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【悪役転生 レイズの過去を知る 】―俺だけが知る結末を、今度こそ覆す―  作者: くりょ
新たな始まり

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混戦 (話がとんでいたので加執してます)

聖国の中枢は、すでに戦場と化していた。


 崩れた石壁の隙間から砂煙が舞い、血の匂いが重く漂っている。聖堂特有の香と蝋の甘い臭いは、焼けた魔力の焦げ臭さに塗り潰され、祈りのために磨かれていたはずの石畳には黒い焦げ跡と赤い染みが幾重にも重なっていた。泣き声と怒号が入り混じり、逃げ惑う足音が瓦礫を蹴り、誰かの「助けて」という声が折れた柱に吸い込まれていく。


 その混沌の中を、ただ一人、静かな足取りで歩く男がいた。


 ジーク。


 狂乱の空気の中で、彼だけが不自然なほどに整っていた。服は裂け、血は滲んでいるのに、歩幅は一定で、視線は迷いなく、そして声だけが妙に穏やかだった。


「ほら、君たち。もっと集まらないと」


 逃げ惑う民衆を、奥へ奥へと追いやるように、まるで誘導するように告げる。震える肩、怯えた眼差し、子供を抱えた母親の足取り。彼らは壁際に押し寄せ、祈りのための長椅子の影にすがりつく。


 その声音は優しい。だが、その足元には倒れ伏した者がいる。動かない者もいる。救いを語る男の背後で、命が無造作に失われていく――その矛盾が、聖国の空気をいっそう重くしていた。


 その前に立ちはだかったのは、パラディンたちだった。


 エルウィンが剣を抜く。その動きに一切の迷いはない。肩から背にかけての筋肉が張り、刃の角度がわずかに変わるだけで殺意が伝わる。クレセントは拳に詠唱を乗せ、圧縮された光を握り込む。白い粒子が拳の周りで回転し、言葉にならない祈りが拳骨へと刻まれていく。グレンは民を背に庇い、同時に、いつでも介入できる距離を保つ。彼の手には――ニトの杖。聖国の象徴の一つであり、今この場では、最後の切り札だった。


「簡単に入ってくるとはな」


 エルウィンの低い声と同時に、攻撃が放たれる。


 地面から光槍が噴き上がり、ジークの身体を貫く。槍は足場のように突き出し、彼の体を上空へ押し上げるように連続して生まれる。クレセントの拳から放たれた光の奔流が、その槍へ追い打ちをかける。光球が膨れ上がり、炸裂し、閃光が空間を埋め尽くす。常人なら肉片すら残らぬ連撃だった。


 だがジークは、わずかに指を一本立てただけだった。


「まずは話をしようじゃないか」


 その言葉を無視するかのように、さらに光が叩き込まれる。だが彼は小さくため息をつき、指を鳴らした。


 乾いた音が、不自然なほどはっきりと戦場に響く。


 次の瞬間。


 数名の民が、何の前触れもなく崩れ落ちた。


 膝から崩れ、目を見開いたまま、息を吸うことすら許されなかったように。直前まで泣き叫んでいた子供の声が、喉の奥で詰まり、代わりに、母親の悲鳴が天井へ突き刺さる。


 攻撃が止まる。


「……今、なにをした?」


 エルウィンの声は低く、だが震えている。怒りというより、理解不能への恐怖が混ざる震えだった。


 クレセントは歯を食いしばる。


「人質のつもりだろう。あまりにも罪深い男だ」


 泣き叫ぶ子供の声が響いた。親の身体にしがみつき、揺さぶり続けている。「起きて」「お願い」「嘘だ」――その言葉の一つひとつが、ここが祈りの場であったことを残酷に思い出させる。


「やめろ!!」


 グレンが叫ぶ。


「エルウィン! クレセントも!! 止まれ!!」


 だが二人の目は、もう聞く耳を持たない。ジークの指鳴らし一つで命が落ちた。ならば、話など成立しない。そう言わんばかりに、剣と拳の光が再び強くなる。


 グレンは、民を背に庇ったまま、ジークへ向けて吠えた。


「おまえは!! 一体なにがしたい!? なぜ来た!? なにが目的だ!!」


 ジークは、あまりにも短く答える。


「最初から言っているだろう。救いに来た」


「救い? だれから何をだ!?」


「魔女から。君たち全員をに決まっている」


 グレンは怒鳴り返す。


「なら、それこそ意味がない! 我らは魔女とは完全に敵だ! そして魔女など……ここにはいない!!」


 ジークは首を傾げる。真剣に理解できない人を見る目だった。


「だから浅いといっている」


「浅い……?」


 グレンのこめかみに血管が浮く。


「ふざけるな!! おまえのその行動が一番浅い!! 救いでもなんでもない!! 馬鹿なのか!?」


 ジークは静かに言葉を重ねる。


「おまえ達は魔女を知らなすぎる。必ず、おまえ達の中にも――いや、世界中のどこにでも、魔女になる可能性を持っている」


 エルウィンが嘲笑うように口を開いた。


「おまえこそ我らを知らなすぎる。我らは魔女を見つければ即殺せと命を受けている。そしてそれを全うしているのだぞ?」


 ジークは、残念そうに息を吐く。


「残念だが、その命令はまったく意味をなしてない」


「おまえ達に魔女が混ざらない証明にも、証拠にもならない」


 そして、まるで諭すように、だがどこか命令の形で言う。


「怖がるな。私の言っている意味は、必ずおまえ達も理解する」


「だから、おとなしく救われろ」


「でないと――私は、おまえ達を楽に、救うことができなくなる」


 グレンは乾いた笑いを漏らす。


「ハハハ……やはり……話が通じない」


 クレセントは血を吐くように言う。


「グレン、わかっているだろ。すでにたくさんの民がやつの手にかかる。長引かせればそれだけやつの思うつぼだ!」


 次の瞬間、地面から光が噴き上がる。


 上へ、上へ。


 足場のように、槍がジークに突き刺さる。だがそれは拘束ではない。むしろ――押し上げる祭壇のように、光が彼の体を空へ差し上げる。


 ジークは、その光の中で、笑いもしない。ただ一言。


「そうか。なら……痛みを知れ」


 そして。


 続々と人々が、どんどん死んでいく。


 何の前触れもなく。


 戦いの衝撃で死んだのではない。瓦礫に潰されたのでもない。まるで、命の紐を引き抜かれたかのように、身体が崩れ落ちていく。親が倒れ、子が泣き、子が倒れ、誰かが祈り、祈った者が倒れる。


 グレンがぶち切れる。


「やめろ!!! これ以上は!!」


 クレセントは容赦なく、突き刺さった槍を握り、上空へ投げる。音が激しく伸び、一直線に空気を切り裂く。


 だがジークは、飛ばされながら槍を握り、そのまま――自分の体を貫通させ、貫き通した。


 血が空へ散る。


 常識なら致命傷だ。だが、彼は落ちない。落ちるはずの首は、先ほど落ちていた。ならば、今見えているのは――死を拒む異常そのもの。


 クレセントが息を飲む。


「……抜けた……か」


 エルウィンが前へ出た。


「任せろ」


 下から激しく光の球体を膨らませ、さらに押し上げる。光球は巨大になり、上空へ押し流されるジークを飲み込む。あの光は、聖国の裁きだ。触れたものは存在すら浄化される――はずだった。


 ジークは、それを全身で受けながら、さらに上へ上へと押し流される。


 そして、ついに。


 彼は本気を見せるように、光の球を――叩きつけ、弾いた。


 ゆっくりと、おびただしい血を流しながら地上へ降ってくるジーク。


 弾かれた光玉は、エルウィンとクレセントへめがけて落ちる。


 エルウィンは新たに光の壁を作り、刻印を刻む。大きなバリアが全体を包み、破裂の余波を受け止める。クレセントは巨大な光槍を複製し、上空へ吹き飛ばす。光槍が光玉に触れた瞬間、破裂はさらに強くなり、閃光が空を埋め尽くす。


 爆風が地上にも上空にも圧倒的な余波を生む。


 地上はエルウィンのバリアにより、その余波を弾く。だが上空――ジークは、その余波を刀で切り裂きながら、地上へまっすぐ向かう。まるで風を裂く鳥のように。


 グレンは歯を噛みしめた。


「不老なだけじゃない……あいつは……本気でやれば……強い……」


 クレセントは再び光槍を放ちまくる。それを弾きながら、ジークは刀を振り回す。光槍と刀が触れるたび、音が遅れてくるほどの光の火花が弾ける。空間が裂けたような衝撃が、聖堂の柱を揺らす。


 そして。


 すべてを弾き、確実にクレセントへめがけて――巨大な一太刀を浴びせる。


 クレセントは光槍ではなく、実物の槍を掴み、それで大きく弾くように振りかぶる。エルウィンもバリアを解き、合わせて剣を振り払う。グレンは民を巻き込まないように、飛び火ならぬ飛び光を防ぐように立ち回り、瓦礫を蹴って盾にし、倒れた者を引きずって壁の影へ押し込む。


 接触。


 光がその場を飲み込む。


 そして静まり返ると――


 そこには、クレセントの腕が槍ごと吹き飛び。


 ジークの首は、エルウィンが切り飛ばしていた。


 血が床に落ちる。ゴトリと転がる首。だがそれは、勝利の証ではない。


 クレセントは呻く。


「ぐぅぅ……」


 エルウィンは歯を食いしばりながら叫ぶ。


「クレセント!! すぐに直す!!」


 治療が始まる。光が傷口を包み、筋と骨が再生し始める。だが疲弊と切断された腕の余韻が残り、手に力が入らない。槍を握る指が震え、血がまだ止まりきらない。


 その光景を――高揚したように見ている者がいた。


 クルシア。


 彼女は戦っていない。だが目を輝かせ、戦いの「美」を見ている。恐怖ではなく、興奮が肩を震わせていた。


「……面白い」


 そして真逆の瞳で見ている者がいる。


 ティルシー。


 驚愕と困惑。顔色は青く、唇が震えている。


「……あの人、本気で怒ってる」


 彼女はまだ戦っていない。だが理解していた。空気が変わったことを。何かが――この場の常識を塗り替え始めていることを。


 グレンは理解する。


 この戦場そのものが、あまりにも絶望的であることを。


 そして遠くから、その余波を感じ取る魂がいた。


「アハ……アハハハ……やってるわぁ」


 アルティナ。


 彼女は近づこうとした――その瞬間。


 自身の魂を、高速ですり抜けていく何かを感じた。


 アルティナは笑みを消す。


「……は……?」


「あいつは……!!」


 その瞬間。


 首を落とされたはずのジークが、すぐに元の体に戻る。首が繋がり、血が止まり、肉が閉じる。その回復は治療ではない。もはや「巻き戻し」に近い。


 ジークは微笑みを見せる。


「よく頑張った。だから救ってやろう」


 そうして再び追撃が決まるはずだった。


 グレンもニトの杖を握り、魔法を準備した。彼の中で、覚悟が固まっていく。もう躊躇はできない。民を守るための聖国の誇りは、今ここで折れるわけにはいかない。


 ――だが。


 それらすべてを軽く吹き飛ばすほどの衝撃が。


 あまりにも桁違いな衝撃が。


 ジークを蹴り飛ばした。


 壁を貫き、柱を割り、瓦礫を撒き散らし、ジークの体が吹き飛んでいく。受け身も、踏ん張りも利かない。ただ「否定」される力。


 炎をまとった男が一言。


「なにやってんだてめぇらぁぁぁ!!?」


 ガイル。


 その名は、聖国にとって恐怖の象徴であるはずだった。本来、魔王である。決して味方とは言い切れない。むしろ、敵であるはずの存在。


 だが今。


 グレンは声にならない声を漏らす。


「ガ……ガイル……!?」


 エルウィンは剣を構えたまま、息を呑む。


「こいつが……」


 クレセントも、腕を治しながら呟く。


「とんでもないやつだ……」


 ジーク自身も理解できない。踏ん張りもなにも利かない。あまりの威力に、ものすごい速度で壁を貫通させながら吹き飛ぶのだった。


 そして。


 瓦礫の中、炎をまとった男がゆっくりと前へ出る。


 ガイルだった。


「……説明しろ」


 低い声。


 怒鳴っているのに、妙に冷静だ。怒りが燃え盛るほど、口調は冷える。火が強いほど芯が静まる――そういう男だった。


「だれだ?」


 倒れ伏す民を見る。


「だれが、こんなに殺した?」


 そして、抑えきれずに吠える。


「誰だぁあああ!!」


 聖国の空気が震え、石畳に亀裂が走る。炎が揺れ、空間が圧される。恐怖が圧力になって押し寄せる。


 グレンが前へ出る。


「……ガイル」


 息を整え、指さす。


「貴様が先ほど蹴り飛ばした……あの男の仕業だ」


 ガイルは眉をひそめる。


「は?」


 一拍。


「……だれだよ」


 その言葉に、その場の誰もが一瞬戸惑う。


「ぁあ!? ぁあ!? 誰だぁぁあいつ!」


 続けてガイルが怒鳴り、グレンが思わず固まる。


「……わからないで蹴ったのか……?」


「てめぇが戦ってたからなぁ……」


 ガイルは苛立ちを吐き捨てるように言った。戦っていたからこそ、敵も味方も区別がつかなかった――そんな言い訳をする男ではない。だが今は、その程度の理屈ですら口から出た。


 グレンはぽかんとしていた。


 みんなが命を賭して覚悟を決めていた。聖国の騎士である彼らは、民を守るために死ぬ覚悟だった。だが、その覚悟を踏み越えて、戦場に割り込んできた存在がいる。


 本来魔王であるガイル。


 そして決して味方とは言い切れない。


 だが、いまでこそ、もっとも可能性があり、もっとも救いである男。


 まったくの予想外に、みんなが困惑する。


 そしてジーク本人も――


 気付かなかった。


 一体なにを……魂が震える。


 あれは、時間をかければ勝てるとか、そんな範疇を超えていた。思想でも術式でもなく、純粋な「格」で叩き落とされた。


 だが人々の死を見て、怒り狂う男が目の前にいる。


 エルウィンとクレセントは戦闘態勢を解かない。グレンは民を背にかばう。少し離れた場所で――クルシアは目を輝かせてその一部始終を見ている。ティルシーは真逆だ。驚愕と困惑。戦ってはいない。だが二人とも理解している。空気が変わった。


 衝突の直前。


 聖国の空が裂けるように唸った。


 だが――


 ガイルは拳を振り抜かなかった。


 ゆっくりと、手を人々へ向ける。


「……ちっ」


 空気が歪む。


 次の瞬間。


 人々の体内に混ざっていた魔力の粒子が、一斉に引き剥がされた。


 霧のように浮かび上がり、炎に巻き込まれ、掻き消える。


 悲鳴は、起きない。


 誰も爆ぜない。


 誰も死なない。


 ジークの目がわずかに細まる。


「……ほう」


 ガイルは鼻で笑う。


「吸魔だ」


「魔力を使ってる時点で、抜けねぇわけねぇだろ」


 指先で残滓を弾く。パチン、と小さな音。完全に消える。


 ジークは静かに言う。


「厄介なやつだな。おまえも……」


 ガイルは肩を鳴らす。


「ハッ」


「魔力の扱い方がてめぇはヘタクソすぎんだよ」


 グレンが息を呑む。


(……こんな簡単に……?)


 あれほど防げなかった術式。あれほど脅威だった粒子。それを魔王は一瞬で無力化した。


 ガイルは振り返らないまま言う。


「つーかよぉ」


 ジークを睨む。


「“救う”の使い方、間違えてんだろ?」


 炎が静かに揺れる。


「救うってのはな」


「生かすから救うんだろうがよぉ!!」


 その言葉に、聖国の騎士たちが息を止める。


 ジークの目が冷える。


「生かすことは、救いじゃない」


 即答だった。


「いずれ堕ちる芽を持つ者を生かすことは」


「いずれ、より多くを苦しめる」


「だから摘む」


「いま摘む」


「それが救いだ」


 ガイルは笑う。怒りでもなく、嘲笑でもない。呆れた笑い。


「芽?」


 一歩、踏み出す。空気が沈む。


「芽が出るかも知れねぇから燃やす?」


「だったらこの世界、もう灰だろうが」


 炎が轟く。


「可能性で命を決めるな」


「未来を決めるのは、そいつ自身だ」


 ジークの瞳が揺らぐ。ほんのわずかに。


「……甘い」


「甘さは滅びを呼ぶ」


「魔族も例外ではない」


 その瞬間。


 ガイルの炎が、音を立てて爆ぜた。


「言っとくがな」


 目が細くなる。


「魔族に手ぇ出した瞬間」


「俺がてめぇを消す」


 言葉に飾りはない。ただの事実の宣告。


 ジークは初めて一歩引いた。ほんのわずかに。


 魂が、再び震える。


(これは……思想では止まらない)


 戦いは次の段階へ入る。


 聖国の空気が、重く沈んだ。


 そして――


 その乱入を、上空から見ている魂があった。


 アルティナと、エルディナ。


 エルディナは、もはや戦いを見ていない。見ているのは姉の魂が震えていること。


「ジーク……逃げて……だめ……!!」


「ここにいたら……!」


 アルティナはエルディナを一瞥し、視線を地上へ落とした。冷静に、その場にいる“女性”を見る。判断が速い。獲物を見つける速度だ。


(ダルクがいる)


 あの女にはダルク。


 そして、その隣。そっくりな容姿を持つ黒髪ロングの女――ティルシー。


 アルティナは笑う。


 容赦なく、ティルシーの体に魂が飛び込んでいく。


「だ!!だめ!!ジークー!!」


 エルディナの叫びは届かない。


 侵食。上書き。奪取。


 ティルシーの名前も、存在も奪われる。


 ゆっくりと目が開く。そこにいるのは、もうティルシーではない。アルティナとして再び現れる。


 その異変に、いち早く気付くのはクルシアだ。


 身体が震える。誰かもわからない。でも今、妹の体は完全に別の誰かになった。それだけは明確にわかる。


「ティルシー……?」


 アルティナは体を試す。左腕が動かない。ディアブロに魂を削った代償。自由の利かない肉体。だがそれでも十分だと笑う。


 短く。


「ダルク」


「貴女も私の敵になるつもり?」


 クルシアは混乱する。


「ダルク……?あなた!!だれ!?」


「ダルクってだれのことよ!!」


 アルティナはすぐにエルディナの魂へ目を向ける。


「エルディナ。貴女にも話があるから」


 エルディナは逃げようとした。だがアルティナの権能――支配により、魂がまたたくまに絡め捕られる。


「アルティナお姉さま!!まって!?私は!!私は!!」


「あとでっていったわよね」


 短い。冷たい。


 そして、その場にある魂をまたたくまに支配し始める。


 アルティナは笑う。


「アハハ……この体なら……十分……」


 そうして召喚されるように現れたのは、ハルバルト。


 さらに、魔物達の姿が大量に現れる。魂の兵。死者の残滓。支配され、再生を繰り返す不死の群れ。


 ジークは叫ぶ。


「だからいった!!やはり私は間違えていない!!」


 ティルシーの体――アルティナへ向けて全力で飛び向かう。


 ガイルは、その腕を掴んで止めた。


「てめぇも……ムカつくがよ」


「アルティナをここで殺すのが一番無駄だ!!」


 そして吸魔。ジークの魔力を吸い込む。


 グレンは叫ぶ。


「ハルバルト……!?おまえ!!」


 エルウィンも混乱する。


「ティルシー!!?おまえがやったのか!?おまえは……!?なんなんだ!!」


 クレセントは低く言う。


「クルシア、説明しろ。おまえたち姉妹は……魔女なのか!?」


 クルシアは首を振る。


「知らない。知らないわよ!?私は魔女なんかじゃ!!」


 アルティナは微笑む。


「貴女は魔女よ。私のかわいい妹の一人」


「ねぇ、ダルク。あなたのお姉ちゃん――ウルティアは消されたわ。仇をとりなさい?」


 クルシアの魂が激しく動揺する。知らない。ウルティアなんて知らない。目の前のアルティナもしらない。だが拒絶できないざわめきが、胸の奥にある。


 支配された魔物やハルバルトは一直線にガイルのもとへ向かう。激しい殺意をもって。


 ガイルは舌打ちする。


「ったく!!おまえの狙いは俺だよな!?」


「アルティナぁぁぁあ!!」


 強力な魔力で群れを吹き飛ばす。だがすぐ再生され、再び押し寄せる。終わりがない。


 グレンが叫ぶ。


「ガイル待て!!ハルバルトは!ハルバルトなんだろ!?ハルバルト!!返事を!!」


 ハルバルトは爽やかな顔で答える。


「邪魔をしないでくれ」


 ガイルは大声で言い返す。


「そいつはハルバルトってやつでもなんでもねぇ!!」


「アルティナに支配された魂だ!!」


「本物なんかいねぇ!!」


 グレンは揺らぐ。


「そ……そんなことをいわれても……!」


 ジークは笑う。


「だから、おまえ達は浅い。魔女などいないだと?」


「すぐ側にいたではないか」


 ガイルは苛立ちを叩きつけるように叫ぶ。


「うるせぇ!!てめぇ!!」


 ジークをまたたくまに地面に押さえつける。衝撃で石畳が割れ、粉塵が舞う。


 戦場は完全に、三つ巴へと変わった。


 ガイルは叫ぶ。


「こいつもアルティナも俺が全部どうにかするから!!」


「邪魔だ!てめぇらはさっさとそいつらを連れてどっかいけ!」


 グレンはハルバルトを抑える。ハルバルトの殺意は完全にガイルへ向いている。返事はない。笑みを浮かべてただただガイルへ向かう。


 つまり――アルティナの殺意は完全にガイルへ向いている証拠。


 ジークは叫ぶ。


「はなせ!あの女をころせば!!そやつらは解放される!」


 ガイルは唸る。


「うるせぇぞてめぇ!!」


「てめぇも放置できねぇだろ!」


 押し寄せる魔物だったものが一斉に仕掛けてくる。


 クルシアは吐き捨てる。


「こんなの……美しくない!戦いを汚さないで!!」


 そしてティルシーへ剣を向ける。


 エルウィンが叫ぶ。


「まて!クルシア!!おまえのティルシーだ!妹だぞ!」


 クレセントは、ガイルへ向かう魔物たちを止めるために加勢に向かう。槍が閃き、光が裂ける。


 クルシアは首を振る。


「違う。妹じゃない!!私はわかる!」


 アルティナは笑う。


「そう。貴女も敵に、人を選ぶのね」


「なら、死になさい」


 容赦なく反撃が放たれる。


 クルシアは歯を食いしばり、押し寄せる攻撃を剣ではじく。


「私は戦いを見るのが好きよ。でも勘違いしないでくれる?」


「私だってパラディンの一人!」


 グレンは、わけがわからないまま叫ぶ。


「一体どうしたら……!」


 ハルバルトを必死に抑えつけながら、必死に言い聞かせる。


「ハルバルト……間違えるな。おまえだけは……間違えるな!帰ってくるのだ!!」


 ガイルとジークが同時に叫ぶ。


「だからそれは偽物だといってるだろ!!」


「そやつはもうおまえの知るものじゃない!これが魔女だ!!」


 ガイルは理解する。魔女は「殺して終わる」存在ではない。魂を奪い、混ぜ、上書きし、世界のどこにでも芽を残す――厄介の極み。


 ジークに語りかける。


「てめぇを解放してやる。だけどあの女は殺すな!」


「俺があいつを生かしたまま連れ帰る。そして消してやる」


「だからてめぇはもう何もすんな!」


「てめぇは魔女を消したいんだろ!?」


 ジークは怒り狂う。


「ふざけるな!!魔女は消えぬ!」


「全員を救うなら全員を殺すしかない!」


 ガイルは押し寄せる魂の群れを蹴散らしながら、アルティナへ向かう。


 ジークは叫ぶ。


「きさまぁぁ話をきけぇぇ!」


 ガイルは吐き捨てる。


「てめぇはやっぱ邪魔だ。どこか遠くへ行ってろ」


 掴みかかろうとするジークを逆につかんで止め、そのまま上空へ、ものすごい力でぶん投げる。


「き……きさまぁぁぁ!!絶対に許さん!!」


「だれがだれを許すだぁぁ!!」


 ガイルは再びアルティナへ向かう。


 アルティナは召喚したものを盾に、ガイルの攻撃を止める。


「私もあの男に用があるの」


「だからまずは貴方も死になさい」


 みるみるとガイルの周りを、おびただしい数の魂の群れがまとわりつく。


「くそが!!きりがねぇ!!」


 クレセントがそこを槍で切り開きながら叫ぶ。


「貴様に協力などするつもりはない!」


「だが今は我らを使え!!」


 エルウィンはクルシアを守るように戦う。


「クルシア!!落ち着け!いつものおまえじゃない!」


 クルシアの涙が零れる。


「いつものわたしよ!!でも!あれは……ティルシーはもう……!」


 エルウィンは歯を食いしばる。


「やはりクルシアはクルシアだ。戦いが少し好きなだけ。魔女ではない!」


 アルティナは笑う。


「ほんとに……バカしかいないわね」


 ガイルが群れを切り抜け、アルティナへ迫る。


 アルティナは左腕をかざそうとするが動かない。苛立ちが歯を軋ませる。


(もっと自由に動かせれば……!!)


(あんたは……ガイルは、あなただけでも命は貰うわ!)


 すべての魂をガイルへ向かわせる。


 グレンが叫ぶ。


「今だ!エルウィン!!その女を取り押さえろ!」


 エルウィンは飛び込み、ティルシーの体――アルティナを抑える。


「ティルシー……やめるんだ……」


 アルティナは涼しく言う。


「離してくれる??」


 そして――


 ドスッ。


 アルティナの体を。ティルシーの体を。剣が突き抜ける。


 クルシアが刺した。


「貴女だけは許さない……」


「ティルシーから出ていって!!」


 アルティナは笑う。


「馬鹿ね。私は死んでも、死なないのに」


 ガイルが怒鳴る。


「よせ!!殺すな!」


 魂の勢いが落ちる。支配の糸が一瞬緩む。


 ガイルは慌ててティルシーの治療をする。


「なにをしている!!」


 クレセントが叫ぶ。


 ガイルは噛みつくように言う。


「こいつは生かしたままじゃねぇと消せねぇ!!」


「殺せねぇ!!邪魔をすんな!!」


 クルシアは止まらない。


「貴方が邪魔をしてるのよ!!」


 再び剣を突き刺そうとする。


 ガイルがそれを庇う。刃がガイルに突き刺さる。


「グァッ……いってぇな……」


 グレンは震える。


「なにを……しているんだ……」


 ガイルは唸る。


「俺の話をきけ……」


「ジェーンも、アリスも……この事は知っている」


「だから俺に任せろ」


 グレンはその言葉で理解する。


「ジェーンとアリスに……なら……ピスティアも……」


 ガイルは短く。


「ぁあ。だから任せろよ」


 クルシアはなお止まらない。だがそれをエルウィンが抑える。


「クルシア!!とまれ!」


「離してよ!!離して!!」


 そして時間が経つころ。


 上空から、鋭く剣が振られ、貫く。


 クルシアの体に、刃が突き刺さった。


 ジークが上空から剣を投げたのだ。


 ジークは冷たく言う。


「その女も魔女だ。なら殺す。救う必要などない」


 エルウィンが怒鳴る。


「きさまぁぁぁぁ!!」


 エルウィンもクレセントもジークのもとへ飛びかかりに行く。


 アルティナは笑う。


「あははは……ほんとジーク、貴方は……役に立つわね」


 ガイルはアルティナから魔力を大量に吸い上げる。


「てめぇも口を開かせなくしてやるからよ」


「だから死ぬな」


「そして消してやるよ」


 アルティナは薄く笑う。


「そう……」


 ジークは執念で迫る。


「ガイル貴様もしねぇぇえ!!」


 エルウィンとクレセントの攻撃をもろに受けながらも、異常な執念でアルティナのもとへ向かう。魔女を殺す――その一点で、彼は壊れた機械のように動く。


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たくさんの方に読んでいただき、本当にありがとうございます。 完結済の長編です。レイズたちの物語をぜひ最初から。
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