まるでレイズが先生。
レイズは腕を組み、どこか冷めたように呟いた。
「……正直、魔力の質を高めるとか、魔力壁がどうとか。俺にはそこまで興味はないんだよ」
イザベルはむっとして頬をふくらませる。
「なによ……便利なんだから、ちゃんと覚えたほうがいいのに!」
レイズは片手を軽く振りながら肩をすくめた。
「便利なのはわかってるさ。確かに、この世界で生きるなら役に立つだろう」
そこで一拍、沈黙が落ちる。
そして声を低め、真剣な色を帯びさせた。
「……だが、忘れるな。これはそんな次元の話じゃない」
イザベルの表情がきゅっと引き締まる。
彼女も、からかう気持ちを完全に失い、レイズの言葉を待つ。
レイズは彼女の瞳をまっすぐに見据え、静かに言葉を落とした。
「――この力を、もし俺以外のやつが使えたら……どれだけ危険か、わかるか?」
その声音は、教えるというよりも、“戒める”響きを帯びていた。
イザベルは小さく息を呑み、目を逸らすこともできずにレイズを見つめ続ける。
レイズの言葉に、イザベルは一瞬きょとんとした。
けれどすぐに、その意味を考え始め――顔色が少しだけ強張る。
「……もし、他の誰かがその力を持ってたら……」
イザベルは自分の腕をそっと見下ろした。
さっき、レイズに簡単に掴まれたあの感覚を思い出す。
「……わたしみたいに筋力のない人間なら……ただ捕まれただけで、逃げられない。
抵抗することすらできない。そうしたら……」
言葉を切ったイザベルの唇が震える。
「……あっという間に殺されてしまう……」
小さな吐息のような声。
それは冗談でも大げさでもなく、現実的な“最悪”を想像した結果だった。
レイズはそんな彼女を見据え、低く言葉を落とす。
「そうだ。だからこそ危険なんだ。
――お前が言った通り、誰かがこの力を使えば……本当に簡単に命が奪える」
その声音には、真剣な警告と同時に、彼女を守りたいという想いが滲んでいた。
だんだん調子に乗ってきたレイズは、切り株にどっかり腰を下ろし、両手の甲の上に顎をのせながら偉そうに語りだした。
「……そう。つまりだな。俺には、その可能性があるんだよ」
どこか誇らしげに胸を張り、ゆっくりとイザベルを見やる。
「そして――イザベル。もうわかっただろう。
……魔力壁に頼りすぎるな。よいな?」
少し睨みをきかせるように、威圧感を込めて。
しかしイザベルはきょとんとした顔をしたあと、ふっと笑みをこぼす。
「……レイズくん。似合ってないよ、その顔」
にらみを利かせたはずのレイズの威厳は、あっけなく崩れ落ちたのだった。




