それぞれの役目
ニトが言い終えた、そのときだった。
――とん。
どこか遠くで、何かが落ちた音がした。
ウルティアが眉をひそめる。
「……え?」
無の世界。本来、音など存在しないはずの場所。それなのに今、確かに何かが落ちた。ウルティアは辺りを見回すが、白しかない空間では距離感すら曖昧で、どこで何が起きたのかすぐにはわからない。
「今……何か……?」
ニトは静かに笑った。
「うん。来たね」
遠く。白い空間の奥に、黒い点のようなものが見える。ぽつんと転がっているだけの、小さな異物。
「……なによ、あれ」
それは動かない。ただ、白の中で異物のように存在していた。
そして――
「……ここは……どこだ?」
小さく声が響いた。
ウルティアの背筋が凍る。
「……え?」
遠くの“それ”が喋った。ニトは軽く笑う。
「ほら。言ったでしょ? そろそろ来るって」
ウルティアは目を凝らす。そして気づく。
それは――首だった。
人の首。体はない。ただ、首だけが転がっている。
「ちょっと……ちょっと待って……なんで首だけなのよ……」
遠くで、レイズの首がゆっくりと視線を動かす。だが体はない。当然、動けない。
「……動けない。体が…………」
レイズは静かに状況を確認しているようだった。ニトは楽しそうにそれを眺める。
「うん。魂の残りだからね。体じゃない頭だね。」
レイズの視線がゆっくり動く。遠くにいる二人を見つける。
「……誰だ?」
ウルティアは戸惑ったまま言う。
「ちょっと……あなた……本当にレイズなの?」
ニトがひらひらと手を振る。
「やあ。無の世界へようこそ」
レイズは静かに言う。
「……無の世界?」
その瞬間だった。
白い空間が――わずかに歪んだ。
ウルティアが息を呑む。
「え……?」
ニトの笑顔が、ほんの一瞬だけ止まる。
「……あれ?」
すぐにいつもの笑顔に戻る。だが、確かに今、ニトは驚いた。
レイズの目が細くなる。
「……なるほど」
その瞬間、白い空間がまた揺れた。今度ははっきりと。ニトが小さく笑う。
「へぇ。これは……予想外だ」
ウルティアが慌てる。
「ちょっと!? 何よ今の!?」
ニトは楽しそうに言う。
「どうやら死属性、もう反応してるみたいだね」
レイズは遠くから、静かに呟く。
「……やっぱり。ここは……そういう場所なのか」
ニトは笑う。
「そう。ここはディアの生まれた場所。そして、死属性にとって一番相性がいい世界」
ウルティアはレイズを見る。首だけ。動けない。それなのに――この空間そのものが揺れている。
ニトは楽しそうに言った。
「いやぁ、面白くなってきた」
そして――少し時間が経った頃。
再び、無の世界に小さな音が響いた。
――ことり。
白い空間のどこかに、何かが現れる。それは、ゆっくりと落ちてきていた。
レイズは目を細める。
「……来たか」
落ちてきたものが、白の中にぽつんと現れる。
それは――一枚の絵だった。
レイズが大切にしていた絵。あの世界に残してきたはずのもの。その絵が、今この無の世界に送られてきていた。
レイズはゆっくりと近づき、それを抱え上げる。
「……よかった。ちゃんと届いたんだな」
小さく、安堵の声を漏らす。
ニトが不思議そうに覗き込む。
「その絵は?」
レイズは視線も向けずに答えた。
「なんだっていいだろ?」
その瞬間。ニトの表情がわずかに変わった。
驚愕。
ニトは確かに、今までずっと相手の心を読んできた。だが――今、目の前にいるレイズの心だけが見えない。まるで、そこだけ空白のように。
ウルティアが気づく。
「ねぇ!? なんで貴方は読まれないの!?」
レイズが顔を上げる。
「読まれる? 何が?」
ウルティアは言う。
「心よ! 考えてること! ニトには読まれちゃうのよ!」
レイズは眉をしかめる。
「は? 俺の心を読んでるのか? ……気持ち悪いな」
ニトがくすりと笑う。
「やっぱりね。やっぱり君は面白いよ。読めない相手なんて初めてだ。死属性が関係してるのかな?」
ウルティアがすぐに否定する。
「違うわ! リリィだって死属性を持ってた! でも……リリィの心は読めたわよ!?」
ニトは腕を組む。
「じゃあ本当に謎だね」
そしてレイズを見る。
「君は……レイズは何者なんだい?」
レイズは少し考えてから言った。
「俺は……そもそも、お前たちの知る世界で生きてたわけじゃない。別の世界……いや……別の未来と言った方がいいのかもしれない」
ウルティアが困惑する。
「どういうことなの? 別の未来って……あなた……」
レイズは静かに続けた。
「俺には俺の生きてきた世界があった。だが今の世界は……もう、すべて変わってる。だから俺はお前を知らないし、ニトともこうして話すのは初めてだ」
ニトは楽しそうに笑う。
「本当に面白いことになってきたね」
ウルティアは頭を抱える。
「本当に……意味わからないことになってるわよ……」
ふと、レイズは疑問を投げ掛ける。
「なぁ、ニト。俺の魂は、こことは違うアルバード・レイズとしてある。そして今のあの体には、さらに別の世界から来てるやつがレイズになってる。じゃぁ、この世界の、この世界にいたはずの本当のレイズはどこにいったんだ?」
ニトは少し首を傾ける。
「君たち二人でもイレギュラーなのに? 三人目のこと?」
ウルティアが驚く。
「どういうことよ……ひとつの体に三人の魂が入ってるってこと!?」
ニトは少し考えてから、静かに言った。
「整理しようか。まず、君は本来のレイズではあるけど、未来のレイズなんだね。そして今のレイズの体には、別の世界の人間が宿っている。そして、もともとこの世界にいたはずのレイズがいる。少なくとも、レアリスから見ても、君の魂は二つだけだった。君と、今のレイズ。じゃぁ三人目がどこにいったのか? だよね」
そしてニトは指をさす。それは絵に向かっていた。
「その絵。その絵に閉じ籠ってるのが、そうなんじゃないの?」
レイズは目を見開く。
「この絵に俺が……? なんでそんなことに……?」
ニトは静かに言う。
「そんなことはわからない。でもその絵にも、魂を感じる。きっと、その絵のなかに今のレイズがいるんじゃないかな?」
レイズは絵に向かって呼びかける。
「おい……聞こえてるのか?」
だが、絵は絵だ。反応なんてない。
レイズは低く呟く。
「いったいどうなってるんだ……」
ウルティアがそっと言う。
「その絵……見てもいいかしら?」
レイズは頷く。
「ああ……見てもいい」
ウルティアは絵を覗き込む。
「あら……三人いるのね。この娘が……?」
「リアノだ」
「それじゃぁこの子は?」
「メルぇだ」
「それじゃぁ……この細くてかわいい少年が……あなた?」
「そうだ。細かったんだ。このときは」
ニトは、まじまじと絵を眺めたあと、ぽつりと言った。
「この絵。不完全だよ?」
レイズは眉をひそめる。
「何を言っている……?」
ニトは絵を指差す。
「だって、この絵……このメルェって子と、リアノって子しか動いてないよ?」
レイズが絵を見つめる。
「どういう意味だ?」
ニトは静かに答える。
「この細い少年レイズは、止まったままなんだ。この絵の中に眠るように、時が止まるように、ずっと止まっている。なら……動かすしかないよね?」
レイズは呟く。
「動かす……?」
ニトは頷く。
「そう。この“時”を動かせばいいんだ。この絵を描いたのは?」
レイズは少し表情を曇らせる。
「リリアナだ。俺の母さんみたいな人だ。だけど……もう死んでる」
ニトはすぐに言う。
「じゃぁ、そのリリアナの魂を見つけないといけないね」
レイズはため息をつく。
「見つかるのか……? 無理だろ……」
ニトは笑う。
「見つけようとしてないだけで、見つけてあげたらいいんだ」
レイズが声を荒げる。
「どうやってだよ!!」
ニトは当たり前のように言う。
「魂の回廊にきっといるはずだ。なら、魂の回廊できっとこの人はいる」
ウルティアはすぐに否定する。
「無理よ! 前のわたしなら見分けられた! でも、いま見分けられる魔女なんて!!」
ニトは楽しそうに言う。
「いるだろ。支配の権能をもってる魔女が」
ウルティアは息を呑む。
「アルティナお姉様のこと……?」
「そうそう。アルティナに伝えて、魂の回廊から支配を流せば時間はかかるけど見つかるよね?」
ウルティアは首を振る。
「無理よ……どれだけの魂があると思ってるのよ……」
ニトは淡々と言う。
「支配をまとめて施して、魂の行く先を自由に解放する。まぁ……とんでもないくらいの魔力が必要だけどね」
ウルティアは呆れたように言う。
「そんなことできる依代なんて……いるわけないでしょ」
ニトは即答した。
「いるよ?? 圧倒的な魔力をもってる依代なら」
ウルティアは苛立ちを露わにする。
「だとしてもよ!! そんなの許してくれるわけないでしょ!」
レイズも口を挟む。
「ぁあ……別にこの絵で眠っているなら眠らせたままでもいいだろ?」
だが、ニトは首を振る。
「ちがうんだ。この絵が……時が動いた時にすべて……始まる。そして、すべてが終わるんだよ」
レイズは眉をひそめる。
「終わるって……それダメだろ?」
ニトは静かに言った。
「ダメじゃないよ。アビスホールも、無の世界も、すべてなくなる可能性がある。なら、この世界の在り方が本当に変わるなら、それが起点になる」
ウルティアが困惑する。
「なに言ってるの……在り方を変えるなんて……レアリスだって望んでないでしょ……?」
ニトは微笑んだ。
「レアリスも僕も、一番に望むことを特別に教えてあげる」
ウルティアは思わず身を乗り出す。
「な、なに!? すごい気になる!」
レイズも低く問う。
「一体レアリスは何をしたいんだ……?」
ニトは短く答えた。
「この世界から魔法を、魔力を、すべて失くすことさ」
レイズが叫ぶ。
「バカか!? そんなことしたら!! 生活が!!」
ニトは平然としている。
「できるよ? 魔法や魔力がなくても生きていける。すべてに均等に平等に。それこそが本当の自然の形。魔法や魔力、それらがあることが本来の形を大きく歪めている」
レイズは言葉を失う。
「そんなことしたら……」
ウルティアも震えた声で言う。
「魔法がない世界……? どうやって……?」
ニトは答える。
「根元だよ。根元が産み出した魔力と魔法の概念を完全になくした時、それは実現する」
そして、絵に視線を向けて続ける。
「そして、その三人目のレイズは、それらすべての鍵になる」
レイズは戸惑いを隠せない。
「なんでだ? なんで、俺が……俺じゃないか。なんで……?」
ニトは静かに答える。
「それがすべての始まりで、すべての終わりなんだ。この世界の記憶が大きく変化していく」
ウルティアは青ざめる。
「根元が……お母様が……目覚めたら……それこそ終わりじゃない……」
ニトは首を振る。
「そうだね。そう思っていた。でもそうじゃないんだよ」
ウルティアが声を上げる。
「わかりやすく言って!!」
ニトは笑うことなく、はっきりと告げた。
「この世界の物語は、彼が動き出した時に初めて終わりを迎えるんだ。つまり、この世界の本当のレイズ。これが元の体に戻ったとき、すべての謎が解ける」
レイズは低く問う。
「根拠は……?」
ニトは不思議そうに笑う。
「根拠?? 違うよ。それが、本当に歴史が変わった瞬間でしょ? そしてこれだけみんなが動き出している。レアリスも僕も、そして根元も……ディアだって。答えに向かって動き出している」
少し間を置き、さらに続ける。
「根元は……根元が復活すれば、魂の回廊はすべて復元される」
レイズは眉をひそめる。
「そして?」
ニトは絵を見つめながら言う。
「そして、リリアナ。もしその人がこの絵の続きを描いたとき、時は動き出す」
レイズは苦々しく呟く。
「根元とか意味わからない……が……それの意味はあるのか?」
ニトは頷く。
「ある。間違いなくある。ようやくわかったんだ。この世界の行く先が。僕たちはやっと解放される」
レイズは問い返す。
「なにに解放……されるんだ……よ」
ニトは、白い空間の遥か上を見上げるように言った。
「この物語を、この世界を産み出した者から。僕たちは自由に……なれるんだ」
レイズは絵を抱えたまま、深く息を吐く。
「……意味がわかんねぇ……」
レイズは腕を組み、少し考えるようにしてから口を開いた。
「それに……アルティナって言ったか? どうやって伝えるつもりだよ」
無の世界は相変わらず静かだった。白しか存在しないその空間の中で、三人の会話だけがぽつぽつと響いている。
ニトは軽く肩をすくめ、少しだけ困ったように笑った。
「アルティナに伝えても……意味はほとんどないかもね?」
レイズは眉を吊り上げる。
「は!? なら無理だろ」
当然の反応だった。そもそも会うことすら難しい相手に、伝えても意味がないかもしれない。そんな相手をどうやって動かすというのか。
ウルティアは少し俯きながら言う。
「アルティナお姉様は……きっと……貴方たちをひどく憎んでいるわ……。協力なんて、絶対しないわよ」
その声には、どこか諦めのようなものが滲んでいた。
だがニトは、くすりと笑う。
「そうそう」
そして楽しそうに続ける。
「協力は絶対にしたい」
レイズが眉をひそめる。
「……は?」
ニトは続ける。
「なら、やることは簡単だよ」
レイズは呆れたように言った。
「どこが簡単なんだよ!」
ニトはまるで当たり前のことを言うように答えた。
「まず、君がここに来た魔法を、ここで僕にかけるんだ」
レイズは少し考える。
「……リリィが使ってたやつか?」
ニトは頷く。
「うん。それだよ」
レイズは少し顔をしかめる。
「それを……お前に?」
「うん。僕にだよ」
ニトは楽しそうに続ける。
「そうしたら、僕はきっと無の世界から抜け出せる」
ウルティアは目を見開く。
「そ、そんなことできるの……?」
ニトは軽く笑う。
「できるかどうかじゃないよ。やるんだ」
そして続ける。
「そして僕は、まずレイズに伝える」
レイズが首を傾げる。
「何をだ?」
ニトは言った。
「アルティナを、アルティナの権能を、アビスホールに還せって」
その瞬間、ウルティアが叫ぶ。
「そ、そんなことしたら、あっという間に食べられちゃうじゃない!!」
ニトは落ち着いた声で言った。
「そうはならない」
ウルティアが睨む。
「どうしてよ」
ニトは静かに言う。
「ディアブロがいるでしょ?」
ウルティアは言葉を詰まらせる。
「ディアブロ……? ディアブロがアルティナお姉様を助けてくれるなんて……保証は……」
ニトは楽しそうに笑った。
「ねぇ」
少し間を置いて言う。
「ディアブロの親って誰だと思う?」
ウルティアは戸惑う。
「ディアブロの親……? そんなのわかるわけ……」
ニトは続ける。
「ディアブロは、ここが自分の家だって言ってたんだよね?」
ウルティアは思い出すように言う。
「言ってた……わ」
ニトはにやりと笑う。
「ディアブロの本当の親。すごくわかりやすいじゃない」
そして、静かに言った。
「ディアだよ」
レイズが目を細める。
「ディア……無の神……だよな……?」
少し考えながら続ける。
「だけどディアブロは無の力なんて持ってないぞ……?」
ニトは笑った。
「当たり前だよ」
「無の力じゃない」
そしてゆっくり言う。
「ディアブロは“魔を食らう力”を持っていた」
レイズの頭に、ある光景がよぎる。
「つまりディアも、もともとは魔力を食らう神で……ディアブロは魔を食らう魔物」
ニトは肩をすくめる。
「似てるよね」
レイズは遠くを見るように呟く。
「……魔を、食いまくってたな……あいつ」
ウルティアも頷く。
「そうね……ここに来るときも……魔力をたくさん吸っていた……」
ニトは指を立てる。
「つまりだ」
「アビスホールには魔力が潤沢にある」
「ディアブロにとっては……食事をする場所」
そしてさらに続ける。
「そして根元は魂を食らう」
ウルティアが震える。
「魂を……」
ニトは淡々と言った。
「ディアが魔力なら」
「根元……ティグルは魂を食らう」
「魔力と魂。この二つが、今もこうしてアビスホールで奪い合いをしている」
レイズは黙って聞いている。
ニトは続ける。
「アビスホールはディアブロの魂を」
「ディアブロはアビスホールの魔力を」
「そうやって、ずっと奪い合ってきてたんだ」
ウルティアが小さく呟く。
「それが……境界……?」
ニトは頷く。
「そう」
「無の世界とアビスホールの境界線は、こうして生まれてる」
そして静かに言う。
「ディアの世界」
「ティグルの世界」
「そして僕たちがいた世界」
「この三つは、すべて繋がっている」
ウルティアは戸惑う。
「それで……アルティナお姉様を還して……お母様に……権能を渡すの……?」
ニトは少し考えるようにして言った。
「いや」
「ただ渡すだけじゃ意味がないね」
レイズが眉をひそめる。
「どういうことだ」
ニトは言う。
「魔力の回廊をティグルに支配されても、解放はしてくれないだろうからね」
レイズは頭をかく。
「なんか……とんでもない話になってないか?」
ニトは笑う。
「だからだよ」
そして言った。
「あっちの世界には、その概念を壊せる男がいるだろ?」
レイズはすぐに思い当たる。
「……あいつか」
ニトは頷く。
「そう」
「だからこそ、それを伝えなくちゃいけない」
そして続ける。
「レアリスは、それを伝えることも説明することもできない」
「だから僕なんだ」
ニトはウルティアを見る。
「そしてウルティア君」
「君はアルティナをどうしたい?」
ウルティアはしばらく黙っていた。
そして、ゆっくりと言う。
「わたしは……」
言葉が震える。
「魔女を……救いたい」
「アルティナお姉様も……エルディナだって……みんな……」
ニトは優しく言った。
「それなんだ」
「根元が欲しがってるのは、君たちに分けた権能だ」
「それがすべて根元に戻ることで、根元は動き出す」
ウルティアは顔を青くする。
「そんなの……あまりにも危険よ……」
小さく続ける。
「お母様は……あまりにも……容赦がないわよ……」
ニトは頷く。
「そうだね」
「根元は本当に危険さ」
そして少し笑う。
「でも、レアリスもディアも、そしてレイズもいる」
「そして僕も」
「それにガイルみたいに強いのも、みんな仲間として動けば」
「根元が相手でも、分は十分にあると思うよ?」
レイズは重い声で言う。
「だとしてもだ……」
「……あまりにも犠牲が出るだろ」
ニトは少し首を傾げた。
「犠牲?」
そして静かに言う。
「残念だけど」
「魔力や魔法、それらがある限り」
「永遠に犠牲は増えていくよ」
無の世界は静かだった。
ニトは続ける。
「それを止めるために」
「すべてを本来の姿に戻す」
「それが……一番犠牲を少なくすることができる」
レイズは呟く。
「そんなこと……成功するのかよ……」
ニトはすぐに答えた。
「するかしないか、じゃない」
「やるしかないんだ」
ウルティアは不安そうに言う。
「ねぇ……」
「わたしは……どうしたらいいの……?」
ニトは優しく言う。
「ウルティア」
「君は姉妹たちを導けばいい」
「魔女としてじゃない」
「人として彼女たちを」
そして静かに続ける。
「そして、すべてが平等になったとき」
「君たちも帰ってきたらいい」
「魔女としてじゃなくて」
「人として生まれて」
「そして自然の一部として、自由に生きたらいいんだ」
レイズはぽつりと言う。
「俺は……関係ないだろ……?」
ニトはすぐに言った。
「君が、そして今のレイズがいるから」
「すべてが始まったんだ!」
そして笑う。
「今さら何を言っているのかなー」
レイズは静かに言う。
「俺は……ここで、おとなしく」
「永遠でもいい」
「過ごせればいい」
ニトは頷く。
「なら君はここに残ればいい」
「ここに残って、そうしたらいい」
レイズは言う。
「すべてがなくなるのにか……?」
ニトは静かに答えた。
「すべてがなくなるからこそ」
「君は本当の行き先へたどり着く」
「そこが君の本当の居場所なんだ」
「ここじゃない」
「ここは、ただの延長線上にすぎない」
ウルティアはため息をつく。
「話が……とんでもないことになってきたわね……」
ニトは笑った。
「とんでもないことは、すでにたくさん起きてる」
「それはみんなわかってるよね?」
レイズは苦笑する。
「確かに……な」
ウルティアも頷く。
「本当にそうよ」
ニトは笑いながら言った。
「だから面白いことになってきたね!」
そして元気よく言う。
「みんな、がんばろう!!」
レイズは呆れた顔をする。
「それで俺は……ニトを戻せばいいのか……?」
「でも……うまくできるか自信ないぞ」
ニトは元気よく言う。
「なら!!練習をしたらいい!」
「なにせこの空間には、時なんて無限にあるんだからさ!」
レイズは深く息を吐く。
「……わかった」
「やってみるよ」
ウルティアも言う。
「わたしは!!ディアブロが帰ってきたら説明するわ!」
ニトは満足そうに頷く。
「それぞれの役目がはっきりしたね」
そして手を上げる。
「じゃあ」
「みんなでがんばろー」
「えいえいおー!」
レイズは呆れた顔で言った。
「なんだよその掛け声……」
ウルティアは苦笑する。
「本当に……でも……私の役目かぁ……」
ニトは肩をすくめる。
「ほんと……つれないなぁ……」




