第12話「決別と再生のバルコニー」
屋上への階段を駆け上がる途中、追っ手に追いつかれた。
踊り場で立ち塞がったのは、源十郎の側近である巨漢のアルファだった。
「そこまでだ、裏切り者ども」
男がナイフを構えて飛びかかってくる。
レオが私を突き飛ばし、男にタックルした。
「行け、旭! 先に行け!」
「嫌です! あなたを置いてはいけない!」
私は近くにあった消火器を掴み、躊躇なく男の後頭部に叩きつけた。
鈍い音がして、男が崩れ落ちる。
レオが驚愕の表情で私を見る。
「……君は、本当に強くなったな」
「あなたを守るためなら、何だってします」
私たちは再び走り出し、屋上のドアを蹴破った。
強風が吹き荒れる屋上。
ヘリのローター音が近づいてくる。
だが、そこに立っていたのはカイトだけではなかった。
源十郎が、車椅子に乗った状態で待ち構えていたのだ。
彼の手には、拳銃が握られていた。
「逃がしはせん……鷹司の血は、儂のものだ……」
狂気に満ちた目。
彼は震える手で銃口をレオに向けた。
「お前が死ねば、全て終わる。儂の失敗作め」
銃声が轟いた。
私は反射的に体が動いた。
レオの前に飛び出し、彼を庇う。
――また、死ぬのか?
それでもいい。今度は、彼を守って死ねるなら。
衝撃が走る。
しかし、痛みはなかった。
目を開けると、レオが私を抱きしめたまま回転し、背中で弾丸を受けていたのではない。
カイトが、源十郎の車椅子に蹴りを入れていたのだ。
銃弾は空を切り、源十郎の体勢が崩れる。
「ごめんねお爺様、年寄りの冷や水だよ」
カイトの冷ややかな声。
源十郎はバランスを崩し、そのまま手すりの低い屋上の縁へと転がっていく。
かつて私が突き落とされたように、彼は重力に従って虚空へと投げ出された。
「ああああぁぁ……ッ!」
断末魔の叫びが遠ざかり、やがて鈍い音がして途絶えた。
静寂が訪れる。
私たちは肩で息をしながら、呆然とその光景を見ていた。
歴史は繰り返された。けれど、落ちたのは私ではなく、私たちを縛り付けていた元凶だった。
レオが崩れ落ちるように座り込んだ。
私は彼に駆け寄り、抱きしめる。
「終わりました……レオさん、終わりましたよ」
レオは震えながら、私の背中に腕を回した。
「旭……無事か? 怪我はないか?」
「ありません。私たちは、生きています」
雲間から差し込んだ夕日が、私たちを照らし出した。
それは血の色ではなく、あたたかな、未来を照らす希望の色だった。




