表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【悪役転生 レイズの過去を知る 】―俺だけが知る結末を、今度こそ覆す―  作者: くりょ
新たな始まり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

774/777

生きた証を作る。

レアリスは、ニトの言葉を受けてもなお、視線を逸らさなかった。


 アルティナのこと。

 根元のこと。

 この世界の終わりと始まり。


 そのどれもが重く、理解しきれないほど大きい。


 それでも、レアリスの中で、まだ切り離せないものがあった。


「……ジークは……?」


 ぽつりと落ちるような声だった。


 その名が、この場に再び浮かび上がる。


 レアリスの瞳には迷いがある。


 それは肯定でも否定でもなく、ただ確かめずにはいられない想いから来る揺らぎだった。


「ジーク……」


 続けて、今度はエルディナが口を開く。


 その声は、先ほどまでより明らかに弱い。


 強気に怒鳴ることも、感情のままに噛みつくこともできない。


 ただ、すがるようにニトを見る。


「ねぇ……ジークだって……ちゃんと救ってあげてくれるんだよね……?」


 その問いは、願いそのものだった。


 期待というより、祈りに近い。


 自分でも無理だとわかっている。

 それでも、そうであってほしいと願わずにはいられない。


 だが、ニトはその問いに対して、あまりにも冷静に、そしてあまりにも冷たく返した。


「救う??」


 一度、言葉を繰り返す。


 まるでその発想自体が理解できないとでもいうように。


「なんで?」


 その一言は、鋭かった。


 感情がないわけではない。

 むしろ逆だ。


 感情があるからこそ、そこには一切の揺らぎがなかった。


 その言葉に、レイズも思わず反応してしまう。


「お、おい……」


 ニトを見る。


「ある意味……平等を掲げるんだろ……?」


「ジークだって……救いの対象になるんじゃないのか?」


 それは反論というより、確認だった。


 ニトが言っていることはあまりにも大きく、あまりにも極端だ。


 だからこそ、その中で“救い”がどこまで含まれるのかを、レイズは確かめたかった。


 ニトは、レイズの言葉にすら首を傾げる。


「え?」


 そして、当たり前のように言う。


「嫌だよ?」


 少しも迷わずに。


「救うつもりなんて無いよ?」


 その場の空気がさらに重くなる。


 ニトは静かに続けた。


「だって彼は、僕の国を壊した」


「ハルバルドを殺した」


 その名を口にするときだけ、ほんの少しだけ声の温度が下がる。


「それも意味のない殺しだ」


 ニトの瞳は、もう笑っていなかった。


「ジークってのは、あまりにもすべてを憎み、恨み……」


「そして、復讐の在り方そのものを“救い”にしてしまった存在さ」


 一語ずつ、はっきりと。


「なら、もう必要がない」


「救いようがない」


「なら、せめて利用はしてあげる」


 その言い方は残酷だった。


 だが、それを言っているのはニトだ。


 世界の在り方を知り、世界の歪みも知り、そのうえでなお、こう言っている。


 レアリスは小さく首を振った。


「やっぱり……」


「やっぱり、すべて認められない……」


 その声は小さい。


 けれど、そこには確かな拒絶があった。


「ジークは……ちゃんと私が……」


 少しだけ言葉が詰まる。


「私が見てる……ね?」


 自分でも、何を言っているのか整理しきれていないのかもしれない。


 助ける、とは言わない。


 許す、とも言わない。


 ただ、自分の目の届くところに置いておきたい。

 少なくとも、自分が知っている状態で在らせたい。


 その願いに近い言葉だった。


 ニトは、その言葉を否定しなかった。


「ぁあ、見ててくれていいよ」


 あっさりと答える。


「どんな風に変わるのか、僕にもわからないけどさ」


 そして、すぐに続ける。


「でも、もし外で見かけることがあれば、僕は迷わずその男を捕まえる」


「そして利用するからさ」


 レアリスの瞳が揺れる。


「利用……?」


 ニトは笑った。


 だがその笑みは、明るいものではない。


 どこか現実を知りすぎた者の、諦めに近い笑いだった。


「だって、根元がこっちにきたら依代を選ぶでしょ」


「なら、ジークはすごく都合がいい」


 一拍置いて、さらりと言う。


「ジークに根元を宿らせる」


 その言葉に、周囲の空気が一気に張りつめる。


 誰もすぐには反応できなかった。


 あまりにも自然に、とんでもないことを言ったからだ。


 ニトは、そんな空気すら意に介さず続ける。


「まぁ、他の魔女に禁忌まで犯して乗っ取られるとか……」


「そんなレベルじゃ済まないけどさ」


 軽く言っているようで、その内容は凄惨だった。


「でも少なくとも、彼はそうなるだけの罪を犯している」


「少なくとも、彼を許さない存在は……僕も含めて、手に負えない者があまりにも多い」


 その言葉は、裁きだった。


 誰か一人の感情ではない。


 ジークという存在が背負ったものの大きさ、その結果として生まれた憎しみの総量を、そのまま突きつけるような言葉だった。


 レイズは、その場で拳を握る。


「ふざけるな……」


 低く、抑えた声だった。


「ジークが……何をしたのか……クルシアとガイルから聞いただけでも、とんでもないことだってわかってる」


 そこは否定しない。


 ジークのしたことは、間違いなく許されない。


 だが、レイズは続けた。


「だけど!!」


 その声が強くなる。


「それは、ジークをそんな風にさせた存在がちゃんといた」


「創ってしまった者がいた」


 ニトは無言で聞いている。


 レイズは止まらない。


「なら、それは……みんな同じだろ」


「みんな……そうなるように創られた」


 その言葉には、怒りというより苦しみがあった。


 レイズは、これまで見てきたものを知っている。


 人も、魔族も、エルフも。

 魔女も、勇者も、王も、魔王も。


 誰もが何かに縛られ、何かに押し流されて、そうなるように形作られていた。


 だからこそ、ジークだけを切り離して“救いようがない”と断じることに、どうしても耐えられなかった。


 ニトは、そんなレイズを見つめる。


 そして、ため息まじりに返す。


「でも、そうならないように書き換えた」


「それが君だ」


 レイズはすぐに首を振る。


「違う……」


「みんなが、自分で変わったんだろ……」


 ニトは、その言葉に少しだけ笑う。


「はぁ……」


 そして、静かに問う。


「言葉や思想で、簡単に人が変わると思ってる?」


 レイズの表情がわずかに揺れる。


 ニトは続ける。


「君はまだ気付いていないのかい?」


「君に関わったものは、否応なく――」


 一語一語、はっきりと。


「本来の在るべき形が、時間が、すべて書き換えられている」


 その言葉は重い。


「レアリスも僕も、ガイルだってそうだ」


「そして勇者ルイス」


「ディアブロもだね?」


「みんな、共通点があるんだ」


 ニトは、レイズを指差さない。


 けれど、その視線だけで十分だった。


「全員が、君と関わった」


 沈黙が落ちる。


「だから、本来用意されていた道を、すべてのものが降りることができた」


「それって、どういう意味かわかるかな?」


 レイズは、すぐには答えられない。


 だが、それでも否定しようとする。


「違う……」


「みんな……誤解を、勘違いをしてただけだった……」


「過ちを理解して……」


 ニトは、その言葉に笑う。


 嘲笑ではない。


 呆れでもない。


 ただ、長い時間を見てきた者だけが浮かべられる、静かな笑みだった。


「過ちを理解する?」


「理解しても、変われない」


 その断言はあまりにも冷たい。


「それは長い年月が、すべてを証明している」


 ニトの声は、どこか遠くを見るようだった。


「全員、戦うことを」


「争うことを」


「潰し合うことを」


「選択なんかじゃない」


 その言葉が、ゆっくりとこの場に沈んでいく。


「そうなるように、運命が決められて」


「そして、なるようになっていく」


 それは希望を切り捨てるような言葉だった。


 だが、同時に真実でもあった。


「その運命も」


「本来あったはずの歴史も」


「普通は変えることはできない」


「歴史は変えられない」


 ニトは、そこでわずかに間を置く。


 そして、レイズへ向き直る。


「じゃあ、変えられたとしたら??」


 誰も答えない。


 ニトは、自分で続ける。


「それは神様?」


 自分で、首を振る。


「違う」


「この世界にいる神と呼ばれる存在は、そんなことをしない」


「神は――僕が思うに」


「僕たちの在り方や、世界には干渉などしない」


 その言葉には、諦めに似た確信があった。


「いたとしても、見ているだけ」


「僕たちが、世界が、どんなふうになろうが……」


「それはひとつの実験の答えにすぎない」


 そして、吐き捨てるように言う。


「それが神と呼ばれる存在で、神と呼ばれるだけの何者でもない偶像さ」


 その場の誰もが黙る。


 ニトは、さらに踏み込む。


「じゃあ、それを」


「神ですらしないことをしてる君は?」


「一体、何者だと思う?」


 その問いは、レイズだけではなく、その場の全員に刺さった。


 レイズは、答えられない。


 ニトは、そのまま畳みかける。


「別の世界??」


「別の世界の人間だって?」


「なら、なんで僕たちの未来がわかる?」


「なんで、僕たちの世界を知っている?」


 一つ一つが、逃げ道を潰していく問いだった。


「答えは簡単だよ」


 ニトは静かに言う。


「この世界は――」


 一拍置く。


「君たちの世界で産み出された、ひとつの物語」


 その言葉が落ちる。


 誰も、すぐには息を吸えなかった。


「……そうなんだろう?」


 レイズの瞳が揺れる。


 ニトは続ける。


「君の世界では」


「君の現実では」


「こうして数多の世界が創造されているはずだ」


「それも、数えきれないほどに」


 レイズは、何も言えない。


 否定も、肯定もできない。


 ニトは、レイズを見つめたまま言う。


「だからこそ」


「だからこそ、だよね」


「君は、そっちの世界の人だ」


「なら、こっちの創られた世界を自由に変えることができる」


「覆すこともできる」


「想像を、思いどおりにさせない」


 その言葉は、この世界の根本を暴くものだった。


 誰もが、すぐには飲み込めない。


 けれど、ニトはもう止まらない。


 これはただの会話ではない。


 世界の在り方そのものを剥き出しにするための、決定的な対話だった。


 そして、レアリスもまた、その言葉をじっと聞いていた。


 否定したい。


 けれど、できない。


 なぜなら、自分自身もまた、その“書き換え”の中にいるのだと、どこかで理解しているからだった。


 空気は張りつめたまま、さらに深く、さらに先へと進んでいく。


 いまこの場で語られていることは、誰か一人の感情や都合ではもう止められない。


 世界そのものを終わらせ、世界そのものを戻し、世界そのものを本来の形へ引きずり戻す。


 そのための話が、いま、ようやく本当の意味で始まっていた。


レイズは、何も言えなかった。


 否定したい。

 そんなはずがないと、強く言い切りたい。


 だが――。


 頭のどこかで、引っかかっている。


 自分が知っているはずの未来。

 自分だけが知っていたはずの結末。

 そして、それを覆してきた“いま”という現実。


 それは確かに、ただの偶然ではなかった。


「……だからって……」


 ようやく絞り出した声は、弱かった。


「だからって……全部が、俺のせいだっていうのかよ……」


 ニトは首を横に振る。


「せい、じゃないよ」


 あくまで淡々と。


「役割だ」


 その言葉は、優しさのようでいて、あまりにも残酷だった。


「君は壊したわけじゃない」


「ただ、“元々あったもの”を崩しただけだ」


 レイズの瞳が揺れる。


「……崩した……?」


 ニトは頷く。


「そう。元々この世界は、決められた流れに沿って進むように作られていた」


「誰がどう動いて、どこで死んで、どこで絶望して、どこで終わるか」


「全部が“用意されていた”」


 その言葉に、ガイルが眉をひそめる。


「はぁ……?ふざけんなよ……」


 吐き捨てるように言う。


「そんなもん……誰が決めたってんだ」


 ニトは軽く肩をすくめる。


「さぁね」


「でも確実に言えるのは、“自然”じゃないってことだ」


 その一言に、クリスが静かに反応する。


「……つまり、誰かの意思が介在している、と」


 ニトは指を鳴らす。


「そういうこと」


 そして、視線をレイズへ戻す。


「でも君が来たことで、それは壊れた」


「本来あるはずの結末に、誰も辿り着かなくなった」


 レアリスが小さく呟く。


「……だから……揺れてる……」


 ニトは頷く。


「そう」


「いまこの世界は、“未確定”なんだ」


 その言葉に、空気が一段と重くなる。


「本来ならあり得ない状態」


「決められていた未来が崩れて、でも新しい未来がまだ定まっていない」


「だから、歪みがどんどん膨らんでる」


 ガイルが舌打ちする。


「それが……アビスホールってやつかよ」


「それもあるね」


 ニトは軽く答える。


「でも本質はもっと単純だよ」


 一歩、前に出る。


「“決まってない世界”っていうのは、不安定なんだ」


「だから、どこかで“確定させる力”が必要になる」


 レイズが顔を上げる。


「……それが……根元か」


 ニトは微笑む。


「正解」


「根元は、“すべてを元に戻す装置”みたいなものだ」


「歪みを許さない」


「未確定を許さない」


「全部を、“あるべき形”に戻す」


 レアリスの顔色が変わる。


「……それって……」


 ニトは続ける。


「君も、僕も、全部含めてだよ」


「例外なんてない」


 その言葉に、レアリスの瞳が揺れる。


「じゃあ……私も……」


「消えるね」


 あっさりと。


 ニトは言い切った。


 沈黙が落ちる。


 誰もすぐに言葉を返せない。


 その中で、レイズだけが、歯を食いしばる。


「……ふざけんなよ……」


 低く、震える声。


「そんなの……全部終わりじゃねぇか……」


 ニトは、静かにレイズを見る。


「終わりだよ」


 否定しない。


 逃げない。


「だから、急がないといけない」


「“終わり方”を選ぶためにね」


 その言葉に、クリスが一歩前に出る。


「……選ぶ、とは?」


 ニトは答える。


「強制的に戻されるか」


「それとも、自分たちで終わらせるか」


 その差は、あまりにも大きかった。


 ガイルが舌打ちする。


「はっ……どっちにしろ終わりじゃねぇか」


 ニトは首を振る。


「違うよ」


「強制的に戻される場合は、“何も残らない”」


「でも、自分たちで終わらせるなら――」


 一瞬だけ、言葉を切る。


「“意味”が残る」


 その言葉に、レアリスの瞳がわずかに揺れる。


「……意味……」


 ニトは頷く。


「そう」


「誰かが考えて、誰かが選んで、誰かが決めた結果」


「それは“ただの消滅”じゃない」


「ちゃんと“生きた結果”になる」


 レアリスは、ゆっくりと目を閉じる。


「……生きる……」


 その言葉を、確かめるように呟く。


 ニトは静かに続ける。


「僕たちは“生きてない”って言ったよね?」


「でも、最後だけは違う」


「最後の選択だけは、“生きている者の選択”になる」


 その言葉は、奇妙な救いだった。


 完全な絶望の中に、ほんのわずかに残された可能性。


 レイズは、拳を握る。


「……なら……」


 顔を上げる。


「全部、俺たちで決めるってことだな」


 ニトは微笑む。


「やっと理解したね」


 そのとき。


 レアリスが、ゆっくりと目を開いた。


「……ニト」


 その声は、わずかに震えていた。


「それでも……」


 一歩、前に出る。


「それでも私は……全部は渡さない」


 はっきりと。


 拒絶する。


「アルティナは……返す」


「魂は……回廊へ返す」


 ニトはため息をつく。


「まだ言うかぁ……」


 だが、その表情に苛立ちはない。


 むしろ、どこか嬉しそうですらあった。


「いいよ」


 あっさりと答える。


「でも、その結果どうなるかは――」


 指を軽く振る。


「ちゃんと見ておいてね?」


 その言葉の意味を、誰も完全には理解できなかった。


 だが。


 確実に。


 すべてが動き出している。


 止まることはない。


 選択は、もう始まっている。


 そしてその選択は。


 この世界の“終わり方”を決めるものになるのだと。


 誰もが、なんとなく理解していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たくさんの方に読んでいただき、本当にありがとうございます。 完結済の長編です。レイズたちの物語をぜひ最初から。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ