実に痛めていただろう。

「…………はぁ」

俺は溜息を吐きつつ、足元に転がったそいつを拾い上げた。ついでにぶつかったところも軽くさすっておく。あぁ、苛々する……。物を足の上に落とすなんて、リアクションも含めてかなり地味な絵面だが、こういうことが割とストレスに繋がるのだ。つまり地味な生活程、精神的によろしくない。といえるのかもしれない。

そんなことを一人だらだらと考えながら、再び元のポケットへと携帯電話を仕舞う。しかし、携帯が黒い布地の下へと吸い込まれ、見えなくなったその後。俺はふと気になって、もう一度ポケットに手を突っ込んだ。

「ん?」

その勘は当たっていた。再び見つめた携帯の画面には、着信履歴とメールが一件ずつ追加されたとのお知らせが表示されていた。

「はぁ~」

最近こういうの多いなぁ。独り言にもならない声を漏らしながら、まずメールの文面を確認する。差出人は律渦だった。

『件名:なし

本文:今日は母帰ってこないみたい。ご飯は自分たちで用意しろだって』

「ん?」

内容はなんてことはない、ただの報告だった。しかし、俺は携帯の液晶を見つめながら、首を傾げる。

母が帰ってこないことは、別に珍しいことじゃない。検察官という仕事上、仕方無いことも理解している。それだけじゃなく、律渦も(一応)俺も、その誇り高き仕事を応援してあげたいと思っている。

それを双方解っているから、わざわざ連絡など寄越してこないし、求めてもいない。

だからこういうメールが来たことに、俺は意外感を抱いているのだ。

……何かあるのか?

メールの意図を訊こうにも、もうそろそろ教室を出ないと授業に間に合わない。

……まぁ、ただの気紛れだろう。俺もたまに、いつもはやらないことでも、気付いた時にふとやることはあるし。部屋の掃除とか。

「お前、そろそろ行かんと」

どうやらいつの間にか時間が過ぎていたらしい。もう授業開始まで二分とない。

「あぁ、そうだな」

俺は警告してくれた西山に礼を言いつつ、教室から小走りで抜け出した。



放課後―――。

下駄箱から出て、校舎を背に校門へと向かう道すがら。

何の気無しに開いた携帯電話の画面に、まさか本日二通目のメールの着信通知が入っていた。

思わず出た意外そうな表情を衆目に晒しつつ、内容を確認。なんと今回も、差出人は姉たる律渦だった。

『件名:なし

 本文:今日はハンバーグ作るから卵と合挽き肉買ってきて』

「…………ほほう」

そういうことだったのか。

母は知っていたのだ。夕飯を自分で用意しろと言われたときに、決まってカップ麺やカップ焼きそばで済ませていたことを。

察するに、律渦には予め言っておいたのだろう。自炊しろと。俺に言うと決まって面倒だなんだという反論の末に結局またインスタントで済ませることになる。律渦は母に対しては割と素直だ。くぅ……ここ数か月、“私”が律渦に甘々だったことを見抜かれていたか……っ!

「はぁ……」

仕方無い。作るか。律渦は俺よりは料理の経験があるようだが、今は一応、普通じゃあないんだ。それなりに心配でもある。そもそもそこまで強硬に拒否するようなことでもない。

「さてと」

誰にも聞こえないような声で自分を鼓舞しつつ、俺はスーパーへと続く道へと帰路を逸らした。

ちゃんと書くから見捨てないでください

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