表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【悪役転生 レイズの過去を知る 】―俺だけが知る結末を、今度こそ覆す―  作者: くりょ
新たな始まり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

746/777

帰還。そして還す。


レイズは重い足取りで、レアのもとへ向かった。


 レアがいる部屋の前にはリアノが立っており、深くお辞儀をする。


「リアノ……いま、どうなって……?」


 リアノは小さく息を吸い、落ち着いた声で答えた。


「いまはイザベル様と、お話をされています」


「そうか……」


 レイズは短くうなずき、扉に手を添える。

 軽くノックをした。


「レイズ。俺だ」


 すぐにレアの声が響く。


「ちょうどイザベルとも話が終わったところだ。大丈夫だぞ」


 凛とした声だった。

 あまりにも落ち着いている。


 その声の硬さに、レイズは思わず顔をうつむく。

 そして扉を開け、部屋へ入った。


 レアは一言だけ言った。


「そうか。俺に会いに来てくれるのは、これで全員か」


 納得している様子だった。

 最初から、そうなることを知っていたかのように。


 レイズは言葉を探しながら口を開く。


「レイズ……みんな、それぞれの思いで……

 ちゃんと、おまえのことを考えた上で……

 その、遠慮して……」


 レアは遮るように首を振る。


「大丈夫だ。こうなることはわかっていた」


 それから、話題を切り替える。


「それで、俺を消す方法についてだが」


 淡々と説明が始まる。

 方法。手順。必要な協力者。


 レイズも、イザベルも、リアノも、暗い表情でそれを聞いていた。


 本物が目の前にいるのに。

 その本物は、アルバードに帰還したことを喜ぶこともなく、あまりにも淡々としていた。


 レアは言う。


「つまりだ。リリィという人物に協力してもらいたい。頼んでもいいか?」


 レイズは希望を託すように言う。


「リリィが断れば?

 なあ、レイズ。急ぐ必要はないだろ。

 レアリスが……

 レアリスがなにもしないうちは、レアとしてここにいたらいいんじゃないのか?」


 レアは、わずかに目を細める。


「そうもいかない。レアリスはもう気づいている。

 それに、ここの光景は……

 俺にとって、あまりにも場違いすぎる」


「そんなことないだろ……」


 レイズの声が震える。


「ここは……おまえの居場所だ。

 アルバードは、おまえの場所だ!

 おまえが立つべき場所だ!

 俺じゃない!

 おまえこそが……!!」


 レアは強く言った。


「そんな言葉を吐くな。イザベルとリアノの顔を見ろ」


 イザベルは涙を浮かべながら首を振る。


「そんなこと言わないで……」


 リアノは必死に言う。


「私はどちらも……ここにいるべきです……」


「ぁぁ……すまない」


 レイズは息を吐く。


「でも……

 そうじゃなくてさ……」


 レアは静かに言った。


「もう言うことはない。

 そうだな。ここではない場所で話さないか?」


「どこだ……?」


「ついてくればわかる」


 レアはリアノへ視線を向ける。


「リアノ。絵を持ってくれ。頼む」


 リアノは震えながら、絵を抱えた。


 そうして、レアの案内のもと、三人は屋敷の外へ向かう。


 夜気が肌を撫でる。

 外は静かで、音がやけに遠い。


 レア以外の足取りは重かった。

 だが、レアの足取りだけが軽い。


 まるで、すでに覚悟が終わっている者の歩き方だった。


 レアは立ち止まる。


「着いた。ここだ」


 レイズは視線の先を見て、息を飲む。


「ああ……そっか。そうだよな」


 イザベルも小さく呟く。


「ねぇ……やっぱり……」


 リアノも震える声で言う。


「そうです……。やっぱり、みんなの前で……」


 レアは静かに言った。


「ここで話せれば、それで充分だ」


 辿り着いた場所。


 メルェ。

 ヴィル。

 セバス。

 リリアナが眠る場所。


 四人の墓だった。


 レアはじっと墓を見つめる。


「魂として、そこにいる気がしないか?」


 その問いに、レイズは頷く。


「ああ……きっと、いるはずだ」


 イザベルは堪えきれずに言う。


「ねぇ……明日でも……」


 リアノも声を上げる。


「そうですよ!!

 今じゃなくてもいいじゃないですか!」


 だがレアは、冷静にお願いをする。


「リリィを呼んできてくれるか? リアノ」


 リアノは震えながら、首を振った。


「嫌……

 たとえレイズ様の命令でも、それは……嫌……」


 イザベルも堪えた声で言う。


「ねぇ……

 そんな残酷なことを私たちに頼まないでよ!!」


 レイズは一歩前に出る。


「俺が呼んでくる。

 リリィを呼んでくるから」


 そして、二人に視線を向ける。


「だから、三人で話しててくれ」


 レアは短く言った。


「ありがとう。レイズ」


 レイズは小さく唇を震わせる。


「レイズは……おまえだよ……」


 そう言い残し、レイズはリリィのもとへ向かった。


 残されたのは、レアと、イザベルと、リアノ。


 レアは墓前に立ち、静かに口を開く。


「さてと……イザベル、リアノ。

 さっきも話をした通りだ。

 俺は、すでに死んだ身だ。

 ならば、死んだ者がこうして墓となり、眠るのも……筋だろう」


 イザベルは震える声で問う。


「あなたは……レイズも……ここで眠るの……?」


 リアノも必死に言う。


「ちゃんとここで、見ていてくれるのですか……?」


 だがレアは首を振る。


「違う。俺の場合は、ここじゃない。

 どこかは言えないが……はっきりわかることがある」


 イザベルとリアノは息を飲んだ。


 レアは淡々と告げる。


「俺は本来あるべき場所へ。

 そして、残りの魂があるべき場所へ行くことになる」


 イザベルは唇を噛む。


「結局どこかわからないわよ……」


「ああ。俺の魂の殆どは、レアリスがすでに送ってくれている。

 だから、そこに行くことになるだろう」


 イザベルは、ふと口にする。


「リリィの……魔法は……

 アビスホールって言ってたわよ……?」


「なら、そこが行き着く先かもしれないな」


 イザベルは声を荒げる。


「ろくなとこじゃないわよ!!

 魔女を送る場所よ!?

 絶対まともじゃない!!

 レイズ……あなたが……

 あまりにも危険よ!!」


 レアは首を振る。


「アビスホールがなんなのか、俺にはわからない。

 だが、たとえそこが地獄のような場所だったとしても」


 その声は落ち着いている。


「それが本来、俺が背負う罪だ」


 レアは続ける。


「俺はあまりにも失敗をした。

 それは、アルバードが滅びたとかの話ではない。

 俺は、たくさんの人も……魔族も……殺している」


 言葉が、墓石の前で重く落ちる。


「この世界では違くてもだ。

 俺のいた世界では、それだけのことをしている」


 レアは息を吐く。


「そんな俺の魂が行き着く先など、ろくなものであっていいわけがない」


 イザベルは首を振った。


「それでもよ……

 そんなとこ……

 自ら行く必要ないわ……」


 リアノも叫ぶ。


「だめです!!

 だれも……

 それにレイズくんも望んでなんかいません!!」


 レアは静かに答える。


「誰が望む望まない、という話ではない」


 そして淡々と告げる。


「魂に刻まれた罪は、それ相応の場所へ向かう。

 それはレアリスも同じだ。

 ゆえにレアリスも同じところへ、俺を送る」


 イザベルは言葉を失う。


「そんなの……」


 レアは、ふと何かを思い出したように言う。


「ひとつ言い忘れたことがある」


「なに……?」


「なんですか……?」


 レアは明るい声で言った。


「ただいま」


 その言葉を聞いた瞬間、イザベルもリアノも泣き崩れる。


「そんな……

 ただいまって言うなら……!

 ちゃんとお家にいるべきよ……

 ずるいよ……あんた……」


 リアノも涙を流しながら言う。


「そうです……

 帰ってきたなら!!

 ずっといてください!! レイズ様!!」


 レアは少しだけ口角を上げる。


「おかえりはないか……」


 イザベルは涙を拭きながら、意地を張る。


「絶対言ってやるもんですか……」


 リアノは必死に叫ぶ。


「おかえりって言ってほしいなら!!

 ここに……!!」


 レアはリアノを見る。


「リアノ。その絵を、そこに置いてくれ」


 リアノは震えながら首を振った。


「嫌……やっぱり……嫌です」


 レアの声が低くなる。


「リアノ。置け」


 それは命令だった。

 主人の命令。


 リアノは震えながら絵を置く。

 逆らうことなどできない。

 アルバードに仕えた者なら、逆らえるはずがなかった。


 そこへ足音が近づく。


 レイズとリリィが現れる。


 リリィは困惑しながら口を開いた。


「その……レイズ様。

 ここで一体、何を……?」


 レイズはまっすぐに言う。


「リリィ。辛いことを頼むことになる。

 あそこにいるレアを……

 レアに……還す魔法を頼む」


 リリィは戸惑う。


「あの……魔法ですか……?

 何故です?」


 その質問に、レアが答える。


「俺の帰る場所が、そこにあるからだ」


 リリィは息を呑む。


「あ……あなたは……しゃべっ……え?」


 レアの魂の形を見て、リリィの顔色が変わる。


 その形は、あまりにもおかしかった。


 魂の五体が大きく欠損している。

 まるで頭だけしかないような、削られすぎた魂。


「貴方は……何者なんですか……?」


 レアは笑う。


「ハハハ。

 何者でもない。

 ただ、在るべきところを間違えた……

 そんな魂だと思ってくれ」


 リリィは震える声で言う。


「あなたは魔女……じゃないなら、

 魂の回廊に……行くべきでは?」


 レイズは眉をひそめる。


「リリィ……その魂の回廊ってのは?」


 リリィは説明する。


「みんな死んだら、空より上にある、

 大きな魂の流れの中に溶けて、混ざるように集まります。

 その道を、魂の回廊と呼んでいます」


 そして噛み砕くように続けた。


「簡単に言うと……

 そこは魂が浄化され、ひとつの河となる場所です」


 レアは静かに言う。


「ああ。それなら、その場所はこの世界に在るべき者の場所だろう。

 だが、俺はこの世界には在るべきではない魂だ」


 墓前の空気が、さらに冷える。


「だから、アビスホールという場所に送ってくれ」


 リリィは首を振った。


「だめです」


 リリィは、言い切ってから続けた。


「貴方は……人、ですよね?

 アビスホールは、人が向かう場所ではありません」


 呼吸が浅くなる。

 それでも言葉は途切れない。


「アビスホールが実際にどんなところか……

 それは私にもわかりません。

 あそこは、魔女たちの……『母』と呼ばれる方がいる場所です」


 リリィは目を伏せる。


「母の元へ還る。

 そういう意味で、魔女を……

 アビスホールに還す場所」


 そして、震える声で言う。


「ましてや人が……

 人を還す……そんな場所じゃありません」


 レイズは、胸の奥が冷たくなるのを感じながら問う。


「リリィ……ディアブロは、そこに還していたよな……?」


「はい」


 リリィは即答した。


「あの方は……魂を見て理解しました。

 あの方は……魔女と同じ……

 根元から生まれた魂だと……すぐにわかりました」


 レイズは呟く。


「ディアブロは……何者なんだ……」


「私にもわかりません……。

 でも、あの方はアルティナ様とも混ざっていました。

 なので、アビスホールに還すという選択肢しかありませんでした……」


 レアは落ち着いて言う。


「レアリスに、すでに大半は送られている。

 なら、レアリスが送る場所に心当たりはあるか?」


 レイズは首を振る。


「そんなの、わかんない……。

 レアリスはそもそも、魂を還すとか……そういうやつじゃ……」


 だが、言葉の途中で何かに気づいたように黙る。

 そして、ゆっくりと呟いた。


「……還すなら、レアリスじゃない。

 ディアだ……」


 視線が遠くなる。


「なら……無の神がいた場所……

 無の世界……?」


 レアは小さくうなずく。


「ならば、そこだ。

 リリィ。頼んでもいいか?」


 リリィは、ためらいを隠せず首を振りかける。


「そんな……私は、そんな場所……」


 レイズは、低い声で言う。


「リリィ。

 ディアは死属性と関係している。

 なら、難しく考えなくていい。

 ただ『消す』だけをイメージして送る」


 レイズは息を吐く。


「たぶん、それが……無の世界へ送るってことだ。

 実際、いままで俺も……消すだけを考えて、魔力とかを消してきたから」


 リリィは唇を噛み、最後にうなずいた。


「……わかりました。

 では、やってみます……」


 レイズは、レアに視線を向ける。


「なぁ、レイズ……

 いや。もう決めているんだもんな」


 レアは答える。


「そうだ。決めている」


 そして、レイズにだけ聞こえる声で言った。


「レイズ。最期だ。

 本当にありがとう。

 そして……さよならだ」


 イザベルは涙を流しながら、もはや何も言えない。


 リアノはレアを抱き締める。


 レアは、困ったように言う。


「リアノ。気安く触るなど……

 ……まあ、いい」


 レアは、短く言った。


「それでは、リリィ。頼んだ」


 リリィは不安げに視線を彷徨わせる。


「レイズ……?

 レイズ様が二人……どういうこと……?」


 レアは淡々と返す。


「気にするな。

 別の世界から来たレイズ。

 そう思えばいい」


「別の世界……

 ですか……」


 リリィは、深く息を吸った。


「わかりました……

 それでは……

 始めます」


 ゆっくりとレアに手を当てる。

 そして魔法を唱えようとした、その瞬間。


 別の方向から声が飛び込んだ。


「レイズ様!!!」


 リアナだった。


「レイズ様!!!!

 おかえりなさいませ!!」


 レアは、笑う。


「……ああ。よかった。

 ありがとう」


 その声は、ひどく穏やかだった。


 あたりを見回せば、何人かの使用人たちが集まっていた。

 そして、その中にクリスの姿もある。


 誰も言葉を発しない。

 ただ見送るために、集まっていた。


 レアは小さく呟く。


「なんだ。結局……来たのか……」


 そして、ゆっくりと言った。


「みんな……ただいま。

 そして……さよならだ」


 リリィの声が震える。


「ホワイト……リヴァー……ジョン……」


 魔法が発動する。


 レアの体が、ぽてりと力を失って崩れた。

 意思が、抜け落ちる。


 しばらくして、レアは起き上がる。


 だが、そこにあるのは――人の目ではなかった。


 何事もなかったかのように、走り去ってしまう。

 その姿は、ただの白い獣。


 レアリスの器として、ただその場を離れていく。


 そしてレイズは、レアが言っていた方法を実行する。


 それは、絵を焼くことだった。


 ずっと、ずっと大切にしていた絵。

 それをレアは説明していた。


 その絵の持ち主の指示通り、レイズは火をつける。


 絵が燃える。


 リアノは大泣きした。


 その絵は、レイズだけではない。

 リアノにとっても、メルェにとっても大切なもの。


 だが、理解もしている。


 その絵もきっと、

 レイズの元へ必ず向かったのだと。


 絵が燃え尽きる。


 そしてレイズは、リリィに言う。


「リリィ。

 この絵にも……同じ魔法を頼む。

 燃えて灰になっても、構わない。

 最後まで……ちゃんと送ってやりたい」


 リリィは小さくうなずく。


「はい……わかりました」


 もはや燃えて灰になっていた。

 それでもリリィは、その灰に向けて手をかざす。


「ホワイト……リヴァー……ジョン……」


 まるで、その絵に宿る、

 時という名の魂さえも。


 無の世界へ還されるように――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たくさんの方に読んでいただき、本当にありがとうございます。 完結済の長編です。レイズたちの物語をぜひ最初から。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ