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【悪役転生 レイズの過去を知る 】―俺だけが知る結末を、今度こそ覆す―  作者: くりょ
新たな始まり

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ジークの好奇心。中立の魔女

そして――


 ついに、対面してしまう。


 グレンとハルバルドは、視線が交差した瞬間に理解した。


 この男は――


 放置してはいけない。


 視界の先に立つ存在。


 数多の命を終わらせてきた者。


 だがそれは敵とも味方とも断定できない。


 こちらを見て、微笑む。


 その笑みには光がない。


 どこか救いようがないほどに“救い”を施す者の顔。


 救うために殺す。


 殺すからこそ救える。


 それを狂信した者。


 あまりにも危険。


「ハルバルド……」


 グレンの声は低い。


「貴方では、あれの相手にもなりません。下がってください」


「私でも……どこまで持つか未知数です」


 ハルバルドは静かに首を振る。


「冗談はよしてください」


「グレン様の命は、ニト様にとってあまりにも大切なもの」


「私は……所詮、帝国を裏切り、拾われただけの男」


「下がるなら、グレン様に」


「そして聖国を、法国を、必ず守ってください」


 グレンは、変わりすぎた男に思わず笑みを漏らす。


「そんなことを言うな……」


 本当に。


 だが。


 誰かが止めねばならない。


 この場でそれができるのは――


 自分か、法国のパラディンのみ。


「相手はすでに気付いています」


 ハルバルドが言う。


「ならばやることは一つ」


 知らせること。


 次の瞬間。


 ハルバルドは魔力を上空へ解き放つ。


 蒼い閃光が天を裂く。


 法国からも、聖国からも視認できる規模。


 救援の狼煙。


 グレンは呟く。


「本当に貴方は……」


「ニト様が受け入れた理由が、今ならわかります」


 ハルバルドは笑う。


「私はいまだにわかりませんがな!!」


 その瞬間。


 空気が消えた。


 いや、切り裂かれた。


 ジークが、消えたと思った次の瞬間には、目前。


 グレンの剣と、ジークの刀が火花を散らす。


「救ってやると言っているのに、愚かな」


 ジークは笑う。


 温度のない笑み。


「ふざけるな!!」


 グレンが叫ぶ。


「貴様から救われる者など、誰もいない!!」


「これだから魔女を理解しない者は……浅い」


 激突。


 空気が裂ける。


 ハルバルドが横から槍を突き出す。


 だが。


 ジークは素手でそれを掴む。


 刃が掌を裂く。


 血が飛ぶ。


 それでも離さない。


「きさま……痛みを感じないのか……?」


「痛み?」


 ジークは笑う。


「誰よりも感じたさ」


「それに比べれば、これはかすり傷だ」


 槍を引き寄せ、蹴り飛ばす。


「ハルバルド!!」


 グレンが叫ぶ。


 だがジークは、グレンの剣先すら素手で握る。


 血が滴る。


 それでも容赦なく振り下ろす。


 グレンは剣を手放し、風を詠唱。


 後方へ跳ぶ。


「……少しだけ強いな、貴様」


「おまえも少しだけ強いな」


 ジークは笑う。


 握っていた槍と剣を引き抜く。


 傷が、塞がる。


 瞬時に。


「なるほど……不死身か?」


「不死身?」


 ジークは首を傾げる。


「死ぬことなどいくらでもできるさ」


 ハルバルドが再び斬りかかる。


 避けない。


 受ける。


 そして腕を掴む。


「だから、ちゃんと痛い。」


 引き寄せる。


 刀が腹部を貫く。


 鈍い音。


「やめろ!!」


 グレンの叫び。


「やめるんだ!!」


「怖がるな」


 ジークは囁く。


「死は救いだぞ?」


 ハルバルドの血が流れる。


 だが瞳は、澄んでいる。


「……死は……救いではない」


「おまえは……私と同じだ」


「間違えている」


 ジークの瞳が、僅かに揺れる。


「間違えたのは、おまえだけだ」


 刃が抜かれる。


 そして、縦に振り下ろされる。


 肉が裂ける音。


 重いものが崩れる。


 ハルバルド。


 帝国王族、長男。


 ルイスの兄。


 ピスティアの兄。


 エルビスの兄。


 誤った自分を背負い続けた男。


 それでも前を向いた男。


 その命は、ここで尽きた。


 グレンの視界が赤く染まる。


 狼煙は上がった。


 だが、間に合わない。


 ジークは血を払う。


「救えなかったな」


 その声音に、怒りはない。


 ただ、確信のみ。


 救済という名の暴力。


 神話の奪い合いは、


 さらに深く、血を求め始めた。



ハルバルドぉぉおおおおおおおおッッ!!!


グレンの喉が裂けるほどの絶叫が、大気を震わせた。


次の瞬間、怒りのままに踏み込み、ジークの胸元へ渾身の蹴りを叩き込む。


骨を砕くはずの衝撃。


空気が爆ぜ、地面が抉れる。


だが――


ジークはそれを避けもせず、正面から受け止めた。


身体がわずかに後方へ滑る。


砂煙が上がる。


それだけだ。


そして、笑う。


「さぁ、別れの時だ」


声は静かだった。


穏やかですらある。


「言葉をかけてやれ」


「その言葉を、俺は理解してやる」


「理解したうえで、救ってやる」


「きさまぁぁぁッ!!!」


グレンは怒りに震えながらも、すぐにハルバルドの元へ膝をつく。


血が溢れている。


腹部を貫いた刃の傷は深く、縦に裂けた肉はすでに色を失い始めている。


即座に治癒魔法を展開する。


聖光が傷口を包む。


だが。


グレンは理解する。


――これは戻らない。


魔力では追いつかない。


「ハルバルド!!」


「しっかりしろ!!」


ハルバルドの視線が、かすかに動く。


「……グレン、様……」


声は、か細い。


「おまえは間違ってなんかいない!!」


「おまえは理解した者だ!!」


「だからこうして!!ニト様もおまえを――」


ハルバルドは、薄く笑った。


その笑みは、どこか安堵に似ていた。


「……ピスティーに……」


「謝って……ほしい……」


グレンの胸が締め付けられる。


「私が……間違えたから……」


「巻き込んで……しまって……」


「すまなかった……と……」


「そんなこと――」


言い切る前に。


ハルバルドの指先から力が抜けた。


瞳の焦点が、ゆっくりと消えていく。


そして、完全に静止した。


グレンは歯を食いしばる。


理解する。


ハルバルドの抱えていた孤独を。


自分の判断で妹を帝国から遠ざけたという悔恨を。


だが、彼は知らない。


ピスティアはすでに帝国に受け入れられている。


ルイスに。


家族として。


兄と再び食卓を囲めると、本気で信じていたことを。


「……おまえは、間違ってなんかいなかった」


グレンの声は震えている。


「おまえは……必要だった」


「誰が謝るものか」


「ピスティアは……おまえを恨んでなんかいなかった」


ハルバルドの剣を握る。


血で濡れた柄を、強く。


「だから……俺は」


「絶対に無駄にしない」


「おまえは……聖国の大切な仲間だ」


背後で、乾いた笑い声が響く。


「聖国……?」


ジークが、ゆっくりと首を傾げる。


「そんな大層な名を名乗るとはな」


「魔女を放置し」


「魔女を殲滅しなかった貴様らが?」


「正しさなど、欠片もないというのに」


グレンの目が細くなる。


「魔女……だと?」


「貴様と対話するのも無駄だ」


「救うと言うなら――」


「私が貴様を殺して救ってやろう」


怒りが、限界を越える。


無言。


一瞬で間合いを詰める。


全魔力を込めた一振り。


大地ごと断つ斬撃。


だが。


「はぁ……だから浅い」


ジークは片手で受け止める。


刃が止まる。


その瞬間。


グレンの姿は消えていた。


上空。


太陽と重なり、逆光の中で剣を振りかぶる。


「断罪」


光の一太刀。


ジークの首が宙を舞う。


だが。


身体は止まらない。


首を失ったまま、刀を振り下ろす。


「これが不死身でないなど……ありえない」


グレンは受け止める。


衝撃。


火花。


そして首のない体と激しく打ち合う。


「ならば……次は心臓だ」


胸へ突き刺す。


深く。


貫通。


だが止まらない。


冷たい。


鼓動がない。


その体が、グレンを抱き締める。


そして。


爆ぜる。


至近距離の魔力爆発。


グレンは咄嗟に魔力障壁を展開。


だが鎧は砕け、両腕は焼け、骨が軋む。


膝をつきかける。


だが。


立つ。


目に諦めはない。


肉片が、ゆっくりと集まり始める。


再生。


完全に。


ジークが笑う。


「痛いだろ」


「大切な仲間が死ぬことは」


「大切な家族を自ら殺すことは」


ゆっくり、確実に詰め寄る。


だがグレンは絶望しない。


なぜなら。


届いている。


ハルバルドの最後の魔力。


知らせの一撃が。


空が震える。


無数の小柄なホーリードラゴンが一斉に集結する。


光の軍勢。


その背にまたがる法国の精鋭。


ドラゴンパラディン達。


光が降り注ぐ。


ジークの身体を何十、何百と貫く。


裂き、抉り、焼く。


消えない光。


そして。


一人の男がゆっくりと降り立つ。


赤と黄色が混じる髪。


黄色の瞳。


エルウィン。


「グレン……久しいな」


視線が、ハルバルドへ。


そしてジークへ。


「エルウィン……あいつは、それじゃ死なない」


「ああ、わかっている」


剣を上空へ掲げる。


振り下ろす。


追撃の光槍の雨。


ジークの身体が無数に裂ける。


動かなくなる。


「グレン。治療を」


「ジェーンはどうした」


「ニト様に会いに行っています」


「その男は」


「ニト様が……選んだ……ハルバルドだ」


沈黙。


「選ばれた者を殺したのか」


「……そうだ」


エルウィンは動かなくなった肉塊へ、さらに剣を突き立てる。


執拗に。


無残になるまで。


「完全に終わった」


「ハルバルドを連れ帰れるか」


グレンは答えない。


視線はジークの亡骸から離れない。


復活する。


その予感が消えない。


「任せろ」


「光の拘束もかけた」


「連れていけ」


グレンは静かにハルバルドを抱き上げる。


去る。


だがエルウィンは止まらない。


「滅する。絶対に」


そこへ降り立つ影。


クルシア。


「もう終わってますよ?」


微笑む。


だがその笑みは、どこか遅れている。


表情筋が、ほんの僅かにずれる。


「久しぶりの戦いだったのに、残念ね」


「これは戦いなどではない!!!」


「戦いはこれからよね?」


瞳が一瞬、縦に裂ける。


すぐに戻る。


「戦うから……みんな輝くのに」


声が、二重に重なる。


エルウィンは吐き捨てる。


「付き合いきれん」


やがて全員が去る。


静寂。


エルディナが遠くから見つめる。


理解している。


これでは死なない。


クルシアがダルクの依代であることも。


「ほんと……ダルクは相変わらず」


静寂。


肉片が動く。


集まる。


再構築。


ジークが立つ。


全裸で。


「はぁ……やはり殺せないではないか」


絶望はない。


怒りもない。


ただ。


「もしかしたら死ねる」


そんな期待と好奇心。


「だが……手数が多い」


「少し面倒な救いになりそうだな」


静かに呟くだけだった。

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たくさんの方に読んでいただき、本当にありがとうございます。 完結済の長編です。レイズたちの物語をぜひ最初から。
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