見つけられたのはまさかの自分。
ディアブロは、振り返らなかった。
混沌とした世界――アビスへと戻っていく背中は、
最後まで迷いがなかった。
そして、ウルティアは置いていかれた。
真っ白な世界に。
「……はぁ」
ため息が、響かない。
響くものが、ない。
ここにいたって……。
何も変わらない。
それでも、歩き出す。
ディアブロの言葉を信じて、
何かを探すように。
歩く。
歩く。
歩く。
だが、景色は変わらない。
視界は、どこまでいっても白。
地面も、空も、境界もない。
「ここに……なにかあるわけなんてないじゃない……」
呟く。
音は、吸われる。
いや――最初から存在していない。
無音。
風もない。
温度もない。
鼓動すら、曖昧。
当然だ。
魂が歩いているだけなのだから。
音を生む干渉も起きない。
反響もない。
完全な静寂。
それが続くと――
だんだんと、頭が揺らぐ。
「はははは……」
笑いがこぼれる。
「真っ白だぁぁ……」
くるりと回る。
「真っ白真っ白ー……!」
両手を広げて、歌い出す。
自由を手に入れた歓喜なのか。
それとも不安を押し殺した結果の崩壊か。
ただただ、何か音を出したかっただけか。
誰にもわからない。
「真っ白だ!!」
指をさす。
「ぁ!!そこも真っ白!!あそこ!!」
ぐるりと振り返った、その瞬間。
「うんうん。真っ白だよね」
声。
背後から。
「きゃぁぁ!!」
思いきり転ぶ。
音は出ない。
だが転んだ感覚だけはある。
「え!? え!? なに!? なに!?」
振り返る。
そこに立っていたのは――
あまりにも幼い少年だった。
白い空間の中で、
その存在だけが妙に“色”を持っている。
無邪気な笑顔。
「お姉さん、そんな格好してたら
お姉さんの真っ白なのが見えてるよ?」
「っ――!!」
ウルティアは慌てて黒いスカートを押さえる。
「な、なに言ってんのよ!!」
顔が真っ赤になる。
「あんた!! なに!?」
「なにって言われてもなぁ」
少年は首を傾げる。
「そうだねー……ニトって言えば伝わる?」
「ニト……?」
聞いたことがない。
警戒が一瞬で戻る。
「ニトってなによ……」
少年はくすっと笑う。
「レアリスのことはよく知ってるくせに、
僕のことは知らないなんて心外だなぁ」
その一言で、空気が変わる。
レアリス。
あの名を軽く口にできる存在。
ウルティアの警戒が、僅かに揺らぐ。
「……レアリスと関係あるの?」
「あるよ。かなりね」
にこり。
「それで?」
少年は無邪気に問いかける。
「君はどうしてここにいるのかなぁ?
解読の魔女ウルティア」
背筋が凍る。
「……っ」
自分の名。
しかも“解読の魔女”。
いまはもう持っていないはずの肩書き。
思わず一歩下がる。
「なんで……それを……」
「なんでって、そりゃあ――」
少年は白い世界を見渡す。
「ここに来る魂は、だいたい知ってるから」
軽い。
あまりにも軽い。
だがその存在は、この空間そのもののように馴染んでいる。
ウルティアは、ふと気づく。
自分は宝を探して歩いていた。
何かを見つけるために。
なのに。
見つかったのは――
自分だった。
白い世界の中で、
初めて“他者”と出会った瞬間。
ウルティアはようやく理解する。
ここには何もないのではない。
ここは――
何かを失った者が、
自分と向き合う場所なのだと。
そしてその入口に立っているのが、
ニトという少年だった。




