レイズの朝が遅い
レイズ達が朝を迎えた頃――。
その屋敷だけは、いつも通りの時間が流れていた。
……はずだった。
「ふぁぁぁ……」
今日のレイズの朝は、遅い。
まぶたが重い。
だが、不思議と身体は軽い。
「……え、いま……どれくらいだ?」
飛び起きる。
急いで身支度を整え、部屋を飛び出す。
その頃、レイバード邸の広間ではすでに声が響いていた。
「やっぱり起こしにいったほうが……」
心配そうに呟くのはリアノ。
「いつも誰よりも早く起きるのに……」
イザベルは苦笑する。
「いいのいいの。たまには寝坊するくらいが丁度いいのよ」
「パパはまだねてるのー?」
レイナが椅子の上で足をぶらぶらさせる。
「やはり心配です……」
やたら真剣な顔のクリス。
「私が昨夜……外していたばかりに……やはり心を痛めて――」
「それは関係ないかと」
即座にリアノが切る。
ジェーンが腕を組む。
「って言ってもガイルは馬車で待ってるんだろ? 放っといていいのかい?」
「わ、わたしガイル様の様子を……」
リリィがそわそわと立ち上がる。
「わーい! 私もガイルに会いに行く!」
アリスが飛び出そうとした瞬間。
がしっ。
ジェーンが首根っこを掴む。
「よしな。今はそう簡単に会うもんじゃないよ」
その声は、珍しく真面目だった。
ガイルが馬車にいる理由。
いまも魔法をかけ続けていること。
知らぬ者が近づいていい状態ではない。
「わたしが! 起こしてきます!」
やる気に満ち溢れたクリス。
「わ、わたしが……」
リアノも立ち上がる。
「だから放っといていいのに……」
イザベルは呆れ半分で肩をすくめた。
「彼が起きてきたら……みんなとはまたお別れになるのか」
ガルシアの低い声が落ちる。
イザベルは即答する。
「またすぐ会えるわよ!?」
その瞬間。
「……おはよう」
ひょこっと、寝癖のついたレイズが現れた。
全員の視線が集まる。
「……あ、来たわ主役の登場ね」
イザベルがにやりと笑う。
「レイズ様! その髪型は!!」
クリスが一歩前へ。
「もしや……覚醒されたのでは――」
「パパ髪の毛が! すごくへんだよ!?」
レイナが指差す。
「レイナのお父さん、なんだか強そうだね!」
アリスがきらきらと目を輝かせる。
「髪をとかしてきなさいよ」
ジェーン、冷静。
「そ、その……起こすのが遅くなり……ごめんなさい」
リアノがぺこりと頭を下げる。
「クリス……覚醒って……あれはどう見ても……」
イザベルが呆れる。
「ある意味覚醒はしたけどさ」
「わたしにはわかります」
クリスは真剣だ。
「いまのレイズ様なら誰も……勝つことは――」
「いや、あるだろ」
即否定。
「普通に勝てるだろ。朝から騒々しいな!」
しかし。
身体は妙に軽い。
頭も、冴えている。
「普通に寝坊したんだよ! なんか!! めちゃくちゃ眠ってた気がする!」
ぐっと拳を握る。
「頭がめっちゃしゃっきりする! なんだか力も漲って……」
「いつも寝てなさすぎなのよ」
イザベルがため息をつく。
リリィは、じっとレイズを見つめていた。
「……レイズ様?」
その視線は、少しだけ違う。
「え……そんなに髪型がすごいのか?」
「いえ……そういうわけでは……」
「寝起きのレイズを見れて嬉しいんだよ。察してあげな」
ジェーンが余計なことを言う。
「ち、違いますけど!?」
リリィが顔を真っ赤にする。
レイズは恐る恐る鏡へ向かう。
そこに映る自分。
髪が、中央だけぴんと逆立っている。
「……」
手で押さえる。
戻らない。
もう一度。
やっぱり戻らない。
「……」
少し角度を変えてみる。
意外と――
「……結構様になってないか?」
ぽつり。
後ろからジェーンの声。
「朝から自惚れかい」
「違うって!」
だが。
なぜだろう。
身体の奥に、確かな感覚がある。
なにかが整った。
なにかが、ひとつ噛み合った。
理由はわからない。
だが、確かに。
昨日までの自分とは、ほんの少し違う。
「……まぁいいか」
レイズは笑う。
「とりあえず朝飯だ。腹減った」
屋敷に笑いが広がる。
世界はまだ、静かだ。
だがその外では、
アビスが揺れ、
ジークが進み、
ニトが逸脱し、
魔女が彷徨う。
その中心にいる男は――
いま、寝癖を気にしていた。




