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【悪役転生 レイズの過去を知る 】―俺だけが知る結末を、今度こそ覆す―  作者: くりょ
新たな始まり

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選んでからが始まり

ウルティアは、白い空間を歩き出した。


 先ほどまでの軽口は消え、表情はどこか神妙だ。

 何もない世界。

 上も下も境界もない、果ての見えない白。


 それでも、彼女は歩く。


 後ろから、軽い足音――いや、足音すらない気配がついてくる。


「……ねぇ」


 振り返らずに言う。


「どうしてついてくるのよ?」


 背後から、楽しげな声。


「だって君一人じゃ迷子になるでしょ?」


 ウルティアはぴたりと止まり、くるりと振り返る。


「ならないわよ!?」

「ちゃんと、目印だって決めて歩いてるわよ!」


 ニトは首を傾げた。


「目印って……あれが、かい?」


 その視線の先。


 白い空間の中に、一定間隔で置かれている“白い何か”。

 破片のようなものが、静かに散らばっている。


 だが、それは景色と同化しており、よほど注意しなければ見落としてしまう。


「そうよ」


 ウルティアは意地を張るように前へ出る。


「こうやって注意して、よく見れば――」


 しゃがみ込み、手で探るように空間を撫でる。

 指先に、わずかな感触。


「あったわ」


 小さな白い破片をつまみ上げる。


「ほら。こうして見つけていけば、ちゃんと――」


 次を探す。


 だが、ない。


「あれ……?」

「どこいったの……?」


 ニトがくすくすと笑う。


「ここらにあるのは、常に増えていく」

「そして減ってもいく」

「ゆっくりと、確実に消化されていくようにさ」


 ウルティアの手の中の破片は、いつの間にか薄くなっている。


「そんな小さな破片、少し時が経てばすぐになくなるよね?」


「わ、わかってたわよ!?」


「ほんとに何もわかってないんだねぇ」


 その瞬間。


 ニトの視線が、わずかに細まる。


 ウルティアの胸の奥に浮かんだ言葉を、先回りするように。


「“こんなの意味ないじゃない”って思ったでしょ?」


「ちょっと!!」

「それやめてよ!! 気色悪いから!」


 ニトは肩をすくめる。


「だって、君も散々やってたことでしょ?」

「僕のよりもずっと、深く見てきたじゃない」


 その言葉に、ウルティアはうつむいた。


 解読の魔女。


 他者の心を読み、思考を暴き、未来を推測し、選択肢を潰してきた。


 自分の意思で。

 自分の正義で。


 だが――


 読むという行為は、触れてほしくない場所に土足で踏み込むことを遥かに超えていたのだと、いまさら理解する。


「……そっか」


 小さく呟く。


「わたしも……同じことしてたのか」


「今さらでしょー?」


「ほんと!! いま反省してるんだから!!」


 ニトは笑う。


「うんうん。反省かぁ」

「でもそれは反省とは違う」


 ウルティアが睨む。


「なによ」


「気付きだよ」


 ニトは淡々と言う。


「気付きが増えれば増えるほど、君はより選択を進めることになる」

「それが“人になる”ってこと」


「その選択って……意味がよくわからないわよ」


 ウルティアは歩きながら言う。


「私は確かに、人としてここにあることを選んでるわよ」

「でも、それで終わりじゃないの?」


「人になる選択をしただけで、完全な人になったかは別の話じゃない?」


 ウルティアは息を呑む。


 この何もない空間。

 音も匂いも温度もない世界で、溢れてくるのは感情だけ。


 不安。

 焦燥。

 寂しさ。

 苛立ち。


 それが、自分の中に溶けていく。


「……人って、難しいのね」


「僕は人じゃないからわからないけどね」


「そうよ!? あなたはなんなのよ?」

「見た目は……人じゃない」


 ニトはやれやれと言わんばかりに息をつく。


「ほんと、レアリスのことを知っているなら」

「僕のこともちゃんと知るべきだね」


「レアリスは……」


 ウルティアの言葉が止まる。


「あ」


 ニトが笑う。


「だから言ったよね」

「無の神と混ざって、世界に在ることを選んだのがいまのレアリス」


「僕は逆に、世界に存在することができなくなった」


「まだなにも言ってないのに」


「君の心はすでに何度も僕に訪ねてきてるけど?」


「だから……読むのを一回やめてみたらいいじゃない」


 ニトは少しだけ、真面目な顔をする。


「それがそうもいかなくてね」

「僕のは、読む気がなくても勝手に読まれる」

「自分の意思とは関係ないからさ」


 ウルティアは、ふと別の記憶を思い出す。


「……そういえば」

「わたしが会ったレイズは……読めなかった」


 ニトの目が細まる。


「あの男は、一体何者なのよ」


 ニトは楽しそうに笑う。


「それを知るための旅でしょ?」


 ウルティアは周囲を見渡す。


「これのどこが旅なのよ……」


「旅は未知だから楽しいんでしょ?」


「未知だから……違うわ」

「あまりにも未知すぎると……不安しかない」


「それが“知らない”ことの当たり前なんだよ」

「人じゃなくても、みんなそうさ」


 ニトは軽く言う。


「よかったね。またひとつ理解できて」


 ウルティアはため息をついた。


「……それにしても、本当に見つかるの?」


「言ったよね」


 ニトはあっさり言う。


「ここには無いみたいだよ」


「つまり……いくら探しても意味ないってことじゃない!」


「そうだね」

「でも、探し続けることは、見つけるよりも得ることが多い」


 ウルティアは眉を寄せる。


「得るものって、なによ」


「これだけ早く変化が訪れている」

「幸先はとても良さそうさ」


「よくないわよ……ここにはだって……」


「魔王ガイル?」


 ニトは軽く言う。


「そりゃいないよ」


 ウルティアは唇を噛む。


「……わたしは、ガイルを探してるわけじゃない」


「知ってる」


 ニトは笑う。


「でも君は重大なことを見落としてない?」


「重大なことって……」


 ニトは、少しだけ声を落とした。


「ガイルの魂の“形”についてさ」


 ウルティアの足が止まる。


「……形?」


「君は解読の魔女だった」

「魂を視て、構造を理解してきたはずだ」


 ニトの声が、静かに響く。


「ガイルの魂は、単一じゃない」


 白い空間が、わずかに揺らいだ。


「混ざってる?」


「混ざってる、は正確じゃない」

「組み込まれている、のほうが近いかな」


「誰が」


「ディアブロ」


 ウルティアの瞳が見開かれる。


「でも、憑依じゃない」

「乗っ取りでもない」


 ニトは淡々と続ける。


「自然に、選ばれた形で、そこにある」


 ウルティアは、言葉を失う。


 ディアブロ。

 振り返らない背中。

 孤独を受け入れる強さ。


 ガイル。

 怒りを抱え、守るために壊れる男。


 似ている。


 だがそれは、性格だけではない。


「……魂が、選ばれている……?」


「そう」


 ニトは笑う。


「ガイルの強さは偶然じゃない」

「魂の構造が、異質なんだ」


 白い空間に、わずかな亀裂のような揺らぎが走る。


「そして君は」

「その形を理解しなければ、次の選択には進めない」


 ウルティアは、静かに目を閉じた。


 探しているものは、ここにはない。


 けれど。


 得ているものは、確かにある。


「……ほんと」

「人って、面倒くさいわね」


「面倒くさいから、面白いんでしょ?」


 ニトは軽く笑う。


 ウルティアは、ゆっくりと前を向いた。


 真っ白な世界。

 終わりのない空間。


 だが。


 いまは、少しだけ色が差して見えた。


「……続けるわよ」


「うん。迷子にならないようにね?」


「あなたがいる限り、迷子にはならないでしょ」


 ニトは、少しだけ驚いたように瞬きをする。


 そして、楽しそうに笑った。


「それ、ちゃんと“人っぽい”発言だよ」


 ウルティアは、少しだけ口元を緩める。


 旅はまだ終わらない。


 見つけるためではなく、

 理解するために。

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たくさんの方に読んでいただき、本当にありがとうございます。 完結済の長編です。レイズたちの物語をぜひ最初から。
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