表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【悪役転生 レイズの過去を知る 】―俺だけが知る結末を、今度こそ覆す―  作者: くりょ
新たな始まり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

760/777

一番信用できない信用

レイズは、なおも揺れる胸の奥を押さえ込むように、強く息を吐いた。


「なら、ニト……」


 その声には、迷いと焦りと、ほんの少しの覚悟が混ざっていた。


「おれは、何をするべきなんだ!?」


 思わず一歩前に出る。


「何を、まずしたらいい!?」


 ニトはそんなレイズを見ても、慌てる様子はなかった。

 むしろ、ようやくそこへ辿り着いたかとでも言いたげに、軽く肩をすくめる。


「だから言ってるじゃないか」


 にこりと笑う。


「レアリスに会いに行くよ」


 その言葉に、場の空気がぴんと張る。


「僕だっている。戦いにはならない」


 ニトは続けた。


「レアリスがジークを、アルティナを保護している。なら、すべて僕が説明する」


 レイズは低く頷く。


「どのみち、レアリスのところには行く予定だった……」


 ガイルが頭を掻きながらぼやく。


「はぁぁ……」


 そして大きくため息をつく。


「訳がわかんねぇけど……それで全部終わるんだろ?」


 ニトは首を横に振った。


「全部が終わって、始まるんだよ」


 その言い方が、妙に不気味だった。


 そして、場を見回すようにしながら、ぽんと手を打つ。


「ねぇ、サティもリリィも、運よくここにいるしさ」


 その言葉に、エルディナが目を見開く。


「サティ……!?」


 思わず周囲を見回す。


「どこに!? 見えないわよ!? わたしにも!」


 リリィも目をぱちぱちさせた。


「リリィって……私のことじゃないですよね……?」


 ニトは、不思議そうに首を傾げた。


「え?」


「なんで気づかないかな」


 そして、当然のことのように言う。


「リリィはずーっと君にいるじゃない」


 リリィの表情が固まる。


「……へ?」


 ニトはさらに続ける。


「それに、サティはそこにいるよね」


 そう言って指差した先――。


 それは、クリスだった。


 クリスは心底わけがわからないという顔になる。


「は……?」


「私ですか?」


 ニトは、うんうんと頷く。


「そうそう。うまく隠れてるつもり?」


 そして、誰かに語りかけるように笑う。


「ねぇ?」


 その瞬間だった。


 クリスの背後で、何かが激しく揺れた。


 それは肉眼で見えるものではない。

 だが、魂の形を認識できる者には、はっきりと見えた。


 強く、激しく、けれどどこか照れたように揺れる魂。


 それを見えたのは――リリィ、エルディナ、そしてニトだけだった。


 クルシアが困惑した顔で言う。


「……なにも見えないんですが」


 ニトは笑う。


「クルシア君は魔女だけど、魔女じゃないからね」


 その言葉は、クルシアにとって思いがけず優しいものだった。


 ずっと“魔女だ”と言われ続けてきた。

 その自分を、否定するのではなく、別の存在として言い切ってくれたのが、よりによってニトだったのだ。


 クルシアは思わず身を乗り出す。


「ほ……ほんとですか!?」


 その声には、明らかに喜びが混ざっていた。


 リリィはクリスの背後を見つめたまま、声を震わせる。


「サティ師匠……!? それに、リリィ様も……私に……?」


 混乱したように首を振る。


「なんで……どうしてクリス様に!?」


 クリス自身は、なおも何も見えないまま、苛立ち混じりに言った。


「わけがわからん! 私に隠れてないで、早く出てこい!」


 ニトは苦笑する。


「無理だよ。サティは誰かを依代になんかしないからさ」


 その言葉に、リリィの顔色が変わる。


 ニトは続けた。


「でも話は聞いていたよね?」


 そして、どこか面白そうにクリスを見る。


「サティ君は、クリスのことが気に入ってたんだね」


 その言葉に反応するように、クリスの背後の魂が、こくこくと頷くように揺れた。


 リリィは目を見開く。


「や、やはり……クリス様にも……」


 そして縋るようにニトを見る。


「サティー師匠は、なんて言っているんですか!?」


 ニトは軽く顎に手を当てた。


「あー、そうだね」


 少し考えてから、さらりと言う。


「彼女は、クリスの娘に他の魔女が乗っ取られないように見張ってたんだってさ」


 クリスの表情が凍りつく。


「それでは……クリアナを守っていたというのですか……?」


 ニトはそこで、少し楽しそうに目を細めた。


「へぇー……」


 そして、わざとらしくゆっくりと続ける。


「クリアナに他の魔女が乗り移るようなら、自分が乗り移り、クリアナとして禁忌をおかすつもりでいたみたいだね」


 リリィが息を呑んだ。


「禁忌……って……」


 ニトはあっさり言う。


「魂の同化さ」


「自分の自我を消して、相手に乗り移る」


 その場が、しんと静まり返る。


「つまり、魔女としての権能だけをすべて捧げて、クリアナの自我を守ろうとしてたってこと」


 ニトは、感心したように肩をすくめた。


「ほんと、魔女も優しいよね」


「自分が消えることを惜しみなくするなんて」


 サティの魂が、照れたようにふるふると揺れた。


 リリィはたまらず叫ぶ。


「そんな!! サティし……お母様! なんでですか!?」


 ニトは静かに言う。


「サティは、ここのみんなに賭けたんだよ」


 リリィの声が小さくなる。


「そ……そんな……」


 ニトはサティの魂を見て、軽く頷いた。


「うんうん。わかった」


 それから、少し困ったように笑う。


「ただ、それはだめかな」


 サティの魂がびくりと揺れる。


「君がアビスホールに行ったら、君じゃ助からない。ディアブロが助けられる保証だってないしね?」


 サティの魂は、今度は小刻みに震えた。


 ニトはやわらかく言う。


「だから君もレアリスのもとへ行こっか」


「君の魂は完全な形をしてるし、ディアに権能だけ剥がしてもらえるかもよ?」


 そして、少しだけ声を落とす。


「でもその場合、君は魔女としての魂じゃなくなって、回廊に行くことになるけど……いいの?」


 サティの魂は、ためらいなくこくこくと頷いた。


 ニトは笑う。


「そっか」


 それから、ふと思い出したように言った。


「じゃあ、あとはルティーを迎えに行かなくちゃね」


 リリィはサティの魂を見つめたまま、泣きそうな声を漏らす。


「お母様……わたしはまだ、話したいことが……」


 ニトは頷いた。


「うんうん。だからついてきなよ。直接話を聞いたらいい」


 さらりと続ける。


「サティなら、レアリスの分体に入っても自我があるはずだからさ」


 レイズはそこで一歩前へ出た。


「なら……すぐ動こう」


 ぐるりと皆を見る。


「みんな、そういうことだ。おれは……いってくる」


 だが、その言葉を遮るように、リアナの声が響いた。


「嘘つき」


 レイズの足が止まる。


 リアナは涙を浮かべたまま、震える声で言った。


「約束も、すべて破って……レイズくんなんて嫌い!!」


 その言葉は、怒りというより悲鳴に近かった。


 イザベルも唇を噛みながら、絞り出すように言う。


「わたし……わたしだって……なんでなの……」


 涙を拭いながら、首を振る。


「もう静かに、楽しく暮らしていたらいいじゃない……」


 声が弱くなる。


「後のことは、後の人に任せて……」


 レイズはイザベルを見る。


「イザベル」


 その声は、優しかった。


「後の人ってのは……レイナや、クリアナ、それにカイルに……今の子どもたちに託すことになる」


 そこで一度、目を伏せる。


「こんなことを……託せるのか……?」


 イザベルは、すぐに答えられなかった。


 やがて、小さく首を振る。


「……託せないわ」


 ニトが、そのやり取りを静かに見ていた。


「うんうん。子どもたちに託しても、どうにもならない」


 その言葉は優しく、残酷だった。


「悲しいけどね。みんな死んじゃうだけだよ」


 誰も息をしない。


「それも、アビスホールの餌としてね」


 その一言で、空気が凍りつく。


「だから彼が、レイズがいるうちにしか、二度と希望は望めない」


 イザベルは、泣きながらレイズを見た。


「せめて……約束して……」


 その声は震えていた。


「わたしたちのもとに、絶対帰ってくるって……」


 そして、か細く続ける。


「そしたら……もうどこにも行かないって……」


 レイズはしばらく何も言えなかった。


 やがて、深く息を吸い込み、ゆっくり頷く。


「……ぁあ」


「必ず……戻る」


 そして、少し目を伏せる。


「そのときは……そのときは、もう二度と、好き勝手なことはしないから……」


 ニトは、その言葉を聞いてぱっと明るく笑った。


「うんうん! すべてが終わったら、祝勝会だね!」


 その軽さが、今は妙に救いだった。


「さぁ、誰を連れて行こうかな」


 そう言って、面々を見回す。


「クリスに、ガイルに……あとリリィもいるね。あとクルシアとエルディナも連れて行かなくちゃ」


 ジェーンがすぐに言う。


「ニト! わたしも行く!!」


 だが、ニトはやわらかく首を振った。


「ジェーン君にはお願いがあるんだよ」


 ジェーンはすぐに顔をしかめる。


「またお願いかい!? お断りだよ!!」


 ニトは、そんなジェーンの心を読むように、優しく言った。


「ハルバルトが死んだことを、ルイスに伝えてあげて」


 ジェーンの顔色が変わる。


 ニトは続ける。


「そしてルイスを聖国へ連れて行ってあげて。ね?」


 ジェーンの目に涙がにじむ。


「そんな残酷なことを……ルイスに言えって……」


 ニトは静かに答える。


「ジェーンだからお願いしているんだ」


「これは命令じゃない」


 そして、ひとつずつ言い聞かせるように続けた。


「ジェーン君はこの事実を伝えて、聖国へ戻ったらグレンや他のパラディンにも伝えるんだ」


 ジェーンは唇を噛む。


 ニトは微笑む。


「僕が戻ってきたってね」


「だから、僕たちのやることを伝えて、そして徹底的に守る形をとるんだ」


 その目が真っ直ぐジェーンを見ていた。


「いいかい?」


 ジェーンは涙を流しながらも、ニトを見返す。


「ニト……」


 そして、必死に言った。


「あなたもちゃんと、帰ってくるって約束しなさい!」


 ニトは苦笑する。


「わかったわかった。ちゃんと帰るよ」


 そして、わざと明るく言った。


「それに、こんなかで一番生き残れる可能性が高いのは僕なんだから、安心してよね」


 ジェーンは涙を拭いながらも、呆れたように言う。


「ほんとに……信用できないよ」


 ニトはにやりと笑う。


「一番信用してるくせに」


 ジェーンは俯いて、ぽつりと呟いた。


「……バカ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たくさんの方に読んでいただき、本当にありがとうございます。 完結済の長編です。レイズたちの物語をぜひ最初から。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ