白い月
白い月が照らすのは、美か、狂気か──
宮川オサムは、誰の目から見ても美青年だった。
男たちの視線さえ吸い寄せるほどの整った顔立ち。女の目に映れば、なおさらその美しさは際立った。
その夜、満月の白光が町を青白く染め上げていた。オサムは胸の奥でざわめく興奮を抑えきれず、一件のバーへと足を向けた。
薄暗い店内で、彼に声をかけてきたのが真夜だった。
──オサムは、近所に住む一人の少女と親しくしていた。可憐で、陽光を浴びたように輝いて見える女だった。
ある日、少女は忽然と姿を消した。小さな田舎町では、それは大きなニュースとなった。
捜索は続いたが、結局、行方知れずのまま打ち切られた。どこか遠くへ連れ去られたのだ、と噂された。だが真実は違った。
少女は、町から一歩も出ていなかった。少女の家の裏には、目に眩しいほどの緑一色の田んぼが広がり、用水路が迷路のように縦横に張り巡らされていた。
その用水路のほとりに、少女は隠れることもなく、ただじっと、そこに在り続けていた。
あの日、オサムは少女と用水路でザリガニ釣りをしていた。ふとした弾みで、少女は用水路に落ちた。オサムは懸命に引き上げた。
だが、少女はもう呼吸をしていなかった。生と死の境界が、まだあやふやにしか認識できなかったオサムは、少女が死んでいるとは思えなかった。
なぜなら、少女が口を開いたからだ。
「洋服がびしょぬれ…お母様に怒られちゃう」
「大丈夫だよ。ここでこうしていれば、乾くから」
そう言って、オサムは用水路の際に彼女を横たえた。
「乾くまで、ここに毎日来てくれる?」
「うん」
約束通り、オサムは毎日のように少女を見舞った。
数日のあいだ、少女は変わらぬ姿でそこにいた。しかしやがて、体が急に膨れ上がった。そして数日後には無数の蠅が群がり、甘い腐臭をまき散らし始めた。
蠅の織りなす黒い絨毯は、何日も少女を覆い、徐々にその数を減らしていった。
所々に、白い真珠のようなものが顔を出し始める。蠅が去ったあとには、美しい白い造形物だけが残っていた。
少女はもう、何も喋らなかった。けれど、その清らかな姿を前に、オサムの胸は高鳴った。これが少女の本当の姿なのだ──
服を剥ぎ取った下に、こんなにも美しい姿が隠されていたのだと。
──バーで意気投合した真夜を、オサムは自宅へと招いた。
「やだ…わたし、興奮してきちゃった」
「大丈夫だよ。ここなら、どんなに大声で叫んでも平気さ」
「あなたったら、いやらしいのね」
「ねえ、服を脱がしてもいいかい──」
静かな家の中で、満月の光だけが窓から差し込んでいた。
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