エピローグ「雪解けの庭で」
三年後。
季節は冬。
鷹司家の庭には、うっすらと雪が積もっていた。
あの日見た、冷たく絶望的な雪ではない。陽の光を浴びてきらきらと輝く、美しい雪だ。
「パパ! 見て、雪だるま!」
庭から元気な声が響く。
二歳になる息子・陽向が、小さな手袋をした手で雪玉を作っている。
レオがその横で、泥だらけになりながら大きな雪玉を転がしていた。
「陽向、もっと大きくしよう。ママがびっくりするくらい大きなやつをな」
「うん!」
縁側でお茶を飲みながら、私はその光景を眺めていた。
膝の上には、タブレット端末。画面には、新しく立ち上げたNPO法人――オメガの権利を守るための支援団体――の資料が映っている。
あれから私は、自分の経験を活かして、社会活動にも力を入れ始めていた。レオはそれを全面的にバックアップしてくれている。
「旭、寒くないか?」
レオが鼻の頭を赤くして近づいてきた。
「大丈夫ですよ。二人とも、風邪をひかないでくださいね」
「平気だ。俺たちは最強だからな」
レオが自信満々に笑い、陽向を抱き上げる。
かつて「死」と「復讐」しかなかった私の世界は今、こんなにも暖かな色で満たされている。
首筋のマーキング跡にそっと触れる。
タイムリープしたあの日、私は神を呪った。
でも今は、感謝している。
この奇跡を、この愛を、取り戻すチャンスをくれたことに。
「パパ、ママー! 写真撮ろう!」
陽向の呼び声に、私は立ち上がった。
「はいはい、今行くよ」
私は雪の積もる庭へと降り立った。
足跡がつく。
それは、私たちが確かにここに生きているという、揺るぎない証だった。




