表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【悪役転生 レイズの過去を知る 】―俺だけが知る結末を、今度こそ覆す―  作者: くりょ
新たな始まり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

771/777

緊張するレアリス

アルバードの地を離れ、一行は空へと舞い上がっていた。


 スカイドラゴンの巨大な翼がゆっくりと、しかし確実に空気を掴み、地を蹴るようにして高度を上げていく。


 ゴォォ……という重く低い風の音が、耳の奥に響き続ける。


 地上に広がっていた景色は、あっという間に遠ざかり、やがてすべてが一つの絵のように縮まっていく。


 その中で。


 それぞれが、何かを抱えながらも、静かに空を渡っていた。


 ほんのわずかに緊張が解けたような、だが決して軽くはない空気が漂う。


 そんな中で――。


 ガイルが、ふと思い出したように口を開いた。


「そういえばよ……」


 何かを思い出したように、スカイドラゴンの背に括り付けていた鞍の中へと手を突っ込む。


 ごそごそと、乱暴に中を漁る。


 やがて。


「お、あったあった」


 そう言って取り出したのは――


 ひときわ異様な存在感を放つ、大きな真珠だった。


 それは通常の真珠とは明らかに異なる。


 手のひらに収まるどころか、両手で抱えるほどの大きさ。


 淡く、しかし確かに内部から光を放っている。


 まるでそれ自体が生命を持っているかのような、神秘的な輝き。


 ガイルはそれを軽く持ち上げて見せる。


「こんなの手に入れたんだけどよ」


 そして、気楽に言い放つ。


「これ、加工できねぇか?」


 レイズは、その真珠を見た瞬間――


 一瞬、言葉を失った。


「……おま……」


 ゆっくりと目を見開く。


「それって……」


 息を飲む。


「……国真珠だろ……」


 信じられない、という表情でガイルを見る。


「よくそんなもん……取ってきたな……」


 ガイルは肩をすくめる。


「ぁあ?」


「なんかでっけぇ貝がいてよ」


 軽く笑いながら言う。


「ぶっ壊して奪ってきた」


 その言い方はあまりにも軽い。


 だが、その行為の異常さは誰の目にも明らかだった。


 ニトが、そのやり取りを見ながら、楽しそうに笑う。


「へぇ〜」


 目を細める。


「ガイル君、それどうしたいのさ?」


 その問いに、ガイルは一瞬だけ言葉を詰まらせる。


「ぁあ!?どうしたいだぁ?」


 強気に返そうとするが――


 そのまま言葉が続かない。


「……ぁあ、なんでもねぇよ」


 そっぽを向く。


 その様子を見て、ニトはさらに笑みを深める。


「へぇ〜」


「プレゼントかぁ」


 レイズがすぐに口を挟む。


「ニト、あんまり読むなよ……」


 ニトは首を傾げる。


「読まなくてもわかるじゃん」


 その瞬間。


「ぁあ!?てめぇ!!」


 ガイルが激しく反応する。


「なに言ってやがる!!」


 クリスが冷静に割って入る。


「これだけの大きさの物を、そのまま身につけるのは不可能でしょう」


 真珠を冷静に見つめながら分析する。


「ルルには明らかに合わない」


 淡々と続ける。


「まったく……サイズというものを考えろ」


「女心のわからんやつだ」


 その言葉に、レイズが思わず吹き出す。


「女心って……」


「クリス、お前がそれ言うのか……?」


 クリスは一切動じない。


「えぇ」


「少なくとも、ここにいる誰よりも私が一番理解しています」


 レイズが眉をひそめる。


「おい……」


「それ俺がわかってないみたいじゃないか」


 クリスは即答する。


「わかっていませんよね?」


 ガイルが爆発する。


「誰がルルにって言ったぁぁぁ!!」


 ニトが即座に返す。


「君が心で思ったじゃん」


 ガイルが固まる。


「はぁぁぁ!?」


 レイズが肩をすくめる。


「まぁ……でもわかるだろ……」


 クリスは首を横に振る。


「わかりません」


 そして、真剣な表情で言う。


「レイズ様」


「貴方はいま、一番大切なことを見失いつつある」


 レイズは反発する。


「見失ってなんか……」


 ニトが軽く言う。


「見失ってるよ?」


 ガイルも続く。


「ぁあ、てめぇはちょっと頭冷やせや」


 クリスが即座に反応。


「ガイル貴様だけは言うな!!」


 レイズが苛立つ。


「ぁあ!!うるせぇな!!」


「わかってるよ!!」


 そして叫ぶ。


「全部だ!!全部終わったら俺はちゃんと帰るんだよ!!」


 その言葉に、エルビスがため息をつく。


「はぁ……」


「なんで良い男ばかりなのに……」


「馬鹿しかいないのかしら……」


 クルシアが即座に怒鳴る。


「だまれぇぇ!!」


「ティルシーの体でしゃべるな!!」


「切り刻むぞ!!」


 エルビスが一歩引く。


「ちょっと……ほんとに怖いわよ貴女……」


 ニトが鋭く言う。


「クルシア、それはダメ」


 クルシアはすぐに姿勢を正す。


「ハッ……しかし……!」


 ニトは優しく言う。


「うん、言いたいことはわかるよ?」


「ティルシーを取り戻したいんでしょ?」


 クルシアの表情が一気に変わる。


「や、やはり!!」


「取り戻せるのですか!!?」


 ニトは肩をすくめる。


「可能性の話だけどね」


「今は全部、可能性だから」


 レイズがぼやく。


「なんでもありかよ……」


 ――そして。


 ニトの表情が、少しだけ変わる。


「これから、いくらでもみんな死ぬ可能性があるんだからさ」


 さらりと言う。


 一同が固まる。


「……は?」


 ニトは変わらず笑っている。


「だってそうでしょ?」


「もう目の前の話なんてもんじゃない」


「全部巻き込んで、全部救う話をしてるんだからさ」


 そして。


 はっきりと言い切る。


「全員が生き残れるなんて思ってないよね?」


 空気が凍る。


 レイズが低く言う。


「……そんなことはさせない」


「全員が生き残るんだよ」


 ニトは目を細める。


「そういう話だよ?」


 そして続ける。


「ガイル、ディアブロも戦ってる」


「君を助けるためにね」


 ガイルが眉をひそめる。


「は??なんだよそれ……」


 レイズが問う。


「なんでディアブロとガイルが混ざる?」


 ニトは静かに言う。


「命脈でしょ」


 ガイルが思い出す。


「……あの泉か!?」


 レイズも理解する。


「お前ら……命脈まで使ってたのか……?」


 ガイルが言う。


「てめぇのせいだろ!!」


 レイズは固まる。


「……俺のせい……?」


 ニトが説明する。


「死属性は還す力」


「でも君は違う」


「完全に消してる」


 レイズは戸惑う。


「なんだよそれ……」


 ニトは笑う。


「それが問題なんだよ」


「魔力の源が消えたらどうなると思う?」


 レイズが言葉を詰まらせる。


「……ニト……お前……」


 ニトはあっさり言う。


「僕もレアリスも消えるね」


 衝撃が走る。


 クルシアが叫ぶ。


「そんな!!ニト様が!!」


 ニトは軽く手を振る。


「違う違う」


「形が変わるだけ」


 そして続ける。


「僕たちは“生きてる”わけじゃない」


「ただ存在してるだけ」


 レイズは困惑する。


「いや……普通に生きてるようにしか見えねぇよ……」


 ニトは笑う。


「でしょ?」


「そこが僕たちのすごいところ」


 ガイルが呆れる。


「自分で言うなよ……」


 ニトは前を指さす。


「ほら、見えてきたよ?」


「レアリスだ」


 レイズがため息をつく。


「楽しみってお前な……」


 ニトは笑う。


「楽しみだよ?」


「だってレアリスも同じだからね」


 ガイルがぼやく。


「話し好きには見えねぇけどな……」


 クリスが言う。


「貴様と話す価値がないだけだ」


 ガイルが怒鳴る。


「てめぇぇ!!」


 レイズが苦笑する。


「いや……でもレアリス結構話すぞ」


 ニトが笑う。


「そうそう、独り言ずっと言ってるし」


 レイズが呟く。


「それは可哀想だろ……」


 ニトは笑う。


「可哀想だけど、可愛いよ?」


 その言葉に、エルディナが反応する。


「ウルティアは……どうして戻らないのよ……」


 ニトは一瞬考え――


「やっぱやめた」


 ガイルを見る。


 ガイルがキレる。


「なんだよ!!」


 レイズが呟く。


「……関係あんのかよ……」


 ニトは肩をすくめる。


「まぁ……悪い子じゃないんだけどね」


 エルディナは小さく笑う。


「そうよ……私たちは悪くなんかない……」


 ニトが軽く言う。


「ウルティアは魔女じゃないけどね」


 エルディナが叫ぶ。


「ちょっと!!!」


 ニトは笑う。


「まぁ魔女でも悪くはないには同意するよ」


 エルディナは黙る。


「……なんなのよほんとに……」


 空の上。


 軽口と、覚悟と、恐怖と、希望が入り混じる中で。


 一行は、確実に――


 レアリスのもとへと近づいていくのだった。




ジュラのはるか上空。


 空の色すら届かぬほどの深層――世界の“内側”とも呼べる場所に、レアリスは静かに存在していた。


 足場などない。


 重力も、空気も、時間すら曖昧な領域。


 それでも、確かにそこには“流れ”があった。


 魂の回廊。


 それは、無数の魂が集い、流れ続ける場所。


 終わりも始まりも見えない、果てなき循環の中枢。


 その光景は――


 まるで、巨大な河のようだった。


 いや、河などという言葉では足りない。


 光と影が混ざり合い、形を持たぬ無数の“存在”が、絶え間なく流れている。


 人の魂。


 魔族の魂。


 エルフの魂。


 そして、名も知らぬ無数の命の残滓。


 それらすべてが区別なく混ざり合い、渦を巻きながら流れ続けている。


 その量は、あまりにも膨大。


 一つひとつを識別することなど、本来であれば――不可能。


 ましてや。


 その中から、特定の“魂の破片”だけを見つけ出すなど。


 たとえ神であろうと、叶わぬ領域のはずだった。


 だが。


 レアリスは、ただ静かにその河を見つめていた。


 瞬きもない。


 呼吸もない。


 ただ、“観測”している。


「……いる」


 かすかに、声が漏れる。


 それは確信ではない。


 だが、確かに“感じている”。


「……この中に……いる」


 その瞬間。


 レアリスの周囲に、膨大な魔力が集束する。


 世界そのものを歪ませるような密度。


 次の瞬間。


 その魔力は形を成した。


 巨大な“手”。


 それは人の形をしているようでいて、どこか歪で、現実とは異なる概念の塊。


 その手が――


 魂の河へと、ゆっくりと差し込まれる。


 ザァァァァ……と。


 魂の流れが揺れる。


 抵抗するように、波打つ。


 だが、レアリスの力の前では、その流れすら意味を持たない。


 巨大な手が、まるで水を掬うように――


 魂の群れを、丸ごとすくい上げた。


 持ち上げられる。


 無数の魂が、ひと塊となって。


 だが、それはあまりにも粗い。


 目的のものだけではない。


 余分なものが、あまりにも多すぎる。


 レアリスは、次の工程へと移る。


 すくい上げた魂の塊を、そのまま宙に固定する。


 そして――


 さらに細かい魔力操作へ。


 無数の“腕”が生まれる。


 細い。


 極細。


 糸のように細い魔力の腕。


 それが何百、何千と分岐し、魂の塊へと伸びていく。


 そして――


 分別が始まる。


 不要な魂を、ひとつずつ逃がしていく。


 触れて、離す。


 触れて、弾く。


 その動きは、あまりにも繊細で、あまりにも正確。


 だが。


 それでも、終わらない。


 あまりにも量が多い。


「……違う」


 ぽつり。


「……これも、違う」


 さらに分ける。


 さらに細かく。


 魂はもはや形を持たない。


 ただの“波長”。


 ただの“情報”。


 それを。


 それだけを頼りに。


 レアリスは探し続ける。


「……いるのに」


 かすかな焦りが、初めて滲む。


「……間違いなく、この中に……」


 それでも、手は止まらない。


 ひとつ。


 またひとつ。


 分けていく。


 削っていく。


 削ぎ落としていく。


 やがて――


 その中に。


 ほんのわずかに。


 “違う波”が混ざっているのを捉える。


 レアリスの動きが止まる。


「……これ」


 ゆっくりと。


 その魂へと、手を伸ばす。


 触れる。


 そして――掴む。


 瞬間。


 それは、微かに震えた。


 確かに“反応”した。


 レアリスの表情が、ほんのわずかに緩む。


「……良かった」


 静かに。


「……覚えていて」


 それは。


 アルティナの魂。


 かつての魔女。


 だが今は、ただの“破片”。


 砕け散り、混ざり合い、消えかけていた存在。


 それを、レアリスは――


 確かに、取り戻した。


 その魂を、両手で包む。


 壊れないように。


 消えないように。


「……これで……戻せる」


 その言葉と同時に。


 レアリスはその場を離れる。


 魂の回廊を抜ける。


 本来であれば。


 魂の分別など不可能。


 ましてや、個別の識別など――あり得ない。


 だが。


 レアリスは覚えていた。


 アルティナの魂を。


 形を。


 色を。


 その“在り方”を。


 だからこそ、見つけられた。


 だからこそ、掴めた。


 ――そして。


 樹界へと帰還する。


 世界樹の内側。


 静寂に包まれた場所。


 そこに、レアリスは戻ってきた。


 抱えたままの魂を、そっと見つめる。


「……行くなら」


 小さく呟く。


「……全部、一緒に……ね?」


 その言葉には。


 ほんのわずかに、願いが混ざっていた。


 レアリスは理解している。


 この魂は、もう“魔女”ではない。


 アルティナは、魔女としては戻らない。


 戻さない。


 それは“選択”。


 レアリスの意思。


 魔女としてではなく。


 ただの“人”として。


 魂の回廊へ還す。


 それが、レアリスの答え。


 そのために。


 魂を整える必要がある。


 視線を落とす。


 そこには、横たわる“本体”。


 抜け殻のような身体。


 そこへ、魂を戻そうとする。


 だが――


「……あれ?」


 うまく、はまらない。


 ずれる。


 弾かれる。


 定着しない。


 レアリスは、少しだけ首を傾げる。


「……やったこと、ない」


 当然だった。


 こんなことをする存在など、本来いない。


 方法も、手順も、存在しない。


 だが。


 レアリスは考える。


 そして――


 “作る”。


 魂に、傷をつける。


 刻む。


 本体にも。


 破片にも。


 同じように。


 同じ位置に。


 同じ深さで。


 そして――


 その傷口同士を、合わせる。


 触れる。


 重ねる。


 融合させる。


 慎重に。


 壊さないように。


 崩さないように。


 時間をかけて。


 ゆっくりと。


 やがて。


 それは――


 “繋がり始める”。


 傷が修復されると同時に。


 魂が、混ざり合う。


 ひとつに戻っていく。


 その様子を見て。


 レアリスは、ほんのわずかに微笑んだ。


「……できた」


 だが。


 意識は戻らない。


 戻さない。


 それでいい。


 それが、正しい。


 レアリスは、そっと言う。


「……それじゃあ」


「……行ってらっしゃい」


 魂を解放しようとした――その時。


 違和感。


 気配。


 あり得ない“存在”。


 レアリスの動きが止まる。


「……え……?」


 わずかに目を見開く。


「……なんで……」


 そして。


「……ニト……?」


 理解できない。


 あり得ない。


 この世界に“在る”ことができない存在。


 それが。


 確かに――こちらへ向かってきている。


 分体を通じて、確信する。


「……どうして……」


「……どうやって……」


 レアリスにも、わからない。


 それは、本来あり得ない事象。


 矛盾。


 異常。


 破綻。


 だが、それでも――


 “来ている”。


 確実に。


 レアリスは、アルティナの魂を白い木へ預ける。


 優しく。


 壊さぬように。


 そして。


 ゆっくりと振り返る。


 ニトの方角へ。


「……みんな……」


 ぽつり。


「……また、こっちに来るの……?」


 そして、さらに小さく。


「……ニト……」


「……お話、できるの……?」


 本来。


 感情など持たない存在。


 だが。


 その胸の奥に。


 ほんのわずかに。


 “嬉しさ”と。


 “困惑”が生まれる。


 会いたかった存在。


 話したかった相手。


 だが。


 それは起こり得ないはずのこと。


 あり得ないはずの再会。


 だからこそ――


 レアリスは。


 初めて。


 “緊張”という感覚を、理解するのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たくさんの方に読んでいただき、本当にありがとうございます。 完結済の長編です。レイズたちの物語をぜひ最初から。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ