第11話「陥落のシナリオ」
反撃の合図は、翌朝のニュースと共に切られた。
私が匿名でリークした情報をもとに、大手メディアが一斉に「鷹司グループの裏金疑惑」と「過去の失踪事件への関与」を報じたのだ。
証拠は完璧だった。レオが内部から集めた帳簿と、カイトが海外サーバーからハッキングして入手した源十郎の個人的な取引記録。
株価は乱高下したが、同時に発表されたレオの新事業計画と、「膿を出し切り再生する」という力強い会見が、市場のパニックを最小限に抑え込んだ。
世論は「悪徳な旧経営陣」対「改革派の若きリーダー」という構図に飛びついた。
屋敷のテレビでその様子を見ながら、私は執事の相馬に指示を出す。
「ネット上の風評コントロールは順調?」
「はい。ボットによる誘導も完了しています。批判の矛先は源十郎氏個人に集中しています」
相馬もまた、こちらの陣営に引き込むことに成功していた。彼は元々レオに忠誠を誓っていたが、源十郎の圧力に屈していただけだったのだ。
しかし、追い詰められた獣ほど恐ろしいものはない。
その日の午後、私のスマートフォンが鳴った。
非通知設定。
嫌な予感がして電話に出る。
『……見事だ、小僧』
しゃがれた、源十郎の声だった。
『だが、勝ったつもりか? 儂を失脚させれば、レオの過去も道連れになるぞ』
「何の話ですか」
『三年前の、あの日。レオがお前を突き落とした事実。その証拠映像を、儂は持っている』
心臓が凍りついた。
彼はそのカードを切ってきたか。
『もし儂が逮捕されれば、この映像が全世界に流れる。愛妻殺しの殺人犯として、レオは社会的に抹殺されるだろう』
卑劣な脅迫。
だが、私は震える声を抑えて笑ってみせた。
「どうぞ、流してください」
『……なに?』
「その映像が流れば、レオさんは被害者になります。狂った祖父に強要され、愛する人を殺さざるを得なかった悲劇の主人公としてね。私が全面的に擁護します。『あれは事故だった』と、生きて戻った私が証言すればいい」
『貴様……正気か?』
「ええ。あなたの時代は終わったんです。過去の亡霊にすがりつくのはやめて、大人しく退場してください」
電話が乱暴に切られた。
勝った。
そう思った瞬間、屋敷の警報が鳴り響いた。
「侵入者です! 数は十名以上!」
相馬の叫び声。
モニターを見ると、黒ずくめの武装集団が門を突破してくるのが映った。
源十郎が最後の実力行使に出たのだ。
私を拉致し、レオを殺すために。
「旭、ここから逃げるぞ!」
レオが部屋に飛び込んできた。
「でも、どこへ?」
「カイトがヘリを手配した。屋上へ行く!」
私たちは手を取り合い、廊下を駆けた。
背後から銃声と、ガラスの割れる音が迫ってくる。
これが最後の試練だ。
これを乗り越えれば、私たちは自由になれる。




