リアノとイザベル
こうして、しばらくの間――
レイズとイザベルは魔力鍛練と魔力壁の訓練に没頭していた。
その場には、レイズの怒鳴り声と、イザベルの明るい笑い声が響く。
はたから見れば、まるで子供の遊びのよう。
だがそのやり取りは、着実にレイズの成長へとつながっていた。
夕暮れが近づくころ、二人は並んで屋敷へと戻ってくる。
「おい! もうおまえとは絶対しゃべんねぇからな!!」
「レイズくん、ごめんってば〜〜!」
言葉とは裏腹に、そのやり取りは仲睦まじく、
二人の歩調は不思議とぴたりと揃っていた。
帰ってきた二人を迎えるように、すぐに使用人たちが集まって頭を下げた。
リアナは目をキラキラさせながら、弾む声で言う。
「お食事の準備をいたします!」
そう言うや否や、ぱたぱたと軽快な足取りで厨房へ向かっていった。
一方でリアノは、少し恥ずかしそうに俯きながら、声をかける。
「あの……レイズ様……。お風呂の準備ができております。それで、その……」
レイズは彼女の言葉の続きを理解したように軽くうなずく。
「よい。では風呂へ行ってまいる」
リアノの胸に安堵が広がる。
――言いかけたことを許してもらえた。
そう思った彼女は、小さく微笑み、自然にレイズの後へついていった。
その様子を、イザベルだけが見逃さなかった。
「……あちゃ〜」
レイズに向けるリアノの視線に、違和感を覚えながらも、苦笑まじりに見送る。
その直後。
脱衣室の方から、レイズの声が響き渡った。
「ちがう!! ついてこいって言ったんじゃない!!」
「ご、ごめんなさい!!」
慌てふためき、顔を真っ赤にしたリアノが走り去っていく。
廊下にその声が反響する中、イザベルはくすくすと笑った。
――そして、リアノがレイズに向ける気持ちに、ほんの小さな違和感を覚えるのだった。
イザベルは、走り去るリアノの背中をじっと見つめていた。
「……やっぱり気になるなぁ」
胸の奥にひっかかる違和感。
それはただの勘でもなく、からかい半分の興味でもなかった。
レイズの前で赤くなって慌てるだけなら、まだわかる。
けれど――あの視線。
リアノが見せる“何かを背負ったような眼差し”は、ただの好意ではない。
「……うん、ちょっと確かめてみよう」
イザベルは小さく息をつき、軽い足取りでリアノの後を追った。
廊下を曲がり、階段を抜け、庭へ続くその道
月光の下、リアノは両手を胸の前でぎゅっと握りしめていた。
その横顔はどこか切なく、でも嬉しそうな
イザベルは足を止めた。
声をかけるか迷ったが――ただ黙って見ていた
(……やっぱり、なにかあるんだ。レイズくんとリアノの間に)
胸の奥に、言葉にできないざわめきが広がる。
それは好奇心だけではなく、ほんの少しの寂しさを含んでいた。
イザベルは息を整え、そっと一歩を踏み出した。
「リアノ……」
やがて小さな声が、夜の庭に溶けていった。




