●●喫茶は喫茶店とは違う
お久しぶりです!艦これやってたら全然筆が進まなくて・・・。すいません。気をつけます。
よ、よりによって───
「ここ……ですか」
私は向かいに座る麻里さんではなく、右斜め前方で注文を取っているウェイトレスを見て言った。
「うん。何か変?」
「いや、何が変かと言われれば……」
私は見える範囲をぐるりと眺めてから、
「はい。全てが変ですね」
「あはははっ」
そうキッパリと答えた。麻里さんには笑われたが。いや、別にふざけて言ってる訳じゃないんですけど。
喫茶店というよりもファミレスの様な内装。これはまだ許せる。
可愛らしい給仕服を着たウェイトレス。まぁこれも、許容範囲だろう。
私達の一個後ろの席での会話。
「可愛いですね~っ」
「そんな、ありがとうございます」
「声も女の子らしくて……。うわっ、うわぁ~っ。これでホントに女の子じゃないんですか?」
「そうなんですよぉ。残念ながら、これでも男性です」
……これ完全にアウトじゃないですか?だって、女装してんですよ?店員が。あんな……あんな可愛らしい服着て、顔立ちだってまんま女なのに……男だって言うんですよ!?(自分のことは全力で棚上げ)
「男の娘喫茶なんて初めて入ったわ」
朱音さんは口振りからして、麻里さんがこのような店を行きつけにしていることを知らなかったようだが……。彼女にあまり動じた様子はない。むしろ何をしたら動じるのだろう。
「私は存在さえ知りませんでした」
「そう?結構有名だよ、ここ」
私が皮肉を籠めて放った言葉も、あっさり返される。くぅっ……流石は女子大生。
ピンポーン
「すいませ~ん。この“男の娘プリン”三つ」
「畏まりました」
「ちょっと待ってそれどんなプリンよっ」
私の反射的な割り込みにも動じず、機械的に注文を取ったウェイトレスの可愛らしい男の娘は、一瞬だけこちらに……意味深な微笑みを寄越してから歩き去った。くそぅっ。こちらが悔しがってる間に、麻里さんにさらっと注文されてしまった。まぁ、辛うじてツッコミが間に合ったので良しとするが……っていや、駄目だろ。何が一番駄目って、私はツッコミキャラじゃないのに突っ込んじゃったことだよ。
「顔色悪いわよ?」
「朱音さんは変わり無いですね」
この場の異様な空気を、彼女は早くも受け流している。……流石だ。その寡黙そうな見た目は伊達じゃない。
「お待たせしました。男の娘プリンでございます」
そんな風にやや失礼な感心をしていると、とうとう注目の男の娘プリンがやって来た。フリフリの制服を着た女の───じゃなくて男の娘が、テーブルに丁寧な手つきでプリンを置いていく。
「ん?」
自分の正面に置かれたそれを見て、私は思わず声を漏らした。
「別に普通に美味しそうなプリンだけれど……」
何処に男の娘の要素が?そう思って麻里さんを見ると、彼女はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべた。その表情って、意外と苛つきますね。
「ではお客様。男の娘プリンについてご説明致します」
麻里さんに冷たい目線を送っていると、テーブル脇に立ったウェイトレスさんはそう言って、持っていたお盆の裏に張り付いていた広告を胸の前に掲げた。劣化を防ぐように、きっちりラミネート加工の施されたそれには、確かに男の娘プリンについての説明が書かれていた。
『レディース限定特別サービス~☆』
そう題されている下に、プリンの写真や、所々フォントの変えられた説明文が書かれている。
『毎週火曜限定!男の娘プリン、男の娘ババロア、男の娘コーヒーゼリーを注文された女性のお客様には、私達ウェイトレス(男の娘)の胸を揉める“もみもみチケット”が贈呈されます!』
「ざっくり言えば、揉めます」
そう言って、つん、と胸を反らすウェイトレスさん。パットか何かを入れているのだろう。その膨らみは、女性の中では平均的な大きさを備えていた。ブラはCカップぐらいかな?私が着けてるのはAカップブラだから、二回りも大きい。
「フフフ……中々に揉み応えありそうだぜぇ」
何やら下衆い声が聞こえたなと思ったら麻里さんだった。あれぇ?ちょっと今更だけど、この人彼氏持ちじゃなかった?彼氏さんも、別に女顔だったり背が低かった憶えは無いんだけど。あぁ……この人の中身が読めない。そうポーカーフェイスの裏で軽く戦慄していると、ウェイトレスの男の娘が盆に乗っていた三枚の紙を取り出した。
「ではお客様。チケットの方は今使われますか?」
「「勿論」」
「いえ私は……って朱音さんまでっ?」
問われるやいなや恐るべき反応速度で即答した二人の女子大生に、私は思わず驚愕の声を上げた。
「何驚いてるの?そもそもこのお店を麻里に教えたのは私よ」
「え?さっき初めて来たって……」
「あれは嘘よ」
そんな涼しい顔で言われたら、何だかこっちが気づかなかったのが悪いみたいじゃないか。流石は女子大生だ。
というか男の娘ってサブカルチャーの分野だった筈……。
そう思い立ったと同時、私は彼女達と初めて会ったときの、あのカラオケボックスでのことを思い出した。
あのときの朱音さんは、まるで何かを吐き出すかのように、はっちゃけていた。私のチョイスした懐かしいアニソンに反応し、暑苦しいボカロ曲に叫び声を上げ、涙を誘うゲーソンでその歌唱力を披露した。普段は落ち着いた雰囲気を纏う頼れる先輩なのだが、あのときばかりは正直、私でも軽く引きかけた。
「それで、神楽ちゃんは揉むの?揉まないの?」
朱音さん。その無表情で両手をワキワキさせるのやめてもらえません?
「……まぁ、とっとくのも何ですし」
どうせ溜まったレシートと一緒に捨てることになるだろうし。ウェイトレスがこちらを見てきたので頷く。すると彼女───いや彼か?───は、チケットをポケットに仕舞い、つんっ、と胸を反らした。
「ではどうぞ」
この人やけに積極的だな……。揉まれるの好きなのかな。痴女?いや、男だから違うか。じゃあ何だ?
とかなんとか遊んでいたら、いつの間にか二人とも揉み終えていた。……あれ?次私?ウェイトレスさんに目を向けると、先程よりも何故か紅くなった顔でこちらを待ち遠しそうに見つめていた
「ハァ……ハァ……。早く、私のをメチャクチャに……」
「あの、ちょ、何か発情してません?」
二人の女子大生を見るも、はよ済ませろとばかりに顎をしゃくるだけ。
「……解りました」
私は覚悟を決め(たわけではなく諦めた)、ウェイトレスさんに向き直った。よく見れば見るほど、つくづく女にしか見えない。
「いきます」
私は両手をお椀型にして構えると、一思いに腕を突き出した。
ふにょ~ん
パットだと思っていたからか、その柔らかい感触に私は思わず目を見開いた。
私自信も、一身上の都合上、パットを使用することはある。だがこんなに弾力もあって柔らかいものは見たことがない。
まるで……そう。
律渦の胸(手で揉んだことはないにしろ)の感触を思い出してみれば、このパットが本物に酷似していることが判る。
「……というか本物でしょうこれ」
手を離して、私は無意識に呟いた。顔を上げる。ウェイトレスさんは、赤らんだ顔をふいっと逸らしていた。
……ぇ?マジで?
「まぁ、そういうこともあるわよね」
私の胸中の問いに応えたのは、プリンの端を突っついていた朱音さんだった。
「そう都合良く、こんな可愛い男の娘が揃うわけない。本物の女の子で水増しするのも、仕方無いといえばそうかもしれないわね」
他の客に聞こえないよう配慮された囁き声には、呆れや怒りよりも「やっぱりそうか」という納得の色が滲んでいた。
「ん?どしたのみんな」
麻里さんはプリンに夢中で気づいてなかったようだが。
「えっ、と……」
この状況はどうしたら?私は一先ず落ち着くため、自分の分のプリンを口に運んだ。
今回もちゃんと続き考えてあるから大丈夫!一ヶ月ぐらい待ってて!運が良ければ二週間ぐらいで更新できるから!