阻まれる壁
その頃――
ガイルたちは、思わぬ壁に直面していた。
レアリスだ。
再び、ガイルの前に立ちはだかる。
静かに、しかし絶対的に。
空気が凍る。
魔力でも殺気でもない。
存在そのものが、圧力だった。
レアリスは短く言う。
「だから…ダメって言った……よね?」
ガイルは歯を食いしばる。
「レアリス! 邪魔するな!!」
ジークを睨みつける。
「こいつは!! こいつだけは消させろ!!」
「おまえの話なら、魔女全員を還さないなら問題ないはずだろ!?」
レアリスは、不思議そうに首を傾げた。
「根元が……復活するから困る。
それは本当……でも違う」
ガイルは苛立ちを隠さない。
「ようやく俺とも会話してくれる気になったのかよぉ」
クルシアが震える。
「こ、この……方が、レアリス……!?」
ティルシーの体に宿るエルディナも、息を呑む。
「この方が……レアリス様……?」
ガイルは怒鳴る。
「意味がわからなすぎるんだよ!
こいつは!! この世界を荒らしてる!!
ならおまえも!! こいつは見過ごせないだろ!!?」
レアリスは、静かに答える。
「見過ごせない……。
このまま、選択していないのに……消すのを……」
ガイルは吐き捨てる。
「何言ってんだ!
こいつらは選択してるだろ!
世界をめちゃくちゃにするっていう選択がよ!!」
ジークが笑う。
「ククク……ハハハ!!
そうだ、選択などしていない!!
レアリスといったか!! 俺を解放しろ!!
手伝ってくれ!!」
レアリスは、ジークに触れた。
瞬間。
魔力の回路が、否、魔力を媒介する“縦の通路”が、
根こそぎ消え去る。
ジークは目を見開く。
「な……なにを……」
レアリスは、穏やかに言う。
「これで……魂も使えない……ね?」
「ガイル……なにもできない…もう解放して?」
ガイルは絶句する。
「ふざけんな!!
魔力が!?
魂が使えない!?」
「そんなんで解決するもんじゃねぇ!!
こいつは!! あまりにも殺しすぎた!!
こいつを!! そんなんで解放する理由になるか!!」
レアリスは、静かに願う。
「私が見るから……お願い。
だから…貴方を消させないで?」
その言葉に、ガイルの背筋が冷える。
それは懇願の形をした、警告だった。
これ以上踏み込めば、
消えるのはジークではなく、ガイルになる。
ガイルは唇を噛む。
「ふ……ふざけんなよ……くそが……」
レアリスは続ける。
「ガイル消したら……レイズに嫌われる……
それも困る…」
ガイルは目を見開く。
「んなことは……くそが……てめぇ……ほんとに……よぉ……」
そして、ジークの拘束を外した。
だがジークは、息も絶え絶えに膝をつく。
「はぁ……はぁ……
力が……使えない……」
「なにをした……!
権能が……あの女の権能が!!」
何をしても何も起きない。
魂を使役するにも魔力がいる。
だがその媒介は、完全に失われていた。
「ふざけるな!! ふざけるな!!
魔法が!! 魔力がなくとも!!
私は!! 殺し続けてやる!!」
レアリスは、そっと言う。
「貴方は……私が……側にいてあげる」
そしてジークの頭を掴み、そのまま離れていく。
ガイルは大きく息を吐いた。
「やっぱあいつ……おっかなすぎんだよ……」
エルディナは震えながら言う。
「ジ、ジーク……よかった……
消されずに済むの……ね?」
ガイルは吐き捨てる。
「てめぇばかか?
消された方が下手したらマシだったかもしれねぇ」
エルディナは静かに首を振る。
「そんなことないわ……
力がなくても……
この世界に在り続けられることより大事なことは、ないの……」
クルシアが叫ぶ。
「おい!! あのまま放置していいのか!!?
あの男は!! 消すのではないのか!!?」
ガイルは低く言う。
「やめとけ。
一番敵にしたらやべぇのは、魔女とか、そんなんじゃねぇ」
「レアリスだ」
「レアリスを敵に回すってなるんなら……
そうだな。てめぇらも知ってるニトを敵にするのと同じだぜ?」
クルシアは震える。
「ニト様を……敵に……?
じゃぁ……あれもニト様の意向なのですか……?」
ガイルは首を振る。
「はぁ……ちげぇよ。
でもなぁ……レアリスとニトは……対等な存在だ」
「どっちも……敵にしたらやべぇのは……俺だってさすがにわかってる」
「だから、なにもできねぇ。
諦めろ」
クルシアは力なく呟く。
「そ……そんな……
じゃぁわたしは……何しにここへ……?」
ガイルは視線を向ける。
「まだ残ってんだろ。
この女がな」
「この女については、レアリスは止めてこなかった」
「あいつの何かルール的なもんに……この女は当てはまらねぇみてぇだからよ」
「とりあえず……この女とおまえだけは……連れ帰る」
クルシアははっとする。
「そ……そうだったわ。
ティルシーを取り戻すんだから……」
エルディナは、静かに言う。
「だから……もう戻らないってば……」
重い空気のまま。
ガイルたちは、アルバード方面へ向かうのだった。
クルシアが、突然声を張り上げた。
「ねぇ!!」
「さっきの……ほんとにレアリスなの!?」
「あなたたち!!
レアリスとどんな繋がりあるのよ!?」
エルディナがすぐに注意する。
「レアリス、レアリスって……呼び捨てにしちゃだめよ」
「レアリス様は……自然の、環境の理よ」
「誰も意見なんてできないわ」
ガイルは肩をすくめた。
「繋がりっていうか……」
「一方的に管理されてる側って意味が正しいな」
そして小さく舌打ちする。
「ほんとはあいつを消してやりてぇぜ」
「でもな」
「レアリスが相手だと、もはや戦いとかじゃない」
「消すか、消されないかの選択しかねぇ」
ガイルは笑う。
「過去に戦ったことはあるけどな」
「俺だけじゃねぇ」
「クリスや……ルイス……グレサスみたいな変態が揃っていても、勝てねぇ」
「それにレイズも……」
「俺はあいつも同等にすげぇやつだと思ってるけどな」
クルシアは目を見開く。
「貴方が!!
魔王が立ち向かえない相手に!?」
「ニト様でも……?」
ガイルは笑った。
「ニトはレイズに降伏していたけどな」
クルシアは叫ぶ。
「そんな馬鹿なことを!!」
エルディナは呆然と呟く。
「一体何者なのよ……」
「それって本当に人なの?」
「人じゃないんじゃないの?」
ガイルは笑いながら答える。
「人だぜ?」
「誰よりもあいつは普通に人だ」
「普通に人だけど……普通じゃない」
「それがレイズだ」
クルシアは眉を寄せる。
「ねぇ……」
「あの男を……ほんとにそのままにする気?」
ガイルは吐き捨てる。
「俺たちに消される方がよっぽどマシだったと思うけどな」
「レアリスに直に管理されるって……」
「それこそ生きた心地なんかしねぇ」
エルディナがぽつりと呟く。
「アルティナお姉様は……」
「どこにいったの……」
ガイルは鼻を鳴らす。
「それこそお前らの方がよくわかってんだろ」
「あいつと混ざっちまったんだろ?」
「そしてあいつに譲ったんだろ?」
「なら、もういねぇのと同じだろ」
ガイルは笑う。
「クハハハハ!!」
「まったく……支配の権能も使えねぇとか……」
「あいつどうする気だろうな」
クルシアは怒鳴る。
「権能や力がなくなったとしても!!」
「私は許さない!!」
エルディナは静かに言う。
「もうなにもできないわ……」
「そっとしてあげて……」
「ジークは……」
「私たちのせいで……壊れただけなの……」
ガイルは舌打ちする。
「これだから魔女はほっとけねぇ」
「あんなアホを作っちまう」
「ならやっぱり害でしかねぇ」
エルディナが怒鳴る。
「そんなことを言ったら……貴方達だって同じよ!!」
「たくさん……殺し合いをして……」
「弱い者はたくさん……」
「そんな世界を造ったのは私たち魔女じゃない!!」
「貴方達が!!」
「人間や魔族が!!」
「すべていけないんじゃない!!」
エルディナは続ける。
「だから!!」
「アルティナお姉様は……」
「みんなを平等に支配しようとしていた……」
ガイルは静かに言う。
「ならその必要はもうねぇ」
「魔族も人も殺し合いなんてしてねぇ」
「そんなことしなくてもな」
「止まれるんだよ」
そして笑う。
「てめぇらにできねぇことを」
「レイズはやってんだ」
エルディナは首を振る。
「嘘よ……」
「またすぐに……」
「始めるわよ……」
「私たちがどれだけこの世界を見てきたと思っているのよ……」
ガイルは吐き捨てる。
「だからこそだろ」
「変わってる今を認めねぇから、おまえ達は受け入れられない」
「だからよ」
「もうおとなしくしとけ」
「そうすれば消されずに済むかもしれねぇぜ?」
クルシアは怒鳴る。
「馬鹿なことを!!」
「その女は絶対に消さないと!!」
「ティルシーは!!」
ガイルはため息を吐く。
「だから……もうティルシーはいねぇんだろ」
「おまえの気持ちはわかるぜ?」
「自分の大切な相手を誰かに使われる」
「その悔しさと怒りもな」
ガイルは少しだけ真面目な顔になる。
「だがよ……」
「それはある意味では、みんな同じことをしてきたんだぜ?」
「自分だけじゃねぇ」
「そうやって命は成り立っていやがる」
ガイルは手を振る。
「とにかくだ!!」
「この女がどうなるかは、もはや俺にはどうでもいい!!」
「だからてめぇらを、ただレイズの元へ送る」
「それからのことは、そこで話せ!」




