レアリスの教育
レアリスに頭を掴まれたまま、ジークは引きずられるように運ばれていた。
「は……離せ!!」
「どこへ連れていく!?」
「私はまだ……やることがある!!」
レアリスは振り返らず、冷たい声で言う。
「貴方……ができることは……」
「自分よりずっと弱いものを殺すことだけ」
ジークは歯を剥き出しにする。
「私は死なない!!」
「だから時間は、どれだけかけてもそれをなせる!!」
レアリスは首を傾げる。
「死なない……?」
「これのこと?」
次の瞬間。
レアリスが指先を動かす。
ジークの足が――吹き飛んだ。
肉と骨が霧のように散る。
だがジークは笑った。
「ハハハ……!!」
「痛いじゃないか!!」
「だが!!すぐに再生する!」
レアリスは静かに言う。
「もう再生しない……ね?」
ジークの足は戻らない。
肉も骨も、再生しない。
ジークの顔が歪む。
「な……なぜだ!!」
「なぜ足が戻らない!!」
レアリスは淡々と答える。
「私が……それも……できなくしたから」
ジークは歯を食いしばる。
「き……貴様!!」
「なら!!私を殺すつもりか!?」
レアリスは少し考えるようにして、
「殺す……?」
首を振る。
「選ばせてあげるだけ」
そう言って、ジークの足に触れる。
次の瞬間、足は元通りになった。
ジークは目を見開く。
「な……何者だ貴様!!」
「痛みを、死ぬことを証明するために、わざわざ足を吹き飛ばす意味があるのか!?」
レアリスはジークを見つめる。
「死ぬの……怖い?」
ジークは、その瞬間理解した。
もう再生できない。
つまり――
死ぬことができる。
今まで死ぬことなど恐れたことはない。
だが今は違う。
本当の死が、そこにある。
「やめろ……」
「まだ!!」
「死ぬわけにはいかない!!」
「死ぬのは!!目的が……終わってからだ!!」
レアリスは言う。
「その目的……もう叶わない」
「だから別のを、私と見つけよ……?」
ジークは怒鳴る。
「ふざけるな!!」
「なにをどう見つけるというんだ!!」
「私の怒りを!痛みを!傷を!!」
「何が貴様にわかる!!?」
レアリスは少し考える。
「8000年……は過ぎてる……」
ジークは眉をひそめる。
「は?八千年?」
「何の話だ……」
レアリスは静かに言う。
「私が……私として……ここにいたの……8000年」
ジークは笑う。
「フハハ!!」
「おまえ……そんなに生きてたのか!?」
「なら!!わかるはずだ!!」
「この世界は汚れきっている!!」
「綺麗にしなくてはいけない!!」
レアリスは首を振る。
「ちがう……」
「8000年は……生きてたんじゃない」
「私は……生きてることを知らない……」
ジークは叫ぶ。
「何を言っている!?」
レアリスは続ける。
「それに……この場所は、とても綺麗……」
「汚れてないから……」
ジークは怒鳴る。
「意味がわからない!!」
「これだけ理不尽がある!!」
「この世界の何をおまえは見ている!!」
レアリスは答える。
「全部」
「自然が……」
「それに……暖かさが……」
ジークは笑う。
「暖かい……?」
「なら私は!!」
「私のこの凍てついた心は!!」
「なんだというんだ!!」
レアリスは少し考えて、
「たまたま」
「少し寒かった……ね?」
ジークは絶叫した。
「ふざけるなぁぁぁ!!」
「そんなことで認めるか!!」
「離せえええ!!」
「いつまで頭を掴んでいる!!」
レアリスは、手を離した。
ジークの身体が落ちる。
かなりの高さだった。
いつもなら問題ない。
だが今は――死ぬ体。
「ふざけるなぁぁぁ!!?」
「魔力も使えないのだぞおおおお!!」
レアリスは上から言う。
「大丈夫……死なないから……」
次の瞬間。
鈍い音がジュラの森に響く。
骨が折れる音。
肉が潰れる音。
ジークの身体は無惨に地面に叩きつけられた。
骨はあちこち折れ、
呼吸すらまともにできない。
治らない。
直せない。
死が――
初めて現実になる。
レアリスはゆっくり降りてきた。
「ね……」
「死ぬの怖いよね……?」
ジークは答えられない。
重傷すぎて声も出ない。
それでもかすかに。
「……た……すけ……」
レアリスは首を傾げる。
「怖い?」
ジークは震えていた。
死が怖い。
だがそれ以上に。
目の前の女が怖い。
口から血を吐きながら言う。
「これで……ほんと……に……」
意識が途切れかけた瞬間。
レアリスが触れる。
すべての傷が消えた。
「まだ……わからない?」
ジークは理解する。
これは拷問ではない。
教育だ。
死ぬことの怖さ。
生きていることの価値。
それを教えようとしている。
だが――
レアリスは誰かを教育したことなどない。
だからそのやり方は、
どこまでも残酷だった。




