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プロローグ

大いに批評して欲しいです。

 耳障りな音が響き渡り、目障りな赤い光が飛び交う。

 そんな上下左右が赤く染まる鉄の壁に囲まれた、息が詰まりそうな通路を、革靴を響かせて早足に過ぎて行く一人の男がいた。彼は壁の前に立ち止まると、その壁に手をかざした。すると無音のままに壁は上へと持ち上がった。

「警報を切れ」

 彼は部屋に入ってすぐにそう言うと部屋の中央へと進んでいった。

 その部屋は高さ10メートル、幅20メートル、奥行き8メートル程のかなり大きな部屋で、壁一面にはモニターが有り、それぞれが何処かを映し出していて、数十人もの人間が必死な顔でコンピューターに向かっていたり、スピーカーに向かって何か怒鳴っていたりしていた。

 コンピューターに向かっていたある男が中央に到った男に向かって言った。

「隊長、(あい)(ゆう)が脱走しようとしています。」

「ああ、判っている」

「現在、警備に当たっていた何人かの実動部の人間が対処に当たっていますが、僅かに進行の速度を遅らせる程度のことしか出来ていません」

「今の態勢で彼女等を止める事など出来ん。対処に当たっている者を直ちに退かせろ。無駄に被害者増やすな」

「しかし・・・!」

「今此処で何を言い合ってもどうにもならん。君は対処中の人間に退避するようを呼びかけてくれ」

 言うが早いか男はきびすを返し、入ってきた扉を通って廊下へと出た。

 彼は走らず、しかしかなりの早足で、革靴を響かせながら荒々しく進んでいく。

何度目かの角を曲がった時、視線の先に、通路を遮る様な大きな扉があった。そしてその扉に背もたせている男がいた。

 早足で歩いて来た男が、独り言を呟く様に言う。

「IとUが逃げ出した」

「ほぉ、まさかそれが本当だったとはなぁ」

 明らかに、判っていた事をわざわざ誇張して言っていると判る。そしてその理由も。

早足で歩いて来た男は、顔を悲痛にゆがめ、

「即刻追跡隊を結成し、彼女を追わせてくれ」

「? 追跡隊? 捕獲隊じゃねぇのか?」

「ああ、付け焼刃で結成した隊では、彼女等には遠く及ばない」

「はっ! なるほどねぇ!」

 あざけ嘲る様に言う。

「くっくっ、全く甘いねぇ」

「出来る限り早く頼む」

「はいはい、判りましたよ」

 そう言って背を扉から離すと、大きな扉をすこし開き、その僅かに開いた隙間に体を滑り込ませた。その直後に扉の向こうから怒鳴り声が聞こえて来た。

 取り残されたように一人たたずむ男は、悲痛にゆが歪めた顔を上に向ける。

 其処には空など無い。さらに言うならば、その先何十メートルも空など無い。

 しかし彼は、何十メートルも先にある、見えもしない空に向かって、いるかどうかも判らない神に祈った。

(どうか・・・・・)



 草でできた、黒い海がある。

 黒い海が風でうねる。

 その海は、当然として、星も月も、空の闇さえも写さず、ただ黒い。

 そんな黒の海を切り裂いて行く影があった。

 それは二人分の人影だ。

 二人とも女性でかなり若い。

 長身長髪の女性が少女と言っても過言ではない小さい女性の手を引き走っていく。

 それは、美しく、力強く、そして何より鋭利な、そんな走りだった。

 彼女達が来た方向に目を向けると、地平線上に星に雑じって、人工的な赤い大きな光が見えた。

 それは静かな黒い海に有る、唯一の雑音源でもある。

 長髪の女性が僅かに首を曲げ、後ろの光を見た。

 そこにまだそれが在る事を認め、長髪の女性は幼女の手を引く力を強め、体をより前に傾け、走りをさらに鋭くした。

 小女の足が浮く。

 小女の体がその速さに慣れ、また足が地に着こうとするが、長髪の女性が速度を上げ続けるので、それは叶わない。

 長髪の女性が歯を食いしばり、「ぎり」という何かが削れる嫌な音がするが、しかし、その足は速度の上昇を止めようとはしない。

(この先にある時間を、必ず手に入れてやる。もうあんな暗くてスカスカな時間は、まっぴらだ。)

 明確な言葉として必遂の決意を思う。

 一方、激しい速さの中、宙に浮く小女はしかし、振り回される事も無く、まるで自分の意思で空を飛んでいるようにも見える。

 幼女の顔が、苦痛の気色を見せる長髪の女性の顔を見て、歪む。

 その幼女は背後に顔を向けた。そこには夜空がある。彼女の周りにある黒い海とは違う、宝石を散りばめられたような、深く優しい闇と光の海。

 そしてそこにい在るかそうかも判らない神に祈った。

(どうか・・・・・)



 彼女は一体何なのだろうか?

 退避命令が下され、訓練通り銃でけんせいしながら退いた奴は気絶させられた。自分の様に、恐怖で何が何だか判らなくなってしまい、背を向けて逃げ出した奴は助かった。恐らく、戦意が失せていると明確に判る奴等は見逃されたのだろう。

 あの紅く濁った目。

 消えるその長身。

 あいつは魔法使いか何かなのだろうか。

 この世に存在し、物理法則に縛られているはずのあいつは、素手で銃弾を叩き落した。

 ほんの二・三発ではあったが、確かにあいつはそれをやってのけた。

 一瞬にも及ばない時間の中で、あいつの腕は銃弾を越えるほどの速度に達した。それはつまり、あの腕が凄まじい加速度を持ったという事であり、それだけの加速度を生むだけの力があの腕に加わったという事だ。

 普通の人間と変わらないあの体で、何処からそんな力を生み出したのだろう。

 普通の人間と変わらないあの腕で、何故そんな加速度に耐えられたのだろう。

 そんな力を無理に出せば、体の至る所が崩壊する。もしそんな力を出せたとしても、腕はその加速度が生み出すGによって破砕するだろう。

 あいつは人間でも、さらには化け物ですらないのかもしれない。

この世の法則から逸脱した存在。

                                  悪魔。


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