すけべなことしてる!!
――そして、ついにアルバードへ帰還する。
長い道のりだった。
道中は、レイズの髪の話題でずいぶんと盛り上がった。
どうしても直らない逆立つ前髪。
クリスは覚醒だと言い張り、
ガイルはただの寝癖だと笑い、
ジェーンは半ば本気で研究対象にしようとしていた。
だが。
馬車の奥でガイルが抱えるノエルの姿を見るたび、
空気は静かに沈んでいった。
笑いはある。
けれど、完全には浮き上がれない。
そして、城門が見えた。
「わぁぁ……帰ってきたぁぁ!!」
馬車から飛び降りるレイナ。
それに続いてアリスも背伸びをするように降り立つ。
「長かったようで……あっというまだったなぁ……」
レイナの言葉は、子供らしい率直さで胸に沁みる。
ジェーンがふっと笑う。
「ほらアリス。出迎えが来てるよ」
屋敷の前に立つ一人の少女。
クリアナだった。
きちんとメイド服を着込み、
緊張した面持ちで頭を下げている。
「お、おかえりなさいませ……」
「きゃー!!クリアナかわいい!!」
アリスが抱きつく。
「なにそのお洋服!!」
クリアナは頬を赤らめる。
「仕事をしてたの……もうママが……怖かったんだから……」
そして視線がクリスを捉えた瞬間。
「パパ!!」
全力疾走。
飛びつく。
「おかえりなさいませえええ!!」
受け止めるクリスは一瞬動揺しながらも、
優しく抱き締める。
「クリアナ……ただいま戻りました」
レイズがぽつりと呟く。
「なぁ……メイドってあれでいいのか?」
イザベルがすかさず返す。
「メイドじゃないわよ。親子の再会なんだから多めに見なさいよ」
「まぁ……そうだよな」
そう言った直後だった。
「レイズくぅぅぅん!!」
ものすごい速度で突進してくる影。
「うおおお!?」
リアナだった。
勢いそのままに飛びつき、
レイズごと倒れ込む。
「おおうぉああ!?」
下敷きになるレイズ。
その上にまたがるリアナ。
顔をぐっと近づけ――
「ちょっと待ちなさい!!」
イザベルが即座に引き剥がす。
「レイナもいる前でやめなさい!!」
レイナは両手で顔を覆いながら、
指の隙間からしっかり見ている。
「ママ!!パパがすけべなことしてる!!」
「してねぇよ!!」
「ちがう!これにはわけが――」
リアノが小さく言う。
「……リアナの体を心配してくれたんですね……」
レイズは、はっとする。
「ああ。あんまり無茶するなよ」
そう言って、リアナの腹部を優しくさする。
それを見て、レイナが再び叫ぶ。
「ママ!!やっぱりすけべ!!」
「レイズ!!」
「だからちがうって!!」
リアナは涙目で笑う。
「だって!!すぐ帰ってくるって思ってたのにぃぃ……」
泣きじゃくる。
その空気が、少しだけ落ち着いたとき。
馬車の扉が開いた。
ガイルが、ノエルを抱えて降りる。
空気が変わる。
笑いが、止まる。
「悪ぃが、先にやることがある」
短い言葉。
ルルがゆっくりと歩み寄る。
ノエルを見た瞬間――
言葉を失った。
あまりにも、自分に似ている。
だが、分かる。
生気が、ない。
「……ガイル……?」
震える声。
ガイルは笑う。
「おお!ルル。待たせたな!!」
いつもの調子。
いつもの声音。
でも。
ルルの胸は、ずきずきと痛む。
レイズが静かに言う。
「みんな、この子を弔う。協力してくれ」
ジェーンがそっとルルの耳元で囁く。
「気にしなくていい。あれはガイルのせいじゃないからさ」
「……どういうことなんですか……?」
クリスが短く答える。
「魔女です」
「魔女の被害者なのですよ」
「……魔女?」
ルルにとって初めて聞く単語。
理解が追いつかない。
そして視線は、自然とリリィへ向く。
リリィは慌てて首を振る。
「その……魔女って言っても……ちがいます!!」
ルルの頭は、さらに混乱する。
魔女。
似ている顔。
死んでいる女性。
ガイルの笑顔。
何が起きているのか、分からない。
分からないまま。
アルバードの庭に、
静かな風が吹き抜けた。




