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【悪役転生 レイズの過去を知る 】―俺だけが知る結末を、今度こそ覆す―  作者: くりょ
新たな始まり

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魂を変える者。


ディアブロは、アビスの狭間へと立つ。


白い空間と、黒き深淵。

その境界は、膜のように薄く、だが決して易しくはない。


さすがのディアブロも、足を止める。


――ここから先は、別の理だ。


ゆっくりと、指先を伸ばす。

その指は針のように鋭く変質する。


薄い壁へと、刺し込む。


音はない。

だが、魂を擦るような感触が伝わる。


ゆっくりと削る。

少しずつ、少しずつ。


腕を差し入れる。


アビスの魔力が、絡みつく。

それは液体のようで、霧のようで、意志を持たぬ奔流。


ディアブロは、吸う。


ゆっくりと。

静かに。


「あの出涸らしは、まだ気付いていないな」


低く呟く。


ディアブロですら厄介すぎる存在。


それが“出涸らし”。


アビスに居座る神獣たちが、

決して外へ出ようとしない理由。


それが、あれだ。


あまりにも執拗。

あまりにも気持ちが悪い。


感情はない。

あるのは欲だけ。


魂を。

依代を。

存在を。


喰らい尽くし、自らのものとする亡霊。


神話の魔物がティグルの手であり口であるなら、


出涸らしは、アビスそのものの“境界”。


見張り。

欲張り。

奪い手。


ティグルと切り離されながらも、そこに存在を許された特異。


かつて完全なる魔女を目指し、

道を誤り、

吸収され、

排出された残骸。


それが出涸らし。


個性はない。

皆、人形のような形をしている。

長い髪を全身にまとい、

静かに獲物を探している。


見つければ、瞬時に襲う。


魔力ではない。

魂を喰らう。


ウルティアも、本来はそうなるはずだった。


だが、ならなかった。


それは選択の恩恵。

そしてレアリスの“許し”。


ディアブロは魔力をさらに吸う。


潰れていた臓器が再構築される。

裂けていた内部が整う。


魂の形が、整列する。


「さて」


指を抜く。


境界の膜がわずかに震える。


「突破するか」


戦うのではない。

捕捉される前に、奥へ潜る。


そのための一撃。


吸収した魔力を、一気に練り上げる。


ウルティアがいたときとは比較にならない濃度。


前方へ。


直線。


「――アビスクェイク」


轟音はない。

だが、世界が揺れた。


道が開く。


同時に。


“何か”が、迫る。


気付かれた。


ディアブロは、即座に魂体を変質させる。


細く。

軽く。

速度特化。


肉体という概念を削り落とし、

光線のように収束する。


背後で、髪の塊がうねる。


無数の人形が、こちらを向く。


だが遅い。


ディアブロは、その開いた裂け目を、

一直線に突き抜けた。


そして――


何事もなかったかのように、通過する。


出涸らしの群れは、ほんの一瞬遅れた。

裂け目はすでに閉じ、

ディアブロの気配は奥へと消えている。


「……やはり」


低く、笑う。


「俺一人であれば、逃げることなど造作もない…」


誰かを守る必要もない。

誰かを気遣う必要もない。


ただ、最適解だけを選び、最短距離を走る。


それが本来のディアブロだ。


その姿が、ゆらりと揺らぐ。


人の形をしていた肉体が、輪郭を崩し、

影のように溶ける。


「さて……俺、ではなく――」


一瞬の沈黙。


「我に、戻る…」


骨が軋む。

肉が再構築される。

魂の輪郭が変質する。


黒き魔獣。


それが本来の姿。


四肢は鋭く、

背には棘のような魔力の突起。

瞳は縦に裂け、深淵の赤を宿す。


人の言葉で語るならば――

“恐怖そのもの”。


だが。


ディアブロの真名は、

魔を喰らう魔物ではない。


魂を変換せし魔物。


それが本質。


喰らうのではない。

奪うのでもない。


“変える”。


魂の構造を、書き換える。


だからこそ、出涸らしとも異なる。

だからこそ、ティグルとも異なる。


異形へと完全に変じた姿は、

アビスに潜む魔物と何ら変わらない。


否――


それ以上だ。


なぜヒト型を選んでいたのか。


答えは単純。

怖がらせないため。


ディアブロなりの、配慮でしかない。


本来の姿は、人にとってあまりにも圧倒的で、

あまりにも拒絶本能を刺激する。


ウルティアの前で、

その姿を見せなかった理由。


それを彼女は知らない。


知らなくていい。


「……クク」


牙が覗く。


「さて。まずは、やつを食らうとする」


その視線の先。


巨大な気配。


神竜――ウロボロス。


かつて、ウルティアの前では

「倒せぬ」と言った存在。


あれは嘘ではない。


あの時のディアブロでは、

勝算は薄かった。


だが。


「今の我は、昔とは…古とは…違うぞ?」


胸が高鳴る。


アビスに帰還できたこと。

そして、

かつて自分を拒絶した世界へ、

再び立てたこと。


アビスの魔物たち。


過去であれば、

決して勝てなかった相手。


だが今は違う。


ガイルとの出会い。


あの男の異質な魂。


混ざらず、

侵されず、

しかし確実に影響を与える存在。


ディアブロは、変わった。


本来、孤独で、

ただ捕食と進化のみを選ぶ存在。


だが今は違う。


守るという概念を知った。

選ぶという概念を知った。


そして。


帰るという概念を知った。


「……クハ」


低く、喉を鳴らす。


ウロボロスの気配が、こちらを捉える。


巨大な影が、蠢く。


円環の竜。

始まりも終わりもない存在。


だが。


「貴様からまずは…終わらせてやろう…」


魔力が膨れ上がる。


黒い奔流が、

アビスの闇と溶け合う。


ディアブロは、一歩踏み出した。


その一歩で、

アビスの重力が歪む。


捕食者が、牙を剥く。


それは復讐ではない。


それは証明。


今の我は、

古の我とは違うという証明。


そして――


ガイルと出会ったことで、

変わってしまった自分の、

その答えを確かめるために。


ディアブロもまた数段に成長を遂げたことを証明しに。


ここに神話の奪い合いが始まるのだった。



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たくさんの方に読んでいただき、本当にありがとうございます。 完結済の長編です。レイズたちの物語をぜひ最初から。
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