ご機嫌なレイズ
翌朝――。
まだ外は薄暗く、屋敷も静まり返っている。
よく眠れたのか、レイズの目覚めは意外にもすっきりしていた。
「……ん?」
布団から起き上がった瞬間、体がやけに軽いことに気づく。
思わず胸が高鳴った。
「まさかっ……!」
慌てて服を脱ぎ、鏡の前に立つ。
そこに映ったのは――
ぽよん、ぽよん。
「……お、おぉ……?」
お腹に残る柔らかな肉が、まるで「よう、相棒。起きたか?」とでも言いたげに揺れていた。
レイズは両手で頭を抱え、大きなため息をつく。
「……まぁ、そんなうまく行くわけねぇよな」
だが。
確かに顎はすっきりし、肩や胸も引き締まりつつある。
昨日までの自分とは違う姿が、そこにあった。
レイズは鏡越しににやりと笑い、拳を軽く握りしめる。
「……へへっ。悪くねぇ」
落胆と、そして小さな喜びを噛み締めながら――
彼は今日という一日に胸を躍らせるのだった
外出用の服に着替え、そっと扉を開く。
まだ朝靄の残る外の空気を胸いっぱいに吸い込むと、ひんやりとした涼しさが全身を包んだ。
(……いいな。なんか自由って感じだ)
静まり返った屋敷。
いつもなら使用人たちがすでに動き回っているはずなのに、今は誰もいない。
その静けさを確かめるように、レイズは木刀を握った。
――軽い。
思わず目を見開く。
いつもは苦痛に顔を歪めながら持ち上げていた木刀が、不思議なほど楽に感じられる。
両手でしっかり握り込み、振り下ろす。
「……っ!」
刃風が地を切り裂くように響いた。
そこには、これまでの“必死に耐える”苦痛はない。
(……ようやく、振れる)
自然と口元に笑みが浮かぶ。
「ははっ……だんだん“らしく”なってきたじゃねぇか」
何度も、何度も、振り下ろす。
その音は朝靄を切り裂き、やがて新しい一日の始まりを告げるかのようだった。
やがて――足音。
振り返ると、リアナとクリスが現れる。
リアナは目を大きく輝かせ、感極まったように両手を胸にあてた。
「当主様……! なんて立派なお姿……!」
一方のクリスは低く呟く。
「……早い」
(朝早起きしたこと、か?)
一瞬そう思ったが、違った。
クリスの目は木刀を握るレイズを真っ直ぐに見つめている。
「――あまりにも成長が早い」
その声には驚愕と、そして少しの期待が滲んでいた。




