表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

第二部

【まえがき】

 ※一部はその意味をルビに頼っていますので、IE推奨です。ルビが表示されない環境で閲覧した場合、作品そのものの存在意味がなくなる可能性があります。


 ※尚、旧かなづかいは似非です。

    『心地好い日和の中で死に逝く男のうた』



こんなに気持ちが良いのは久方ぶりだ。

あれは小瑠璃(コルリ)野鶲(ノビタキ)か、

それとも俺の錯覚だらうか。

ともあれなんと爽快だ。

俺が逝つちまつても、知つてゐるのは()の俺だけとは。

もう痛みさへ感じなくなつちまつた。


とほくで煙が上がつてゐる、

あれは何処の都市だらう。


叫喚を聞かずに済むのは幸いだつた。

(むこ)ふではきつと酷い有様だらう。


  あゝ、こんな世にしたのは何処のどいつだ。

    それでも相変わらずの体たらくにちがいない。

  やれ困つたものだ。

    きつと今頃は、己の失策を投げ出して、

      逃げ支度に忙しからう。


あゝ、もう痛みさへ感じなくなつちまつた。

俺を焼くのは原子の灯だつたか。



  ◆◆◆



    『はるか戦線のかなたで』──第一部



ごうごうとゆき交うは科学の勝利。

だが彼らを見よ──。


  観念と理念とイデオロギーとを持たない

  嘲笑する彼らの顔を!


父は無作為な希望を描き、

母は泥の子供をコネあげる。


  (その母も泥だ!)


復興ののち、わずか半世紀で築き上げた体系だ。


  土は土、泥は泥に帰すしかない。


笑いながら殺し合う彼らを見ても、

私は少しの涙さえ流せない。


  (サテ、彼ラノ落トシ物デモ拾ッテ歩クトシヨウ──

  マダ何カ、残ッテイルカモ シレナイナ……)


さても、私は泥の子を作るのか?

まあ煙草でも吹かして考えよう。

時間は無限だ──そのことに気づきさえすれば。


  (シカリ──!)



  ◆◆◆



    『はるか戦線のかなたで』──第二部



人の肌より生ぬるい風が吹いている。

誰もそれとは気づかない。

けれども風は吹いている。

まだ若い実も、ほどよい実も、

熟れすぎた実も、見境なく落としてゆく。

目ざとい者たちは、足々のあいだをかいくぐっては、

落ちた実の中からほどよい実を拾って回る。


  そうら、またひとり、馬鹿な奴が やって来た

  宿無しのキチガイめ!


彼らの嘲りが私の身を焼き尽くす。

それでも私は手を休めない。

今宵の月と、明日の太陽が、

傷を癒してくれるだろう。

そうして差し出される手がある限り、

配ってゆくのだ。


  (風よ吹け 吹けよ吹け──

  躊躇うことはない さあここだ!)



  ◆◆◆



    『はるか戦線のかなたで』──第三部



私を養ってくれるものは

インクと、ペンと、上質紙。

だが少しでも気を許すと、

たちまち私に襲いかかるものたち……。

私を(くる)み、目を塞ぎ、脳髄を掻き出し、

私を駄目にしてしまう。


──ちがう 媒体が私を生かすのだ!


  おお、そうか……所詮私は屈するのか。

  そうして、自分でもっとも厭なものへと

  変質してゆくのだ!


生きるために、私は裏切り続けるのか?

差し伸べられた手を打ち、

我とわが身をつき刺してまで!


  (真実なんぞ糞くらえ!

  一文にもならない穀潰しめ!

  こうでもしなけりゃ、

  生きてゆけやしないじゃないか!)


もうどうなったって、知るものか……!



  ◆◆◆



    『朝』



チクチクと根気強い雨音に目覚めれば、

まだ明けぬ()に、タアルにまみれた肺と、

曇つた脳梁(のうりよう)だけがあつた。

ストオブに火を入れてみても、狭いくせに、

かういふ時はちつとも温まつてくれない(へや)だ。


 シユン シユン

  シユン シユン、と


シトオブは古ぼけた機関部を燃やしてゐる。


私は震えながら(けむ)()し、

壊れたストオブよりも熱い珈琲を()む。


 あゝ──私は今日も生きてゐる。

  あゝ……本当に 今日も地球は、

  廻つてゐるのだなア。


冬とも春ともつかぬ朝だまり、

さういふ感嘆符と共に今日が始まる。



  ◆◆◆



    『わが娘に贈る言葉』



そらよ あなたの名はそらです。

それは(そら)であり、宇宙(そら)なのです。

ですからそらよ、

大地を捨てることを、怖れてはいけません。

あなたは私の子ではない、

あなたには父も母もいないのです。

とほくはアンタレス、ときにはバアナアドが、

あなたの父であり、母となるでせう、

けれども(しば)られてはなりませぬ。

呪われた住人の言ノ葉に、決して惑わされることのないやうに、

静謐(せいひつ)沈黙(しじま)に耳を傾け、澄み(わた)つた漆黒に眼を凝らし、

七色の声を聴いて御覧なさい。

そして大海原の突ツ端にふと立ちよどんだ折にでも、

私たちのこをを思ひ出しておくれ。

私たちは常にあなたと共にゐるのですから。

だから怖れないで、

そらよ、馳せなさい。



  ◆◆◆



    『わたしのゐる風景』



向日葵(ひまわり)がボウボウ燃えてゐる。

けれども、お日様は限りなく優しく、

わたしの(からだ)を、ふつふつと焼き上げる。

お日様の匂ひのするわたしの(からだ)に、

小鳥たちは寄り添ひ、

鳥たちの歌声は風に乗り、一斉に羽ばたく。

それは(むこ)ふで遊んでゐる子供たちへと届き。

やがて子供たちは、お日様の吐息で答へる。

  クスクス……

   囁く声に目を開ければ、

世界を見通す、瑠璃(るり)のやうな四つのガラス(だま)

 何を見てゐる、子供たちよ。

  その()をしつかりと見せておくれ。

    クスクス、

      クス……。


甘い接吻と草いきれ。

 私の首にこめられた、

  紅葉のやうな白い手と、

    紅葉のやうな白い手と……。



  ◆◆◆



    『世界の中心で愛を叫んだけもの』



人々の頭脳はとり々のアンペアに繋がれて、

自らの輪郭さへ失いつつ、

なにおもひ描くこともないでせう。


  がらんゆあをん……

   ゆあゝをん……


電飾輝く路地に子を堕とし、

(それ)畢竟(ひつきやう)だなどと思つてゐる。

彼らの誓文(せいもん)はいよいよもつて薄弱で、

白い世代への受け渡しはますます速い。

(つひ)には空虚な(むくろ)が全てを覆うのです。


  がらんゆあをん……

   ゆあゝをん……


 ポトホト(なみだ)(こぼ)れます。

  そぞろに想ひが(あふ)れます。



  ◆◆◆



    『待ち合はせ』



ちぢれた柱の(むこ)ふで、あなたと待ち合はせ。

とほりの喫茶は、まだあるかしら?

がらんだうな広場をすぎる、


  ヂリドウシヤン 盲目少女(めくらむすめ)

    ズチドウドウ 嬰児(みどりご)ひとつ。


けれども、あなたの(からだ)は何処でせう?

ならばあたしも気がふれやう。

手頸(てくび)を垂れて参りませう。

紅リボンの綺麗なこと……。


 ((ああ)……あなたはきつと来てくれる!)


だつてあたしたちは、

こんなにも愛し合つてゐるんだもの!

とほくほのほのさなかから、

たとへどんなに変はり果てやうとも、

此処(ここ)に辿りつくでせう。


  おゝ、なんと云ふ愛!

   ヂリドウシヤン あなたにも。

    ズリドウドウ あなたにも。

     分けてあげませう。

【あとがき】

 閲覧ありがとうございます。

 今回の『第二部』は、昔に同人で書いた古い作品群です。

 あと少し残っているので、近々『第三部』としてアップします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ