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【悪役転生 レイズの過去を知る 】―俺だけが知る結末を、今度こそ覆す―  作者: くりょ
新たな始まり

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それでも次の方針は決める必要が

その頃――。


レイズたちは馬車の中で、揺れに身を任せながら会話をしていた。


外は薄暗く、車輪が地面を刻む音だけが一定のリズムで響いている。

だが車内の空気は、決して落ち着いてはいなかった。


ガイルが、沈黙を裂くように問いかける。


「なぁ……これからどうするつもりなんだ?」


レイズは苦悩していた。

だが、考える暇がないわけではない。


――考えなければならない。


自分の身に起きていること。

魂の乾き。

得体の知れない変化。


そうした“個人の異変”など、今は後回しでいい。


次に起きる災いを想像しなくてはならない。


アルティナが酷く、自分たちを恨んでいる。

その恨みが何を呼ぶのか。

どれほどの災害が、どれほどの被害が起きるのか。


それを考えなければならない。


レイズは重たい口を開いた。


「……そうだな。まずは……みんなをアルバードに帰す」

「そしたら……まずはその子を弔う必要がある」


ガイルは小さく息を吐く。


「あぁ……それは分かってる」


クリスも頷いた。


「そうですね。一度しっかり体制を整えるべきかと」


レイズは首を振る。


「……ぁあ。でも、そういうことじゃないよな。ガイル」


ガイルの目が細くなる。


「あぁ。放っておけないだろ?」


レイズは短く息を吐く。


「ぁあ……だけど、アルティナがどこに向かってるのか……俺にも分からない」


視線を隣へ向ける。


「リリィ。アルティナはどこへ向かうか……分かるか?」


リリィは少し迷い、それでも静かに答えた。


「アルティナ様は……次の依代を急いで探すはずです」

「そしてその依代に……選ばれるのは……もしかしたら……」


その言葉を、クリスが引き取るように口を開く。


「……クリアナ、ですか?」


レイズは即座に否定した。


「それは……ないはずだ」


クリスは食い下がる。


「どうしてですか!? なぜ……ウルティアに……クリアナは悟られていました!」

「なら!! クリアナが!!」


レイズは、怒鳴らず、淡々と説明する。


「クリアナは……まだあまりにも幼い」

「いくら……クリスとディアナの血を継いで優秀でも……」

「依代として宿るには……魔女たちにもデメリットが大きすぎる」


クリスはなおも言う。


「ですが……潜むことはできるのでは?」


レイズは首を振った。


「ウルティアがいれば……それも全然起こり得る」

「でも……アルティナだけじゃそれはできないんだよ」


クリスは首をかしげる。


「それは……どうしてですか?」


レイズは、言葉を選ぶように続けた。


「ウルティアがいるから……解読ができる」

「その人物が、どんな立ち位置で、周りとどう関係を築いているか……分かる」


だが。


「そのウルティアがいないなら――」


レイズは少し間を置く。


「アルティナには、それが分からない」

「だから、クリアナに乗り移っても……クリアナを演じることなんてできない」

「誰かがすぐ気づく」


レイズは、クリスの目を見る。


「クリス。お前が……ディアナが、必ず気づくだろ?」


クリスは迷いなく答えた。


「はい……すぐに分かります」


レイズは頷く。


「だから……クリアナに宿れば、アルティナはすぐ俺たちにバレて」

「そしてリリィに……俺たちに還されるのがオチだ」


だからこそ。


「いくら感情的になったとしても……」

「アルティナにはそれを押し殺して、クリアナに成り切るなんて……今は到底無理だ」


クリスは理解した。

あそこまでの激情を抱えた存在が、無垢な子供を演じる。

その難易度がどれほど高いかを。


レイズは付け足すように言う。


「それに……クリアナは、もう安心してくれ。クリス」


クリスが眉を上げる。


「……安心、ですか?」


レイズは短く答えた。


「ぁあ。リリィがいる」

「昔お前たちに渡したアンクレット……まだあるだろ?」


クリスは息を呑む。


「死属性の加護が……レイズ様が授けてくださった……あれですね?」


レイズは冷静に言った。


「あれの詳しい作り方を知ってるのは……ヴィルと俺だけなんだけどな」

「リリィに教えるつもりだ」


リリィが目を見開く。


「わ……わたしに、ですか?」


レイズは頷く。


「ぁあ。それを知ることで……メモリアルストーンの、死属性の……とんでもない機能を理解することになる」

「そしてそこに、“プロテクションハート”って魔法を記憶させる」


レイズの声が低くなる。


「そのアンクレットをクリアナに渡せば……魔女の血縁であろうが」

「もう、その身体にアルティナが入り込むことなんて出来なくなる」


クリスは震える声で尋ねた。


「そ……それが、魔女の問題は大丈夫だと仰ってた……理由なのですか?」


レイズは短く頷く。


「ぁあ。本当はまだ後に教えるつもりだったけどな」

「急ぐ必要ができた」

「あまりにも……魔女が近くにいたからな」


クリスは深く頭を下げた。


「で、では……レイズ様!! リリィさん!! お願いします!!」


その光景を見て、ガイルが苛立ったように割って入る。


「おい……俺は……アルティナの行き先に心当たりがある」


レイズは即座に問う。


「ガイル……それはどこなんだ?」


ガイルは短く答える。


「砂漠だ」


そして少しだけ、昔を引きずり出すように言った。


「ウルティアは……初めて会ったとき、砂漠にいやがった」

「俺が起こした……水を引いたあれを、災害にさせないようにしたのはウルティアだった」


レイズは眉をひそめる。


「お前の……それを……ウルティアが止めてたのか……?」


ガイルは鼻で笑うように言った。


「あぁ。その時にあいつに興味を持たれたからな……」


レイズは続けて確認する。


「つまり……ウルティアたちは砂漠に住んでたって言いたいのか……?」


ガイルは頷く。


「あぁ。間違いないだろ」

「あそこには町があった。国があった」

「俺には理解できない言語を持ってるやつらがいる」


ガイルは遠い目をする。


「ウルティアも最初は何言ってるか分かんなかったからな」


そして結論を叩きつける。


「だけどよ……あそこしかねぇだろ」

「俺はなんとなく理解してる」

「こいつも……きっとその砂漠で、ウルティアに依代として選ばれて、ここまで来たんじゃねぇかってな」


レイズは、ガイルが抱えている少女を見る。


肌の質感。

ルルにどこか似た造形。


だが、一つだけ確信できることがある。


――人種が違う。


帝国でも。

王国でも。

そしてアルバードにも。


この少女の“同じ”はいない。


レイズはゆっくり呟く。


「……つまり……砂漠の国って、もしかしたら……魔女の国なのか……?」


リリィがそっと言葉を添える。


「もしかしたら……エルディナ様の……造り上げた国かもしれません……」

「私も、聞いたことはあります」

「エルディナ様は“繁栄の魔女”と呼ばれていて……」


レイズは短く頷く。


「ぁあ、知ってる」

「エルディナは……そんなやつだよな」


リリィは少し驚く。


「エルディナ様のことも知ってたんですね」


レイズは苦笑する。


「ぁあ……知ってるようで……ぜんぜん分かってなかったけどな……」


ガイルが、ぐっと声を低くする。


「だからよ……俺が行ってくる」

「俺はこのままにしておけねぇ」

「俺が必要なら……やつらを――」


レイズは即座に制止した。


「落ち着いてくれ、ガイル」

「お前……その国のやつらを皆殺しにするつもりだろ?」


ガイルは何も言わない。

沈黙が肯定のように揺れた。


レイズは真っ直ぐ言う。


「それは……やめてくれ」

「分かるだろ。魔女の血を継ぐ……それは確かにリスクも高い」

「けどな? その人たちは何も罪を犯していない」

「簡単に殺されていいわけがない」


ガイルは苛立つ。


「じゃぁどうすんだ?」

「このまま……クリスの娘みたいに……全員に渡せるのかよ?」


レイズは首を振る。


「それは……無理だな」


だが続ける。


「だけど、落ち着いて聞いてくれ。ガイル」

「まず……アルティナが宿る身体を見つけることができたら」

「それを生かしたまま捕らえる必要がある」


レイズは言い切った。


「魔女は……その宿り主が死なないかぎり、本来そこから抜け出せない」


リリィが確認する。


「本来……ですか?」


レイズは説明した。


「ぁあ。ウルティアは……俺とリリィで、身体を生かしたまま強制に剥がした」

「そういう例外を含めてって話だ」


リリィは頷く。


「そういうことです……ね」


ガイルが問う。


「じゃぁ……俺がそれを捕まえればいいのか?」


レイズは頷くが、そこで止める。


「ぁあ……だけど……俺たちじゃ、パッと見ただけで誰にアルティナが入り込んでるか見分けがつかないだろ?」


ガイルが歯噛みする。


「魂が見える目が必要ってことか……よ」


レイズは頷く。


「ぁあ。いま魂が見えるのは……たぶんだけどリリィしかいない」


リリィは慌てて付け足した。


「その……お伝え忘れていましたが……」

「クリス様のお兄様……グレサス様も……見えてました……」


クリスの顔色が変わる。


「な……それは……!」

「グレサスは……兄は大丈夫なのですか!?」


リリィはすぐ首を振った。


「だ、大丈夫です!」

「グレサス様に力を貸してくださってるのは……ルティー様ですから……」


レイズが低く呟く。


「ルティー……ルティーの魂も……グレサスにいるのか……」


リリィは頷く。


「は、はい」

「グレサス様は……その……愛の形があまりにも……」

「ルティー様の慈悲と……重なっていますから……」


クリスが、思わず問いを漏らす。


「なぜ……私にはそれがないのですか?」


リリィは困ったように言った。


「クリス様は、その……奥様を愛してらっしゃるのは分かります……」

「ですが……たぶん、レイズ様への愛も……深いので……」


ガイルが腹を抱える。


「クハハ!! クリスてめぇ!」

「レイズのこと愛してんのかよ? 男だぞ、レイズは!」


クリスは即座に切り捨てた。


「黙れ、ガイル」

「愛はディアナに注いでるに決まっている」

「レイズ様には……それに等しい忠誠を捧げてる」


そして、さらに言い切る。


「そもそもディアナと私が結ばれたのは……」

「レイズ様への絶対的な忠誠が……同じだったからだ」


レイズは戸惑う。


「クリスはともかく……ディアナがそこまで俺を……?」


クリスは断言する。


「はい。ディアナもまた……レイズ様を大切にしています」

「それは私に引けを取らないほどに」


レイズは苦笑した。


「そ……そうなのか」

「ディアナも確かにアルバードの大切な仲間だけど……」

「俺にそこまで特別な感情を向けてくれてるのは……ディアナやクリスだけじゃないか」


そして、ふと気づくように言う。


「それを言えば……みんなそうだったよな」


クリスが頷く。


「はい」

「アルバードに住む者は……皆等しくレイズ様を愛し……」

「なによりも大切にしていますので」


レイズは小さく笑う。


「ははは……嬉しいけどな……」

「そっか……俺に、か……」


だがレイズの表情は、沈んでいた。


ガイルが苛立つ。


「んなことより、どーすんだよ!?」


レイズは重く答える。


「ぁあ……ガイル」

「砂漠に行くのは……俺も行きたかった」

「けど……どうしても行けない理由がある」


ガイルは分かったように鼻で笑う。


「あぁ……まぁ、なんとなく分かるぜ?」


クリスが断固として言う。


「そもそもレイズ様を、そんな遠い地に送り込むなどありえませんから」


リリィが控えめに提案する。


「それでしたら……私がガイル様と……行きますか?」


レイズは即座に否定した。


「リリィ、それは……一番無理だ」


リリィが驚く。


「ど……どうしてですか? 私なら……還せます……よ?」


レイズは静かに言う。


「もしリリィに何か起きれば……それこそ、もうどうしようもなくなる」

「ガイルを信用してないわけじゃない」

「ガイルは最強だし、守ってくれるだろう」


だが、言葉を選ぶ。


「……だけどな。ガイルと二人旅する異性は……決まってる」


ガイルが即答する。


「あぁ……悪ぃが、俺はルルとしか二人旅はしないつもりだ」


クリスが皮肉を飛ばす。


「ジェーンと二人でレアリスのもとへ行こうとしたのにか?」


ガイルが噛みつく。


「はぁ? んなもん一日も経たねぇで終わる。日帰りだ」

「つーか旅じゃねぇ……送迎だけするつもりだったんだよ!」


レイズは冷静に返す。


「そこまで遠い地だ」

「少なくとも数十日……下手したら数ヶ月になる旅になるかもしれない」


ガイルが肩をすくめる。


「スカイドラゴンで行けば……往復で四、五日ってとこだな」

「距離的に言えば、だけどよ」


レイズは頷く。


「ぁあ。それができるのは、ガイルやスカイドラゴンみたいにタフな体力と肉体があるから可能だ」

「だけど、リリィには過酷すぎる旅になる」


さらに。


「それに……アルティナが最も警戒してるのはリリィだ」

「どんな手を使うか……もはや分からない」


ガイルも唸る。


「あぁ……悪ぃけど、俺もあの女からリリィを守りきる自信がねぇ」


そして、釘を刺すように言う。


「あと勘違いすんな、レイズ」


レイズが問う。


「……なにを、だ?」


ガイルは吐き捨てる。


「俺は……ルルを連れていくつもりもねぇ」


レイズは眉を寄せる。


「ルルが……可哀想じゃないのか?」


ガイルは笑う。


「クハハ……」

「ルルはちゃんと分かってる」

「俺がただ置いていくわけじゃねぇって」


少しだけ声が落ちる。


「……まぁ、今回の件が件だ」

「平和なら……どこへだってルルと旅はしてぇけどな」


レイズは小さく呟く。


「平和……か……そうだな……」


その沈黙を割るように、クリスが言い出す。


「では、ガイルと私が行きます」


ガイルは即答した。


「ぜってぇ嫌だ」


レイズも止める。


「クリス……クリアナのことを考えて……だろうけど」

「俺は魔力も魔法も使えない」

「だからクリスがアルバードにいなくなったら……俺は気付けない可能性がある」

「クリスもアルバードにいてくれなきゃ……流石に困る」


クリスは歯噛みする。


「ハッ。ですが……ガイルだけでは力不足かと」


ガイルが睨む。


「ぁ? てめぇ……なに言ってんだ」


クリスは冷静に返す。


「ガイルが弱いと言っているわけではない」

「むしろ同等だと評価してだ」

「ですがそれ以上に……アルティナという魔女は未知数だと言っている」


レイズは頷く。


「まぁ、その感覚は間違ってない」

「アルティナはアルティナ単体が強いわけじゃない」


レイズは淡々と説明する。


「使役する魂の質により、脅威はあまりにも大きく変化する」

「だけど……アルティナがもし“それ”が可能なら」

「すでに身体を乗っ取ってるはずなんだ」


「でも今は……それほどの依代が魔女たちに見つかってない」


リリィも頷く。


「はい……現時点でしたら」

「クリアナ様が可能性というなら、一番高いと思われます」


ガイルが思い出したように言う。


「そういや……ウルティアが言ってたな」

「俺との子を産めば……アルティナがなんたらとか……」


レイズは静かに結論づける。


「つまり、ウルティアが最初にガイルに興味を示した理由は」

「ガイルの強すぎる素質に惹かれた可能性が高い」

「だからこそ執着した……って思ってたんだけどな」


ガイルが眉を上げる。


「あ? なんだよ」


レイズは小さく呟く。


「ウルティアは……それ以外に」

「おまえに惚れてた可能性もあったよな」


ガイルは露骨に嫌そうな顔をする。


「はぁ……もうそれ言うな」

「それに無理だからよ」


レイズは軽く手を上げた。


「ぁあ……悪い」


リリィが不安そうに問う。


「それでは……ガイル様だけで……行かれるのですか……?」


レイズは頷く。


「そうだな」

「ガイル……お前ばかりに任せてすまない」

「頼めるか?」


ガイルは鼻で笑う。


「あぁ? 別にお前らの指示がなくても、俺はそのつもりだっただろうが」


レイズは、だからこそ言う。


「それでもだ」

「ガイル。約束はしてくれ」


そして、強く。


「砂漠の地の人々を……むやみに殺したりしないでくれ」


ガイルは短く答える。


「あぁ……分かってるよ」

「俺だって好きで殺しなんてしねぇよ」


レイズは小さく頷いた。


「ぁあ……それも知ってる……」

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たくさんの方に読んでいただき、本当にありがとうございます。 完結済の長編です。レイズたちの物語をぜひ最初から。
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