表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【悪役転生 レイズの過去を知る 】―俺だけが知る結末を、今度こそ覆す―  作者: くりょ
新たな始まり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

752/777

大好きなディアブロ

その時だった。


 ディアブロの笑い声に反応したかのように、アビスホールそのものが大きく脈打つ。


 ドクン――


 魔力の海が揺れた。


 ただの振動ではない。


 この空間そのものが、ディアブロという異物を認識し始めている。


 ディアブロは笑みを深める。


「ククク……そうか」


「我を……敵と認めたか」


 その言葉に応じるように、深淵のさらに奥。

 今まで沈黙していた暗がりが、ゆっくりと開いていく。


 闇の中に、無数の眼が灯る。


 一つ、二つではない。


 十。

 二十。

 いや――百を超える視線。


 それらすべてが、ディアブロを見ていた。


 神獣達。


 あるいは、神獣ですらない。

 もっと原初的で、もっと歪んだ、アビスホールが産み出した何か。


 ディアブロはそれを見渡し、低く喉を鳴らした。


「いい……」


「実にいい」


「我を食らう気か?」


「ならば来い」


「我が先に喰らってやる」


 次の瞬間。


 正面の闇が弾けた。


 巨大な獣が飛び出す。


 それは獅子に似ていた。

 だが首が三つある。

 それぞれの口から、色の違う魔力が垂れ流されている。


 赤は灼熱。

 青は凍結。

 黒は腐食。


 三つの口が同時に開き、魔力の咆哮が吐き出される。


 ディアブロは一瞬で理解する。


「ほぅ……属性を混ぜるか」


 かわさない。


 むしろ、前へ出た。


 赤の炎が右肩を焼く。

 青の冷気が左腕を凍らせる。

 黒の腐食が胸を溶かす。


 だがディアブロは笑う。


「浅い」


 焼かれた右肩を魔力で埋める。

 凍った左腕をそのまま砕き、即座に新しい腕を生やす。

 溶けた胸部は、周囲の魔力を吸い上げて再形成する。


 神獣の三つの首が、わずかにたじろいだ。


「ククク……どうした?」


「効いているぞ?」


「だが、それだけだ」


 ディアブロは地を蹴る。


 その速度は、もはや視認を許さない。


 赤の首に噛みつく。

 青の首を魔力の腕でねじ上げる。

 黒の首に、もう片方の魔力の腕を突き立てる。


 三つ同時。


 神獣が暴れる。


 だがディアブロは離れない。


「三つ首なら……」


「三つまとめて奪えばよい!!」


 牙が深く食い込む。


 ズズズズズッ――


 赤い首から灼熱の魔力。

 青い首から冷気を帯びた魔力。

 黒い首から濁った腐食の魔力。


 それらが一気にディアブロへ流れ込む。


 神獣は絶叫する。


 だが遅い。


 ディアブロはさらに奥へと牙を届かせる。


 肉でも骨でもない。


 そのさらに奥。

 貯め込まれた魂の核へ。


「そこだ」


 その一言とともに、ディアブロは三つの首の奥から繋がる中心核を掴んだ。


 そして――


 一気に引き抜く。


 ブチィッ――


 三つの首が同時に痙攣し、魔力が暴風のように吹き出す。


 神獣の体が崩れ落ちる。


 ディアブロの手には、三色の光を脈打たせる大きな魂塊があった。


「ククク……」


「美しいな」


 その魂を齧る。


 ガリッ。

 ガリッ。

 ガリガリッ。


 だが、すぐに吐き出す。


「まずい」


「属性がうるさい」


 吐き出された魂の欠片に、また別の化物たちが群がろうとする。


 ディアブロは苛立ったように足を振り上げ、まとめて踏み砕いた。


「鬱陶しい!!」


「我の残飯を漁るな!!」


 その怒声にすら、どこか歓喜が混じる。


 戦い。

 奪うこと。

 潰すこと。

 生き残ること。


 その全てが、今のディアブロには快楽だった。


 だが。


 次の瞬間、空気が変わる。


 今までの神獣たちとは明らかに違う、重い圧力。


 ディアブロはぴたりと動きを止めた。


「……ほう」


 深淵のさらに奥。


 巨大な影が、ゆっくりと姿を現す。


 それは、人に似ていた。


 だが人ではない。


 上半身は痩せ細った巨人。

 下半身は無数の獣の脚。

 背には折り重なるように幾重もの腕が生え、その全てが異なる武器のように変形していた。


 顔はない。


 あるべき場所には、巨大な穴だけがあった。


 その穴の奥から、吸い込むような音が響く。


 ズゥゥゥゥゥ……


 ディアブロは目を細める。


「なるほど……」


「貴様は、ただ食うだけの獣ではないな」


 その巨影は答えない。


 ただ、一歩進む。


 それだけでアビスホールの魔力が揺れた。


 周囲にいた出涸らしたちが、何もされていないのに潰れ、砕け、魂ごと吸い込まれていく。


 ディアブロは笑う。


「いいぞ」


「ようやく“王”に近いものが出てきたか」


 その巨影が、ゆっくりと腕を上げる。


 無数の腕が、一斉にディアブロへ向く。


 剣。

 槍。

 牙。

 爪。

 砲口のような穴。


 すべてが、ディアブロを狙っていた。


 ディアブロは舌なめずりする。


「ククク……」


「いい」


「実にいい」


「そうでなくてはな」


 その体から魔力が噴き上がる。


 先ほどまでとは比べ物にならない濃度。

 今まで吸ってきた神獣たちの魔力が、ようやくディアブロの中で馴染み始めていた。


 灼熱も。

 冷気も。

 腐食も。


 今やすべて、ディアブロの一部だった。


 右腕に赤い炎を纏う。

 左腕に青い氷を宿す。

 背後には黒い腐食の翼が広がる。


 ディアブロは、自らの変化に笑う。


「ククク……」


「食えば食うほど、我は強くなる」


「やはり、この場所は……」


 目の前の巨影を見上げる。


「我に与えられた楽園だ」


 次の瞬間。


 巨影の無数の腕が、一斉に振り下ろされた。


 ディアブロは笑いながら、真正面から飛び込んでいく。


「クハハハハハ!!!」


「もっとだ!!」


「もっと我を楽しませろ!!」


 轟音。


 衝撃。


 魔力の津波。


 アビスホール全体を巻き込んだ激突が起こる。


 その光景を見ていた他の神獣たちすら、一瞬だけ動きを止めた。


 それほどの衝突。


 それほどの暴威。


 だが。


 その中心で。


 ディアブロは笑っていた。


 殴られ、裂かれ、砕かれながら。


 それでもなお、笑っていた。


「ククク……そうだ……!」


「それでいい!!」


「その程度でなければ!!」


「我は、王にはなれぬ!!」


 ディアブロは確信していた。


 ただ生き残るだけでは足りない。


 ただ食うだけでも足りない。


 このアビスホールで、頂点に立つ。


 そのためには。


 神獣すべてを喰らい尽くし。

 この深淵そのものに、自らの名を刻まねばならない。


 その名は――


 ディアブロ。


 もはや誰かの産み落とした“ブロス”ではない。


 戦いを覚え。

 知恵を覚え。

 歓喜を覚えた、一つの王の名だった。


 そして、ディアブロはさらに笑う。


「ククククク!!!」


「次だ!!」


「次はどこだ!!」


「次に我を喰らおうとする愚か者は!!」


 アビスホールの深淵で。


 一体の怪物が、確かに王へと近づいていた。


だが――


 その瞬間だった。


 ディアブロの笑みが、初めてわずかに歪む。


 目の前の巨影。


 無数の腕を持つ異形。


 ただ大きいだけではない。


 ただ硬いだけでもない。


 こいつは、今までの神獣たちとは根本から違っていた。


 ディアブロが拳を振るう。


 炎を纏った右腕。

 凍気を宿した左腕。

 腐食の翼で加速し、そのまま巨影の胴へ叩き込む。


 凄まじい衝撃。


 アビスホールの魔力が波打つ。


 だが。


 手応えが、薄い。


「……何?」


 ディアブロの目が細くなる。


 殴った。


 確かに砕いたはずだった。


 だが、次の瞬間には。


 巨影の胴が、何事もなかったかのように元へ戻っている。


 いや。


 戻ったのではない。


 最初から“壊れていない”かのように、形そのものが揺らいでいた。


 巨影の穴のような顔面から、低い吸い込む音が響く。


 ズゥゥゥゥゥゥ……


 その音と同時に。


 ディアブロの纏っていた炎が、消えた。


「……っ!」


 右腕の赤い魔力が、ごっそりと削られる。


 続いて左腕に宿していた氷も。

 背の腐食の翼も。


 まるで“奪われる”ように、吸い込まれていく。


 ディアブロは即座に飛び退いた。


「クク……」


 笑う。


 だが、その笑いには先ほどまでの余裕がない。


「なるほど……」


「そういう類か……!」


 巨影は答えない。


 ただ、一歩進む。


 その一歩だけで、アビスホールの魔力がまたひしゃげる。


 周囲にいた出涸らしたちが、悲鳴もなく潰れ、魔力と魂ごと吸われていく。


 ディアブロは舌打ちした。


 食う。


 魔を食う。


 魂を奪う。


 それはディアブロの領分だった。


 だが目の前のそれは。


 もっと根源的に、もっと乱暴に。


 “存在そのものを減らす”。


 そういう相手だ。


 巨影の無数の腕が、一斉にディアブロへ向けられる。


 次の瞬間。


 振り下ろされた。


 ディアブロはかわす。


 かわした、はずだった。


 だが一本の腕がかすっただけで、左肩が消し飛ぶ。


 肉が裂けたのではない。


 骨が砕けたのでもない。


 そこだけ“無くなった”。


 ディアブロの瞳が見開かれる。


「……は?」


 一瞬遅れて、激痛が襲う。


 魂の痛み。


 今まで何度も削れてきた。


 何度も食われてきた。


 だが今のは違う。


 削られたのではない。


 切り取られた。


 存在を、丸ごと。


 ディアブロはすぐにアビスホールの魔力を集める。


 左肩を再構成するために。


 だが。


 いつものようには戻らない。


 魔力は集まる。


 形も作れる。


 けれど、芯が噛み合わない。


 仮の肩はできても、すぐに崩れる。


 ディアブロの顔から、笑みが消えた。


「……面白い」


 そう言った声は、先ほどよりも低い。


「実に……面白いな……!!」


 叫ぶように、自分を鼓舞するように。


 再び突っ込む。


 今度は真正面ではない。


 巨影の背後へ回る。


 さらに上。


 さらに下。


 加速し、攪乱し、死角から噛みつく。


 だが巨影は、振り向かない。


 無数の腕だけが、すべて正確にディアブロを迎撃する。


 一本かわす。


 二本避ける。


 三本目を噛み砕く。


 だが四本目が足を穿ち。

 五本目が脇腹を抉り。

 六本目が頭部をかすめる。


 ディアブロは距離を取る。


 着地の瞬間、膝が折れた。


「……ちっ」


 右脚の再構成が遅い。


 吸われている。


 近づくたびに。


 戦うたびに。


 自分の魔力が、魂が、巨影へ奪われていく。


 ディアブロはそこでようやく理解した。


 こいつは、強いだけじゃない。


 相性が最悪だ。


 ディアブロが食う側なら。


 こいつは、“ディアブロを食える側”。


 巨影がまた一歩、近づく。


 ズゥゥゥゥゥ……


 顔の穴が鳴るたびに、アビスホールの魔力が歪む。


 ディアブロの体表から、黒い霧のように魔力が剥がれ落ちていく。


「クク……」


 もう一度、笑う。


 だが今度の笑いは、戦いを楽しむものではない。


 苛立ちと、悔しさと、わずかな焦りが混ざっていた。


「……負ける?」


 その言葉を、自分で確かめるように口にする。


 すると、巨影の無数の腕が持ち上がった。


 次で終わる。


 そう理解できるほど、濃い殺意だった。


 ディアブロは歯を剥く。


「ふざけるな」


 次の瞬間。


 アビスホール全体の魔力を、無理やり一点に引き寄せた。


 暴風。


 濁流。


 渦。


 黒い津波のような魔力が、ディアブロの周囲に収束する。


 巨影の腕が振り下ろされる直前。


 ディアブロはそれを、一気に解放した。


 爆ぜる。


 視界が真っ黒に塗り潰される。


 神獣も。

 出涸らしも。

 巨影も。


 すべてを押し流すほどの、雑な大爆発。


 ディアブロ自身すら巻き込みながら。


 そして、爆発の中心から。


 一つの小さな影が、弾丸のように飛び出した。


 ディアブロだ。


 体を極限まで圧縮し、魂の形を細く細く削り、速度だけにすべてを振り切った。


 背後で、巨影が咆哮のような吸引音を響かせる。


 ズゥゥゥゥゥゥゥゥッッ――


 追ってきている。


 わかる。


 だがもう、振り向かない。


 ディアブロはアビスホールの出口へと一直線に駆ける。


 無の世界へと続く境界線。


 そこだけが、今の自分が生き延びられる唯一の道だった。


「逃げる……?」


 自分で呟き、すぐに吐き捨てる。


「違う」


 速度をさらに上げる。


 魂が擦り切れる。


 魔力が散る。


 それでも止まらない。


「戦い方を変えるだけだ……!」


 背後から迫る圧力が、ますます濃くなる。


 境界が見えた。


 白く、曖昧に、歪んでいる。


 アビスホールと無の世界を分かつ裂け目。


 ディアブロはそこへ飛び込む。


 その瞬間。


 背中に衝撃。


 巨影の腕の一本が、わずかに届いた。


 背中の半分が消し飛ぶ。


「ガッ……!!」


 ディアブロの口から、初めて苦悶が漏れた。


 だが止まらない。


 そのまま、境界を突き破る。


 白。


 次の瞬間、世界が変わる。


 無の空間。


 音のない、白だけの世界。


 ディアブロの体が、ごろごろと転がった。


 無様に。

 勢いのまま、何度も何度も。


 ようやく止まる。


 片腕はない。

 背の半分は消えている。

 脚もひしゃげ、再構成は遅い。


 アビスホールなら、すぐに魔力で補えた。


 だがここは違う。


 無の空間には、あの濃密な魔力がない。


 ディアブロは、しばらく起き上がれなかった。


「……ク、クク……」


 それでも、笑った。


 血ではなく、魂の欠片のようなものを吐きながら。


「なるほど……」


 息を荒げる。


「そうか……」


 その瞳には、まだ光があった。


 戦意。

 執念。

 そして、悔しさ。


「一度……負けたか……!」


 その言葉には、怒りよりも興奮が滲んでいた。


 今までの神獣たちとは違う。


 食えるだけの相手ではない。


 工夫しなければ勝てない。

 準備しなければ届かない。

 真正面から挑めば、自分が喰われる。


 つまり。


 初めて、本物の“格上”に会えたということ。


 ディアブロは、壊れかけた口元を歪める。


「ククク……」


「いい……!」


 片膝をつく。


 立ち上がろうとして、失敗する。


 だが笑う。


「実にいい……!!」


 無の空間に、その笑いだけが響いた。


「待っていろ……」


 白の向こうを睨む。


 その先には、まだアビスホールの闇がある。


 あの巨影がいる。


 あの、自分を喰える怪物がいる。


「次は……喰ってやる……!」


 ディアブロはようやく上半身を起こす。


 体はボロボロだ。


 魂も削れている。


 だがその敗北は、絶望には繋がらなかった。


 むしろ逆だ。


 戦い方を学ぶ。

 奪い方を学ぶ。

 勝つために、もっと考える。


 あの世界で手に入れた知恵。

 自我。

 感情。


 それらが今、初めて敗北を“糧”に変えようとしていた。


 ディアブロは、無の空間でぎらつく目を細める。


「逃げたのではない」


 低く、重く、言い聞かせるように呟く。


「次に勝つための……撤退だ」


 その言葉を口にして。


 ディアブロは再び、笑った。


「ククククク……!!」


 敗北さえも。


 この怪物にとっては、次の獲物へ至る道に過ぎなかった。


そのときだった。


 ニトが、ふいに何かに気付いたように視線を上げる。


 そして――


 遠くの白い空間を指差した。


「ほら」


「ウルティア」


 にやりと笑う。


「ちょうど君の大好きなディアブロが帰ってきたみたいだよ?」


 ウルティアは即座に反応した。


「なに言ってるのよ!?」


「わたしが好きなのはガイルよ!!」


 腕を組んで、思いきり否定する。


「ディアブロなんて、全然違うでしょ!?」


 ニトはくすくすと笑った。


「君は気付かないのかい?」


「ディアブロの自我は、もうほとんどガイルと混ざっている」


「ガイルもディアブロも、もはや似たような存在になってるんだよ」


 ウルティアは眉を吊り上げた。


「それでも!!」


「ガイルはガイルよ!?」


「ディアブロとは全然違うでしょ!?」


 ニトは首を傾げる。


「そうかなぁ……」


 少し楽しそうに笑う。


「僕には、すごく似てるように見えるけど」


 その横で。


 レイズは呆れたように頭をかいた。


「……ディアブロまで」


「ここに来るのか……」


 白い空間の向こうを見ながら、ぼそりと呟く。


「一体どうなってんだよ……」


「ここの世界は……」


 するとニトが、ぱん、と手を叩いた。


「はいはい」


「レイズ」


 にっこり笑う。


「ほら、君は魔法の練習をして」


 レイズはゆっくり振り向いた。


「……なんでこうなったんだよ」


 小さくため息をつく。


「俺は……」


 腕の中の絵をちらりと見る。


「静かに……」


「絵を眺めて……」


「のんびり過ごしていたいだけなのに……」


 ニトは即答する。


「そんなのすぐ飽きるよ」


 レイズは真顔で返す。


「飽きる飽きないの話じゃないんだけどな……」


 ウルティアは、二人を見比べながら慌てて言った。


「ちょ、ちょっと待って!」


「どうするのよ!?」


 指を向こうへ向ける。


「わ、わたしがディアブロのお迎えに行く……?」


 ニトはすぐに頷いた。


「その方がいいね」


「ディアブロは、僕やレイズがここにいることを知らないし」


 ウルティアは少し考える。


「じゃ、じゃあ……」


「隠してた方がいいの?」


 ニトは笑った。


「隠さなくていいよ」


「でも――」


 わざとらしく間を置く。


「会うまでは内緒にしてあげて?」


 ウルティアは目を丸くした。


「なんでよ!?」


 ニトは肩をすくめて、楽しそうに言った。


「ディアブロが驚く姿、見てみたくない?」


 ウルティアは顔を赤くして怒る。


「子供のいたずらじゃないんだから!!!!」


 その横で。


 レイズはぼそりと言った。


「……俺はどうでもいいわ」


 ニトはすぐに指を突きつける。


「ほら!!」


「やる気を出して!!」


 レイズは心底うんざりした顔をする。


「やる気ってなんだよ……」


 そして小さく愚痴をこぼす。


「俺はただ……」


「平穏に過ごしたいだけなんだけどな……」


 白い無の空間の中で。


 レイズの小さなため息が、静かに溶けていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たくさんの方に読んでいただき、本当にありがとうございます。 完結済の長編です。レイズたちの物語をぜひ最初から。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ