【送り火】
庭の中央に、簡素だが丁寧に整えられた棺が置かれている。
その周りには、たくさんの花が添えられていた。
アリスが白い花をそっと置く。
レイナが震える手で小さな花束を置く。
クリアナも、少しだけ背伸びをしながら、ぎこちなく花を並べた。
三人とも、どこか悲しげな表情を浮かべている。
「……生きてるみたいなのに……」
レイナが小さく呟く。
確かにそうだった。
眠っているようにしか見えない。
ただ静かに、目を閉じているだけのようだ。
関わりなど、一切なかったはずの人物。
なのに。
胸の奥が、ひどくざわつく。
優しげな風が、庭をなびく。
花弁がふわりと揺れ、ノエルの髪をそっと撫でた。
ルルは、その光景をただ見つめていた。
わけがわからない。
けれど、この女性はきっと、ガイルにとって深い意味を持っている。
なぜなら――
ガイルの表情が、それを物語っているから。
いつも、どこか余裕があり。
いつも、どこか笑っていて。
何かあっても軽口を叩くはずの男。
その顔が、このときだけ。
ほんの少し、切なげだった。
ルルは、そんな顔を初めて見た。
(……ガイル……)
胸が、ぎゅっと締め付けられる。
いま、彼は何を思っているのだろう。
もし――
もし、ここに横たわっているのが自分だったら。
きっと、ガイルはこれどころではない。
あの軽さも、笑顔も、余裕も。
きっと全部壊れる。
それだけ、自分は大切にされている。
それは分かっている。
十分に理解している。
なのに。
この女性に向けるガイルのその表情が、
どうしても、どうしても耐えられなくて。
ルルの目から、涙がこぼれた。
まるで、自分が見送られているかのような。
そんな錯覚に襲われる。
レイズが、前へ出る。
努めて明るい声で。
「この子はな……すごく遠いところから、わざわざ会いに来てくれた」
皆の視線が集まる。
「すごく大変な旅だったはずだ」
レイズは、棺に手を添える。
「だから俺たちは、この子を労う」
「関係も、繋がりも、ないかもしれない」
「でも、この子はこうして俺たちに会えた」
一拍置く。
「それがきっと、この子の終わりで」
「そして、始まりになる」
ゆっくりと、棺の蓋が閉じられる。
音は、やけに重く響いた。
本来なら土葬が主流だ。
だがこれは、レイズの現代知識による送り方。
火葬。
「この子の魂はきっと、空にいる」
レイズは静かに言う。
「なら、肉体は空へ還す」
「本来の魂が、巡り会えるように」
火がくべられる。
ぱち、と小さな音がする。
やがて炎が上がり、
棺を包み込む。
ジェーンとアリスが、聖国流の祈りを捧げる。
それを見たレイナとクリアナも、
ぎこちなく真似をする。
ガイルは、目を逸らさない。
ただ、じっと火を見つめている。
祈りはしない。
ガイルは祈りを知らない。
クリスとイザベルはアルバード流に倣い、目線を落とす。
レイズも、静かにそれに倣う。
それぞれ違う流儀。
それぞれ違う祈り方。
だが、想いは同じ。
炎が高くなり、
煙が空へと伸びる。
ふわりと風が撫でる。
まるで。
――返してくれて、ありがとう。
そう言っているかのように。
リリィは、はっきりと見た。
小さな魂が、ふよふよと浮かび、
煙に混じって空へ溶けていくのを。
(……還れた)
アビスホールではない。
もっと穏やかな場所。
それがきっと、本来あるべき終わり。
それがきっと、魔女の終わりであるように。
だが。
魔女の終わりは、決してこのような穏やかなものではない。
それもまた、リリィは理解している。
一同は、静かに名も知らぬ少女を送り出した。
誰にも気づかれないまま。
ひとつの視線が、それを見ていた。
レイズの部屋。
窓際。
そこに座る白い獣。
レアと名付けられた存在。
白い毛並みは揺れず、
ただ、じっと炎の上がる方向を見ている。
瞬きもせず。
鳴きもせず。
ただ、見ている。
まるで――
その魂の行き先を、知っているかのように。




