見分けられる雰囲気
短いですが書いたので上げます。
継続の意思はある。完結の意思もあることの現れです。
「神楽さ。お前最近変だぞ」
「ん?あぁ、平戸か」
二限と三限の合間。移動教室のために席を立った俺に、丁度同じタイミングで廊下に出た平戸が話しかけてきた。
「俺が変なのなんて、今更だろう?」
「いや、そういうことじゃなくって……」
見知らぬ一年生数人と、肩が触れ合うような近さで擦れ違った。廊下でいつまでも立ち止まっていると邪魔になるな。
俺はまだ話を続けようとしている平戸を置いて歩き出す。奴もすぐに気付き、不満気な態度も見せずに足並みを揃えてきた。……俺が置いていこうとしたことに、気付いてないからだろうな。
「なんかさ。雰囲気が変わったんだよ」
「自分で言うのもなんだが、俺は割と雰囲気が不安定だぞ」
「それは単に情緒不安定なだけだと思うんすけど」
それだと俺が病気みたいじゃん。精神病には罹ってない筈―――律渦から伝染されない限り。
……精神病って、感染しないよね?
「俺は今のところ、お前の言っとることが理解出来てない。もっと要領良く話せ」
「それを神楽には言われたくないんすけど……」
文句はいいから早く言え。
「俺も上手くは言えないんだけど……まるで、神楽が別人みたいに感じることがあるんだよ。それもかなりはっきりと」
別人に感じる?
「……お前、そんなに俺のこと見てたの?」
「チゲェヨ!気持ち悪いこと言うな」
ただの冗談にそこまで反応してくれるお前が、俺は結構気に入ってるよ。
「多分、誰の目から見ても明らかだと思うよ」
そこまで言うか。…………。冗談を言ってるようには見えない。本気で俺が、そこまで変わったように見えてるのか?
「……いつから?」
「前の体育のとき」
あぁ……あのときか。俺がバスケットボールの時に、不注意で怪我しそうになったやつか。
「ふぅ……。話は解った」
「そうか」
俺の雰囲気が、まるで別人のようになるときがあるというのは解った。それが周囲に普通に気付かれるレベルのものであることも解った。そして、それが俺の無意識で起きていることも解った。
だが―――
「それで、俺にどうしろと?」
「は?」
「だから。それを俺に話して、どうしてほしいんだ?お前は」
傍からどう見られようと、実害が無い限り、今の俺にはどうでもいい。それに、俺はただ会話する機会が多いだけのこいつらに、心配や忠告を向けられることは望んでない。むしろ迷惑だ。
「俺がお前らに、無意識とはいえ迷惑をかけてるのなら謝ろう。だが、ただ気になったからというのなら、この話はもう二度としないでほしい。こちらが迷惑だ」
「っ…………」
基本的に、俺たちは徒党を組まない。止むを得ない場合は別とするが、個人で行動可能なときに群れを成すことは、今までも無かったし、これからも無いだろう。
それを、こいつは理解している筈だった。
「……スマンかった。俺が言うべきことじゃなかったな」
平戸は納得してくれた。
「で、話は変わるんだけど―――」
重くなっていた空気を吹き払うように、平戸が別の話題を提供してくる。こういう切り替えが早いのは、素直にすごいと思う。……しかもこいつの場合、前の話題を気にして話してるわけじゃないからなぁ。気遣いじゃなくで、嫌な話題をスッパリ意識から切り捨ててるってのがすごい。
結局、教室に入って別々の席へ着くまで、俺と平戸は平方関数の話題で盛り上がった。
俺は自席で授業開始を待ちながら、平戸の方に意識だけを向けた。
―――元来、あいつはお人好しだ。
気になった人には気軽に声はかけれるし、人から冗談半分で頼まれたことでも、大抵のことはやってくれる。責められてる人がいれば、素直に可哀想だからと話しかけたり。
俺とは違う人間だ。
だから―――
何で俺のスタンスが理解出来るのか、それが一番理解できない。
俺は平戸を意識から外しながら、自分の思考をそう締めくくった。
どうでしょう。彼の変化は、果たしでどう影響を及ぼすのか
及ぼさないのか