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【悪役転生 レイズの過去を知る 】―俺だけが知る結末を、今度こそ覆す―  作者: くりょ
新たな始まり

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近づいてきている何か

アルティナは、ゆらり、と魂を漂わせていた。


 重力のない空間。

 上も下も定まらず、光と闇の境界すら曖昧な場所。

 だが、不思議と“孤独”だけははっきりと輪郭を持っていた。


 ――ウル。


 呼びかけても、届くはずのない名。

 それでも、口にせずにはいられない。


「ディアブロの魂では……勝てなかった」


 言葉にすると、敗北が現実になる。


 あれほどの魂。

 濃く、深く、澱のように沈みながら、同時に鋭く研ぎ澄まされた核。


 自分の糸で絡め取り、制御できるはずだった。


 それが――


 またたく間に、逆に制圧された。


 魔女である自分が。


「……なぜ……?」


 魂の奥がざわめく。


 一体あの男は、なぜあんなにも簡単に、あの圧に屈したのか。

 いや、屈したのはディアブロではない。

 屈したのは、自分の計算だった。


 レアリス。

 ディアブロ。

 そして、あの深淵の圧。


 なぜ実在する?

 なぜ、この世界に現れている?


「……何が起きているの……」


 魔女として、世界の理を知っているつもりだった。

 だが、いま目の前にある現象は、その理をあざ笑うかのように存在している。


 足りない。


 圧倒的に足りない。


 強い魂が必要だ。

 ディアブロ以上の“核”。


 そしてそれを使役する器。


 魂だけでは意味がない。

 器だけでも足りない。

 両方が揃って、ようやく戦力になる。


 だが、そのどちらも手元にない。


 ウルの記憶を辿る。


 最も強く刻まれていた名。


 ガイル。


 規格外の男。

 底の見えない魂。

 世界を軽やかに踏み越える存在。


 そして、ディアブロ。


 さらに、クリスという男の娘。


 ――魔女の依代にできる。


 その事実だけは、確かにあった。


 だが、所在がわからない。


「どこにいけばいいの……?」


 追跡すれば見つかる?


 否。


 リリィは、自分を“視ている”。


 こちらが探れば、気づかれる。

 こちらが動けば、察知される。


 魔女の利点が、いまは足枷になる。


「……どうすればいいの」


 ジーク。


 その名が、浮かぶ。


 あの男なら、勝てるかもしれない。


 だが、ジークを使うには、なおさら強固な依代がいる。

 不完全な器では、逆に喰われる。


 前途多難。


 これ以上に相応しい言葉があるだろうか。


 計画を立てる必要がある。

 徹底的に。

 隙間なく。


 だが、そのために必要なのは情報。


 魔女にとって、情報は武器であり、盾であり、呼吸だ。


 そしていま、その情報が足りない。


 アルティナは、静かに思う。


 エルディナと二人で、集めるしかない。


 あの妹なら、動ける。

 あの妹なら、気づける。

 あの妹なら、裏をかける。


 ――そう信じている。


 だからこそ、アルティナは気づいていない。


 エルディナの内に芽生えている、別の意志を。


 魂は、静かに揺れた。


 長い旅路が始まっている。


 終わりの見えない、計算の旅。


 そして――


 聖国。


 山脈の向こう。


 一人の聖騎士が、異変を感じ取っていた。


「……向こう側からだ」


 グレンは目を閉じる。


 風が変わった。

 空気が削られるような感覚。


 魔力が、散っている。


 破壊ではない。

 爆発でもない。


 “奪われている”。


 それが、確実にこちらへ近づいている。


「どうやら……ここへ向かってきている」


 傍らのハルバルドが問う。


「敵なのでしょうか」


「まだ、わからない」


 グレンは即答しない。


 断定は、聖騎士の仕事ではない。


「だが……あまりにも奪っている」


 山の向こうに棲む魔物たち。

 その気配が、次々と消えている。


「奪う、ですか」


 ハルバルドの声が、わずかに低くなる。


「それは、見過ごすわけにはいきません」


 かつての彼なら、別の理由で剣を抜いたかもしれない。


 だがいまは違う。


「本当に、変わりましたね」


 グレンは柔らかく笑う。


 ハルバルドは首を振る。


「変わったのではありません」


「命をむやみに終わらせる行為が、誤りだと知っただけです」


 過去を理解した者の顔だった。


「だが……敵とは限らない」


「味方ではありません」


 ハルバルドは即座に返す。


「我ら聖国の教義と、あまりにもかけ離れています」


 グレンは山を見つめる。


「あの山には、グリフォンもフェルリルもいる」


「並の者では対面すらできない」


「それくらいなら、私でも対処できます」


「問題はそこではない」


 グレンの声が低くなる。


「それを“個”で、容赦なく行っている」


 沈黙。


「あれだけの魔力が散る光景を、私は一度しか見たことがない」


「……いつ、ですか」


 ハルバルドの問いに、グレンはわずかに笑った。


「ニト様が、一度だけ、それをなされた時だ」


 空気が変わる。


 ニト。


 大精霊。


 必要なときに、必要なことをする存在。


 それ以上の説明は不要だった。


 ハルバルドは、それ以上問わない。


 疑問を挟むなど、烏滸がましい。


 だがグレンは、肩をすくめる。


「もっとも、ニト様曰く」


「鬱陶しいから消した、とのことでしたが」


 ハルバルドは真顔で頷く。


「ニト様に鬱陶しいと思われる存在は、それだけで罪ですので」


 グレンは、短く笑う。


「違いない」


 だが、その笑みの奥にあるのは警戒だ。


 山の向こうで起きている現象は、


 あの“ニトの一度”と同種。


 それが、こちらへ向かっている。


 確認するしかない。


 理解できぬまま放置することは、聖国の選択ではない。


 グレンは装備を締め直し、

 山へと視線を向けた。


 ハルバルドもまた、静かに槍を握る。


 神話は、遠いはずだった。


 だが、確実に近づいている。


 その気配だけが、冷たく空気を震わせていた。

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たくさんの方に読んでいただき、本当にありがとうございます。 完結済の長編です。レイズたちの物語をぜひ最初から。
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