其のいち「彼はタボちゃん」
我輩はタボではない、
我輩は筆者である。
これは実体験が元になってるので、とんと見当はついている。
夏目漱石の「吾輩は猫である」を真似て語り出したがご容赦願いたい。
今から語るお話は、エッセイ風小説である。
タボが見る、一見すると創作かと錯覚する出来事をご覧あれ。
タボは寝ている。
寝るのが好きである。
たんと寝ては母さんに叱られる。
――――、
ゴゲッ、ゴケゴッコォー
鶏の勇ましい鳴き声で、心地よい夢心地から叩き出され僕は呆然とする。
鶏は悪くないであろう。
自身の習性、
或いは習慣、なのだろうか。
今は、どうだっていい。
ただ、
僕は拳を握り決意した。
「あの鶏、絞めてやる」
ぼやけた目を擦りながら、洗面所へと向かう。
これは鶏が悪い。
あの鳴き声で起きなければ、僕は今階段から転げ落ちてないだろう。
もう一度、声を大にして言わせてもらおうか。
"これは鶏が悪い"
傾斜45度の階段を、寝起きすぐ転がらずに降りる方法を教えてくれ。
これでは、顔を洗う必要がなくなってしまった。
水道代が浮いたと思えばいいのか?
そうしようと思う。
父さん、
母さん、水道代が浮いたね。
親孝行な息子を持ってさぞ誇らしいだろう。
まあ、そう思ってくれていればいいけどな。
全身が痛み、後頭部を擦りながら食卓へと向かう。
先程の轟音を気にするかのように父さんがこちらを凝視する。
あんた、普段こんなんじゃ気にとめないでしょうに。
そんなに騒々しかったかな?
「おい、タボ。さっきのは大丈夫だったか?冷蔵庫の氷とって、冷やしときなさい。」
「わかりました。父さん。」
「あと頼みたいことがあるんだけど、いいか?」
なんだ、なんだ。
父さんから頼まれることで、いい思い出は片手でも数えられる程度――。
いや、数えるだけあるか?
テーブルに手を置き、静かに父さんは僕に告げてきた。
"母さんが鶏、今朝絞めたから神社行く前に血抜きしておきなさい"
――だって。
僕は、手に持っている鶏だった塊をみて思った。
"なんか、ごめんな"
戦いに勝ち、
勝負に負けた――。
いや、そもそも戦ってはいないが。
勝手に戦わせて、勝手に勝負に負けた気になっているだけである。
うん、なんだろうか――。
なんとも釈然としない。
まあ、いいだろう。
はてさて、勝手に納得をしている僕であったがお気づきだろうか。
家庭に鶏が1羽だけいるとお考えか?
否、
僕の家も、他の家庭と例外なく複数の鶏を飼っている。
今、絞められた鶏が、意識している鶏とは限らないのだ。
では、その鶏を見つけて絞めればよいではないか?
そんな面倒なことを遊びに行く前にするわけなかろう。
血抜きも終わったので、僕はそろそろ神社へ遊びに向かうとするか。
まだ、背中がズキズキと痛む。
明日は僕がお前たちを起こすからな。
鶏
《補足知識》
筆者))昔は、鶏をおめでたい時に食べる習慣があったらしいです。
筆者))年末年始、特にお正月とかに食べていたと聞きました。
筆者))ちなみに、作中で登場した鶏は「声良鶏」といいます。




