The Horror
料亭の個室で男と女が向かい合うように座っている。料理のほとんどは既にテーブルの上に運ばれてきていた。
「それで、どうだい?最近色々とホラーの小説なり映画なりがいっぱい公開されているじゃないか。やっぱり流行りなのかな?」
男が問いかける。
「まあ、編集部的にはね。私は今年からそっちから外されたから詳しいことは知らないけども」
女が答える。
「最近の作品で特に目を引いたものって何だった?僕は映画の『氷血』だけど」
「私はあなたみたいに暇じゃないの。そんな追えてはないわ」
「出版社勤めなのに?」
「だからこそよ、時間外労働みたいになっちゃうし、ある意味プロとしてしっかり見ないとだから気合いが必要なの」
女は答える。
「じゃあなんだ、最近の話題はよしたほうがいいか。じゃあなんだ、面白いホラー作品ってどういう作品だと思う?」
男はそう言ってホラー談義を始める。
「やっぱり恐いことが大事じゃない?」
女は答える。
「恐いっていうとどういう感じ?」
「どういう感じって言われると困るわ」
「言い出したのは君じゃないか。じゃああれだ、君が怖いって思った作品を教えてくれよ」
男は続ける。2人は話しながらも箸を進めていた。
「そうね、最近見たのだと『火喰鳥を喰う』はなかなか気味が悪くて良かったわ。あとは、ジャンプスケア全般とか?」
「君、自分で気味が悪いって言ってるじゃないか。それは怖いってのとは違うんじゃない?あと、ジャンプスケアは生理的な反応だと僕は思うな。ジャンプスケアが作品の恐怖としてアリなら実際の殺人映像を流すのが一番怖いって話にならない?」
「それって極論でしょ。でも、確かに気味が悪いと怖いは別かもしれないわ。だとしたら怖い作品って何があるかしら?」
女はそう話す。
「僕が思うに怖いことは究極的な目標であって怖い必要はないと思うんだ」
「へえ。というと?」
「映画の『ミスト』とか『シャイニング』みたいにあと気味の悪さ、それも納得感のあるものであるほど良いホラーなんじゃないかって一つの指標としてあると思う。ミストなんてまさにそれだろ?スーパーの副店長が化け物にある程度対処する描写があったからこそ最後のシーンへの納得感が生まれるんだよ」
「スティーブン・キングの古典ばっか挙げて。ギークらしい答えね。でも、それはあるかもしれないわね。けれども、それは恐怖とは違くない?ホラーってのは見ているものを怖がらせてこそじゃないかしら?」
女は問いかける。
「それができるならそうするのがいいんだろうね。でも恐怖ってのは僕たちの生活に基づいてると思うんだ。僕たちの命が脅かされる。今まで通りの生活が出来なくなるって状況が恐怖を、生むとしたら誰かが作った作品として見る時点で恐怖は生まれないんじゃないかって僕は思うんだよ」
「だとしたら、怖いって評価される映画とか小説は何なの?」
再び女は問いかける。
「それはやっぱり不気味さかな?『ミッドサマー』とか、『クローバーフィールド』みたいに見ているだけで、なんていうのかな不快に感じるのは恐怖に近い感情を想起させるのかもしれない」
「じゃあ、納得感のある不快な作品がいいホラーってこと?」
「それだけとは言えないと思うな」
男が答える。
「例えば、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの作品なんか翻訳の影響もあってとても不快感はあるけども正直意味がわからないで終わってしまう人のほうが多いと思う。彼の作品で評価されているのは比較的何を書いてるか分かりやすい作品群だからね。単純に物語として面白いこと。それもいいホラー作品の条件じゃないかな?」
「それは確かに納得かも。映画の『リング』は物語として良いどんでん返しだったわ。その典型例かも。でもあれは納得感のある不快な終わりでもあるわね」
「そうだね。でも、納得感のある不快さというのも物語としての面白さなんじゃないかな?とは言え、それだけを目指すのは違うだろうね。『着信アリ』とか流行ったとはなんかダラダラと薄気味悪いシーンを続けることが目的みたいになってしまっていたしね。あれあれで僕は好きなんだけども」
と、男は語る。
「私も、あの時代のああいう作品好きよ。ある意味ではあれは流行り表現のテンプレだったのじゃない?今で言うモキュメンタリーみたいな」
「確かにそうかもしれない。それに対するアンチテーゼ的な作品も増えてきたよね。なんというのかな霊能力系ホラーというべきか。怪異に対して殴りかかれる系ホラーだよね」
「確かにそうかも。映画『来る』なんて前半はずっと昔ながらのJホラーみたいな展開を続けて、最後に霊能力者大集合でのカタルシス見事だったわ」
「でも、霊能力者ホラーってのは案外起源は古いんだよね。シャイニングの原作ではシャイニングの語源が霊能力みたいなものだから。でも、時代の流れで今流行りが来ているのかもしれない」
2人は納得したように話を進める。
「結局のところ、元の話が面白いのが大事なんだよ。必殺恐竜神父は見た?あれはその筆頭だね。ホラーかって言って良いかは分からないけど、サブスクではそうなってるからね。あの作品はよく出来ていた。視聴者にツッコミどころを見せつけてそこに疑問を持たせながらあとから伏線として回収していたね。あと、忍者、忍者は良かったよ。面白くない展開を視聴者に見せるくらいなら忍者を出して戦闘にする。昔から言われる胡乱な技法だけども面白さには貢献していたね。全体的に粗はあるし、低予算だけど物語と演出が良ければいいの典型例だよ」
「それはどうかしら?最初に言ってた不気味さってのも大事だと思うわ」
2人は酒も飲み、出来上がっていた。
今がチャンスだった。
“俺は天井裏から飛び出した。”
「なんだお前!」
「忍者!?」
男女は口それぞれに驚きを漏らす。俺は真っ黒な装束を着て目元以外を隠していた。
この男は、路地裏で女子高校生に襲いかかった獣だった。
この女は、ありもしない記事をでっち上げて一般市民から金をせびっていた。
だから俺みたいな奴の出番だった。
鎖鎌を振るい男の首を掻っ切る。1秒もかからない早業に悲鳴一つ挙げず男は倒れる。
懐から苦無を女の眉間に投げる。狙いから寸分も外れなかった。
一瞬の出来事だった。
二人の命は暗闇から出てきた俺の手で終わらせられた。
恐怖とは暗闇から来るものだ。二人が話していたように自らを脅かすものこそ恐怖なのだ。
暗闇に潜むのは忍者俺たちだ。
皆既に忘れている。だが事実は変わらない。俺たちは平安時代からずっとそうしてきた。
恐怖ホラーとは忍者俺たちの事なんだ。




